きらきら星 【前編】
5
「さかえぐち~!今日CD見て帰らない?」
「いーね!行く行く!!
あの1件があった後、はじめのうちはなんか気恥かしくて、近寄りにくかったけれど、
水谷は以前と変わらない態度で接してくれたので、自然と早く元の関係に戻れた。
…いや実際には「元の関係」とは言えないのかもしれない。
あの日からオレにとってのあいつが変わってしまった。
元々人と少し距離をおいて接してしまうオレだけど、水谷といると凄く楽で
甘えてしまう自分に気付いた。
甘えてしまうことは良くないことなのに…わかっているのに、やっぱり水谷のそばに居たいんだ。
…なんだろうこの気持ち。
「やっぱいいなぁ!アルバムもうすぐ出るんだよね!?買いたいけど、この間買ったばっかだからなぁ。」
いつものCDショップであれこれと試聴し、今は店の近くの段差に腰掛けて話をしている。
こういう、くだらない会話もすごく楽しくて、練習後の寄り道のオレの楽しみの1つだった。
ふと視線を感じて隣を見ると、水谷が真剣な顔でこちらを見ていた。
視線が交わると、思わずドキッとしてしまう。
えっ何!?
真剣な表情に思わずカッコイイと思ってしまい、顔が熱くなるのがわかる。
「栄口、ちょっと動かないでね…。」
そっと、水谷の手がオレの頬におかれた。
ドキドキが止まらない…。
そしてもう一方の手がオレの唇をなぞった時、オレはぎゅっと目を瞑った。
…キスされる…!?
そう思うと、スッと手が離れていったので、目を開けた。
いまいち状況が掴めないでいると、
「さっき飲んでたココアが口についてたよ!」
といつもの様にへにゃっと笑った。
……
今起こったことを、脳が処理すると、全身がぶぁっと熱くなった。
「そっそそっそろそろ帰ろっか!!」
オレは勢いよく立ち上がった。
「えっもうそんな時間!?てか、栄口なんか急いでる?」
「いっいや…実は今日早く帰らなきゃいけないの忘れてたんだ!ごめんね!!じゃあ、また明日!!」
何か水谷が言ったような気がしたが、振り向かずに自転車にまたがり、勢いよくこいだ。
…はぁはぁ
息が上がるくらいもうスピードでこいで
こいでこいで
この気持ちも全部吹き飛んだらいいのに
はぁ…はぁ…
わかってしまった。気づいてしまった。
心地がいい。甘えたい。一緒にいると嬉しい。
…ずっと一緒に居たい
…好きだから
好きだから目が合うだけで、ドキッとする。
好きだから触れられたところに熱を持つ。
好きだから触れたい…キスされたい……
キス…なんであんなこと思ったんだろう。
絶対あり得ないことなのに…望んでしまったんだ。
「…嘘だろ。」
オレは水谷を好きになってしまった。
作品名:きらきら星 【前編】 作家名:野沢 菜葉