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野沢 菜葉
野沢 菜葉
novelistID. 23587
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きらきら星 【前編】

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3
「そんなことよりさぁ~。栄口約束覚えてる?」

急に間延びした声に話しかけられて、ドキッとしながら声の方向をみる。

「CDだよー!聴こって言ってたじゃん!静かなところ移動しようよ。弁当食べながらでも聴けるしさ!」

「あ…うん。」
まだあまり対応できていないオレをよそに、着々と準備をし、オレの荷物まで持ち始めた。
さすがにオレも食べかけの弁当に蓋をし、袋にしまって立ち上がった。

「じゃあみんなまた後でね~!」
「おぅ。後でなぁ!」
「クソレ授業に遅れんなよ!」
「わかってるよ~。」

部屋を出て水谷の後をついていくと、少し離れた場所にあるベンチまで来て水谷は足を止めた。
「ここでいっか。」
「うっうん。」
2人して座って、水谷はカバンの中を探し始めたので、オレも残りの弁当に手をつけた。

正直助かったかも。あの場所に居たくなかったし、外の空気に触れて頭も冷えたみたいだ。
さっきのドロドロした感情が消えていく。

弁当の残りをを急いで食べて、ごみを袋にしまった。ふと、水谷をみるとちょうど目があった。
目が合うと、いつもの様にへにゃりと笑う。


どきっ


いつもと同じはずなのに、やさしい笑顔に何故か悲しいやら嬉しいやら、いろいろな感情があふれ出してきた…
このままじゃマズイと思って、同じように笑ってみせると、水谷は悲しそうな顔をした。

「…あのさ。ごめんね。」
ぽつりと呟いた言葉に、一瞬何を言っているのかわからなかった。
オレの反応で、それを悟ったのか、水谷は悲しそうに笑いながら続ける。

「俺さ、よくKYとか言われんじゃん。だから、人が言われたくないこととか言っちゃう時あって…。
 でも、傷つけたい訳じゃなくて…。あの…なんていうか……ごめんね。」
「…なんで水谷が謝るの??水谷は何もしてないじゃん。」

水谷はじーとオレをみると、すっと手をのばしてオレの頬を撫でた。
触れられた瞬間びっくりして引いてしまったが、思った以上に触れられているのが心地よくて、
そのまま身を任せた。

「俺が弁当の話した辺りからずっと辛そうだから。」









頭から頬へ…心地よい手の温もりが伝わってくる。顔をあげると優しく…だけど今は悲しそうな笑顔。

「俺バカだから、何でとかまだわからないけど、栄口に辛い思いさせるのは嫌だから…ごめんね。」
「ちっちがうよ!本当に水谷のせいじゃなくて…オレが悪いんだ。」
オレの言葉を聞いて、水谷の手が止まる。

水谷には言っても大丈夫かもしれない…いや、言わなきゃ。
オレは一回深く息を吐くと、なるべく笑顔で話し始めた。

「うちさ、母親亡くしてて、だからオレが弁当作ってて…」
話し始めるとピクッと水谷の手が動いたが、気にせず続けた。

「姉ちゃんいるけど、ほかの家事まかせっきりだから、弟もまだ小さいし…。
母親居ない生活も慣れたし、別に言ってもいいんだけど、変な空気になっちゃうのが嫌で言いにくかったんだ。
だから、水谷が悪いとかじゃないから。」
一気に話したので、ふぅと息を吐いた。恐る恐る頭をあげると、さっきより悲しさが無くなった優しい笑顔があった。

「ありがとう。栄口は優しいね。」
「…?」
「俺らのために、笑顔で接してくれて。
 でも、お母さんがいない生活に慣れたとか言わないで…俺の前では無理しないで。
 俺は栄口の辛さとかわからないけど、栄口に辛いの無理して話して欲しくない。」
「……っ」
「辛いなら辛いでいいよ。楽しい話なら本当に楽しく話そ。そのままの栄口全部受け止めるから。」



「だから、そんな辛そうに笑わないで……」