植物系男子
その7.5
珍しく鳴ったインターホンに、束の間のコーヒータイムを中断してはいはーいと椅子を立つ。
どちら様なんて訊くこともなくドアを開ける。そこに居たのは最近あまり話を聞かない友人だった。
「わぉ、どうしたの?」
折原臨也は見るからに顔面蒼白で汗だくで、顔が引き攣ったように笑みを浮かべている。何があっても動じない彼の、誰が見ても尋常じゃないその様子に、少なからず驚きを隠せなかった。
「新羅。もしかしたら僕は今からとても奇妙奇天烈で理解不可能なことを訊くかも知れない。だけどちゃんと答えて欲しいんだ。イエスかノー、はっきりと」
口早に捲くし立てる友人は、まるで死に際のように必死だった。
「いいよ」
一瞬目を丸くしたけれど、僕はにっこりと微笑む。臨也は少しだけ安堵したようで、意を決したように口を開いた。
「俺は今、ここに、いるかな?」
成る程、と私は溜飲をさげる。これは臨也お得意の哲学的な話ではなさそうだ。もっと単純な、そう、イエスかノーで答えるべき問いかけだ。
だから私は答えてやる。最低最悪な友人だけれど、そういう約束だからね。
「答えはもちろん、“イエス”だよ」
聞き届けた臨也はゆっくりと目を伏せた。
折原臨也から感謝の言葉を聞くのは、たぶんこれが最初で最後なのだろう。