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植物系男子

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その13.5




古い友人からのSOSを受けて辿り着いた僕は、想像以上の事態に目を丸くした。
ベッドの上でぼうっと呆ける静雄と、その傍らでうずくまる臨也。これはヤバイ。前に見かけたときよりずっと酷くなってる。
その惨状に顔を顰めると、心配だからとついてきたセルティの足が止まった。
不思議に思い振り返れば、彼女はまるで鼻を覆うようにヘルメットの前に手を掲げている。そんなことをして意味があるのか甚だ疑問だけど、俺は素直に問いかけた。

「どうしたの?」
『臭い』

カタカタとPDAが音を立てる。

『酷い臭いだ』
「そう?全くなにも臭わないけど」

試しに、すんと鼻を鳴らすが何も臭わない。そういえば、以前静雄がうちに来たときもセルティは臭いとかひとり呟いていた。
彼女はキョロキョロと辺りを見渡すと、何かに気付いてずんずんと足を進めていく。黒い影を伸ばして掴んだものは、朱色の花が咲き乱れる随分大きなサボテンだった。

『こいつが臭い』

サボテンを球体となった影で覆い尽くしながらセルティは言う。その奇奇怪怪な臭気は置いといて、私は蹲る友達に声をかけた。

「臨也、大丈夫かい?」

臨也は自分から呼び出したくせに俺を睨みつける。酷い顔だと、僕は思う。

「あれのどこが大丈夫なのさ。喧嘩人形なんて言われたものだけど、喧嘩しないならただの人形だね。あぁそうだ、あれは人形だ」

はは、と声を上げる友人を尻目に、私はベッドで呆ける静雄を見た。

「静雄、元気かい?」
「あぁ。なんで手前らがここに来てんだ?」

意外にも会話は出来るようだ。驚きつつも、ちょっと失礼、なんて言って体温と脈を計る。
わかってたことだが、特に異常はない。頭に目立った外傷もない。となるとこれは精神的なものだろう。それは僕の専門外だった。

『このサボテンは、なんだ?』

無表情なままの静雄に、セルティが問いかける。文字を目で追った静雄は、買った、とだけ返した。
PDAの画面に、『どこ』まで打ったところで声がした。

「池袋で見かけたんだと。電磁波を吸収するサボテンの話なら聞いたことがあるけど、そいつは人の怒りを吸収するらしい。ちなみに俺は池袋中を調べたけれどそんなものを売っている店はなかった。更に言えば、そんな形状をしたサボテンはこの地球上のどこにも存在しない」

臨也が口早に捲くし立てる。どういうことだと、文字が告げる。

「言葉通りの意味さ。やけに成長するし勝手に花まで咲くし、気持ち悪いと思っていたけどやっぱりそいつが原因なの?こんなことならあのとき形が残らないくらい踏み潰しておけばよかった。ねぇ妖精さん。これはあんたと同じ類のものなのか?」

睨みつける臨也の迫力に気圧され、セルティの指が止まる。いくら友人とはいえ、彼女を脅すのは許さない。ふたりの間に入って、僕は指を立てた。

「ならこれは僕達がしばらく預かるよ」
『新羅…』

セルティが僅かに動揺の顔をみせる。彼女は僕が静雄の二の舞になることを恐れているのだろう。大丈夫だと、彼女を振り返る。

「一緒に居た臨也は何ともないだろう?まぁ、もし僕が無感情で無気力な男になったとしても君への愛だけは決して忘れないからね」

それでも何か言いたげな彼女は折れたように肩を下げ、わかったと打ち込んだ。

「というわけだ、臨也」
「あの気持ち悪い植物なんか二度と見たくないね」
「静雄を頼んだよ」

言えば、臨也の表情が変わった。凍りついたように固まる。可哀想にと、僕は思う。
今回のことで一番傷ついているのは恐らく臨也だ。彼は自分の知る由もなかった感情に気付かされ、感情を失った静雄に相手にもされない。
阿鼻叫喚。狂瀾怒涛。まるで地獄変相のような世界だろう。
私は臨也の肩を叩いた。

「あんな状態の静雄を放っておくわけにもいかないだろ?なんだかんだ言って昔から静雄と張り合えるのは君しかいないんだから」

言って玄関へと向かう。セルティは何の反応も示さない静雄に必死にPDAで言葉を送っていた。
起こるはずのない天変地異。果たしてこれが吉と出るか凶と出るか。
私はどちらでも構わなかった。ただセルティが悲しまなければ、それで。


作品名:植物系男子 作家名:ハゼロ