みんなといっしょ!
8:怖いものはなくなった
「ね、乱太郎」
「何〜。三ちゃん」
「乱太郎の怖いものって何?」
「急にどうしたのさ」
「んー、急に聞きたくなった」
頭が痛いという三治郎に乱太郎が薬を調合して最後に膝枕をするのはいつものこと。三治郎の頭痛が酷くなったのは三年生のころ、ある時期になると頭痛がひどくなる。それを緩和するには乱太郎の薬と乱太郎自身が特効薬だといいはる三治郎がいて、乱太郎はそれを許可した。その時間だけは二人だけの時間となる。というか、他の人が入るこは基本何故か出来ない。
「そうだねぇ。怖いものか…」
三治郎の髪を梳き、考える。そして出た答えは。
「あのね、三ちゃん。私、怖いものはもうなくなってると思うんだ」
「…ないの?」
「うん。…人を殺すことも、何もかもが怖いとは思わなくなった。ただ、迷ってしまうことはあるけど」
「うん…」
「でも、怖いものはないけど、失いたくないものはたくさんあるんだよ?」
「失いたくないもの?」
「そう、私が失いたくないもの。それは皆。この学校で出会ったたくさんの人だよ。死んでほしくない」
「乱太郎」
「三ちゃんもそうなんだよ? は組は誰も失いたくない。い組もろ組もみーんな大好きなんだ。だから、失うことが一番怖いかも」
「そ…か」
乱太郎の言う言葉はいつも不思議で、自分の中にすっと入ってくる。どうして、そんなことを聞いたのか自分でもわからなかった。頭痛がするだけ、それも気を紛らわせるために聞いただけなのかもしれない。
「乱太郎」
「なぁに?」
「僕のこと好き?」
「うん、大好き」
乱太郎のことが大好き。は組のみんなも大好きだけれど、一番は乱太郎。でもそれは学園の誰もが思うこと。
「三ちゃんがいなくなるのは嫌だよ」
「僕だって、乱太郎がいなくなるのは絶対嫌だよ」
「そっか。なら私たちは相思相愛かな?」
「いいね。相思相愛で」
他愛もない言葉遊び。それが一番の魔法。乱太郎の手は薬の手。そして言葉は魔法の言葉。三治郎は身体を起こす。
「三ちゃん、もう大丈夫?」
「うん、大丈夫。乱太郎のおかげ」
「…もういっちゃうの?」
「ん?まだ行かないよ。行ったら、乱太郎が一人になっちゃうじゃない?」
「そっか」
蒲公英のように笑うキミ。
それが嬉しい。
「そうだね。乱太郎今度は僕の話聞いてよ。面白い、カラクリが出来たんだよ!」
「うん。聞かせて。三治郎」
まだまだ二人だけの時間は続きます。