きらきら星 【前編】
6
「…だるっ」
昨日はあんまり寝られなかった。
考えないようにすればするほど考えてしまう。
こんなの間違ってる…オレはちゃんと女のコに興味あったよな…。
だけど、やっぱり思い出すのはあの気の抜けた笑顔で…
昨日の触れられた記憶を思い出せばカァッと頬が熱くなるのがわかる。
答えはわかっているはずだけど、認めたくない。
このまま自分の気持ちに蓋をしてしまおうか…知らないふりしていようか。
「気づかなきゃ良かったのに…。」
オレの気持ちとは正反対に空には清々しい青空が広がっていた。
こんな状態だけど、練習はいつも通りできた。
むしろ考えなくて気持ち落ち着いた。
だけど、練習以外ではなんだか落ち着かなく、どうしても意識してしまっていた。
目が合うだけでドキドキしてしまい、前までどんな風に接していたか忘れてしまった。
だけど、同時にそんな自分が嫌で、この気持ちを認めたくなくて、否定するように水谷を避けるようになった。
一緒にお昼を食べるのも、一緒に帰るのも、その時の話の流れで約束していたことが多かったので、
話すきっかけを無くしてしまえば案外簡単に離れることが出来た。
ポジションは内野と外野だし、クラスは1組と7組とで離れているし…
普通に過ごしていれば、全然接点なんてないことに気がついた。
それなのに、あれだけ一緒に居たのって、実はすごいことなのかな。
こんなに仲良くなれる奴なんて、居ないかもしれない。
そばに居たいけど、今はそれが辛いんだ。
「…好きになってごめんね。」
オレはポツリと呟いた。
その日オレは鍵当番だったので、日誌を書きながら部室に1人残っていた。
「…ふぅ」
誰もいない部室で1人ため息をつく。もう何日しゃべってないんだろう。
あっちもオレが避けているのがわかっているのか、近づいて来なくなった。
「こういうところ、やたらと空気読めるんだよなぁ。」
そう呟いて、少し笑えた。
そういう水谷の優しさにオレは甘えたくなっちゃうんだよ。
最近水谷と話さない分、水谷のこと考えてるなぁと思ったら
1人恥ずかしくなって、慌てて日誌に集中した。
しばらくすると、ガチャっとドアが開く音がしたので、びっくりして顔をあげると、
そこには今一番会いたくて会いたくない人物が立っていた。
「みず…たに…?」
「…どうしたんだよ。なんか忘れもの?」
普段通りを心がけて接してみたが、水谷は悲しそうな、
でもそれを我慢しているような、何とも言えない表情で立っていた。
「あー、うん。ちょっと忘れ物しちゃって…」
えへへと髪を掻きながら、オレの近くに歩いてきた。
「まだみんなコンビニいるだろ?早く行けばまだ間に合うんじゃない?」
なるべく普通に返したつもりなのに、水谷はじーとオレを見てくる。
…オレその目弱いのに…。
「…良かった」。今日は普通だ。」
ポツリと言った言葉が妙に気になった。
「普通って何が?」
「栄口、最近俺のこと避けてるでしょ?だから、無視されたりしなくて良かったなって…
普通になら話していいんだなって思って…。」
ポツポツと話す言葉には、平気に装っているけど、とても辛そうだった。
ズキッと胸が痛む。オレがこんな風にさせてしまったのかな。
「俺さぁ。こんな感じだけど、実はここまで一緒に居た友達って栄口が初めてなんだよね。
一緒にいるとスゲー楽しくてさ…親友だと思っちゃって…」
親友って言葉が胸に刺さったけど、今はそんなこと関係ない。
オレだって、前まではちゃんと親友だった。
もし、逆の立場ならすごく辛いはずだ。
昨日まで仲良かった友達が急に避けだしたら傷つくよな…不安になるよな…。
なのに、こいつは今日までずっと我慢していてくれたんだ。
…オレがこんな気持ち持っちゃったから。
「…なんて。別にいいんだ!今の話はどうでもよくて……
ただ俺がなんかして怒ってるとかあれば言って欲しいなって。」
…違うよ水谷。怒ってなんかいない…一緒にいたいよ。
言葉にしたいのに喉につかえて出てこない。
「……。それだけ!別になんもなかったらいいんだ!! …じゃあ俺帰るね!!」
水谷は早口でそう言うと、クルッと後ろを向いて部屋から出ようとした。
行かないで!!
次の瞬間、オレは衝動的に水谷の腕を掴んだ。
「…!」
水谷が驚いているのがわかる。
だけど、オレはまだうまく言葉がみつからなくて、俯いたまま黙ってしまった。
きっと困ってる。だけど水谷は優しいからちゃんと待っててくれる。
ちゃんと言わなきゃ。
「…ごめん。」
だけど、やっぱりこれしか言葉が出てこない。
「…ごめん…みずたに」
お前のこと好きになって…
作品名:きらきら星 【前編】 作家名:野沢 菜葉