みんなといっしょ!
9:ねぇ、覚えてる?
「懐かし…」
部屋を片づけていて三つけたものは黄色の鈴。小さな箱に大切に保管していたもの。
「…皆も持ってるんだよね」
それは一年の頃、しんべヱのパパさんに乱太郎が頼んだものだった。
は組だけではない。い組もろ組も全員が持っていた。そして先生達にも渡している。根付の紐の色は全員一緒。違うのは鈴の色。
それは乱太郎が選んだ色。楽しかった。全員の色を選ぶことが。
「でももう皆持ってないかなぁ…」
すでにもう六年だ。誰もが忘れているかもしれない。けれど、共有した想いでは自分の中にある。
「うん。でもそれでもいいか」
あの時、皆に渡した時の笑顔は忘れることは出来ない。
「そうだ、久しぶりにつけて歩こうかな」
乱太郎は笑いながら、長い髪を縛ってきる紐に鈴をつけた。
「皆、覚えていたらいいな」
そう思いながら、乱太郎は外へと出た。
リン リリリン
乱太郎が歩けば黄色の鈴がなる。そしてそれはまた乱太郎に似合っていた。
最初に出会ったのは、は組の担任の土井と山田。
「乱太郎?」
「お前、何をつけてるんだ」
「土井先生、山田先生。えへへ、これです」
乱太郎がくるりと向いて自分の結えている紐を指差す。そこには見覚えのある鈴。
「…これは」
「懐かしいものを付けているな」
「…わかるんですか?」
「お前から貰ったものだからな。ほら」
「私もな」
そういって、両担任が手の中から出したのは乱太郎が渡した鈴が手に乗っていた。
「…先生」
「さすがに音は忍者にとって致命的なものになってしまうからな。私たちのは少しだけ手を加えてしまったが」
「でも、嬉しかったからな。私も土井先生も肌身離さず持っている」
「そうですか! ありがとうございます」
乱太郎は持っていてくれることが一番嬉しかった。
「じゃあ、私は保健室に行きますね!」
「気をつけろよ?」
「はーい」
乱太郎が見えなくなってから、二人は笑いあう。
「…山田先生も待っていたんですね」
「土井先生もですな」
「多分、は組の皆も他の組の子も無くすことはないと思いますよ」
「そうでしょうな」
いつもいつも何かに巻き込まれ、周りを巻き込んでいた乱太郎。鈴は謝罪とお礼という意味。渡されたときそう言われた。誰も、そんなことは思ってはいなかったのに。
「宝物ですよね」
「宝物ですな」
二人は乱太郎がいなくなった空間を見つめていた。それはずっと優しく。
乱太郎は保健室へ来る前に同級生に声を色々と掛けられまくった。そして、その誰もが鈴のことを覚えていたことが嬉しかった。
「伏ちゃーん」
「乱太郎、どうしたの?」
「えへへ、嬉しいことがいっぱいあったんだ。だから、楽しいの」
「そうんだ? そんないいことばっかりだったの?」
「うん!」
満面の笑みの乱太郎に伏木蔵も一緒に笑う。ここまで機嫌がいいのは久しぶりだ。
「いいことってなあに?」
「ねぇ、覚えてるかな? この鈴のこと!」
そう言って、乱太郎の頭についてい鈴を指差した。
「あ…。これ」
そう、一年の時に乱太郎がくれた鈴に似ていた。
「伏ちゃんもわかる?」」
「当たり前だよ。乱太郎がくれたものだよ? 忘れる訳ないじゃない。僕もずっと大切に持ってるよ」
「そっか! 私ね、みんなが忘れてないこととか、持っててくれることが嬉しかったの」
乱太郎の笑い伏木蔵は思う。誰もが乱太郎からの鈴を大切に持っていた。それは知っている。だって、乱太郎がくれたものだから。先輩じゃなくて、僕ら同級生にくれたんだから。いつもいつも先輩達に乱太郎を取られているような気がしていたというのは、あのころの一年生全員の想い。けれど、乱太郎はちゃんと僕らをみてくれた。見ていてくれた。だから、僕らは乱太郎から貰った鈴を皆大切に持っているんだ。
「乱太郎」
「ん?」
「僕らね?」」
「うん」
「みんーな、キミが大好きだよ」
「私もみんなが大好きだよ!!」
二人でじゃれ合う。それが、楽しい。
それから、きり丸としんべヱが来て一緒にじゃれていたのはいつものこと。