こらぼでほすと アッシー15
別荘に行った時も、ハイネから言われたことだ。アレルヤたちの情報を調べることはできないと釘も刺された。どの施設も、生体認証が必要だし、操るシステム自体にも、それが必要だから、制限をかけられてしまえば、どうにもならない。三蔵が、そんなことを知っていたのが、ロックオンには驚きだ。いつも、そちらには関与していないからだ。
「一々、熱くなるな。」
この男も曲がりなりにも、『吉祥富貴』に所属しているのだと、まざまざと突きつけられた気分だ。ロックオンたちが関わる事象には、自分たちの力は使えないと理解しているから動かないだけだ。ちゃんと情報は掴んでいるらしい。
「なあ、ロックオン。散歩する? 俺もついていっていい? 」
悟空が、三蔵のきつい言葉を和らげるように、声をかけた。刹那も腕をくいくいと引っ張っている。テレビから流れる情報は、真実とは限らない。ユニオンのこととなれば、なおさらだ。だが、知ったところで何もできないのだ。ぐるぐると思考が堂々巡りするので、これを断ち切る強力な刺激はないかと、ロックオンは考えた。散歩ぐらいでは納まりそうにない。
「三蔵さん、組み手の相手なんてお願いできますか? 」
「おう、いいぜ。」
二年以上そういうことをしていないので、どこまでできるか疑問だが、それで発散させてしまえば、気持ちも落ち着くだろう。坊主のほうも提案を呑んで立ち上がった。
手加減はしてやれるが、どうする? と、問われて、「なしで。」 と、返事したら鼻で笑われた。
「いいだろう。かかっこい。」
こういう時、寺の境内は、いい練習場所になる。広さも申し分ないし、外からは見えない。元々、ロックオンはスナイパーを生業にしていたから、格闘は上手いほうではない。マイスターになる時に、そちらもある程度、訓練されたから、軍人並には対応できるが、それも以前の話だ。坊主は、着流しで動きにくい格好で、腕組みなんかして立っている。というのに、打ち込む隙がない。
・・・・なんていうか・・・正攻法だと死ぬな・・・・
正攻法で正面からかかれば、確実にやられる。そうなると、長年培ってきた勘は、イレギュラーによる不意打ちなんてものを考える。さくっと一歩、砂利に足を進め、それを蹴り上げて、坊主の顔面あたりを狙う。その一瞬の隙をついて、殴りかかったが、簡単にかわされた。
「多少は勘が残ってるな? ママ。」
「まあ、長いことやってたからな。」
「けど、反応は遅い。」
そう、ニャッと笑った坊主が、すかさず足をロックオンの横腹に叩き込む。腕をかわして、その位置に入っていた。ただし、本気で蹴ってはいない。本気なら、ここでアバラが折れているし、内蔵もダメージを受けているところだが、そこまでのことはしなかった。
「ちっっ、いいとこ突いてくるな?」
「当たり前だ。武術と違って、喧嘩は一発で沈めるのが基本だ。」
急所をほんの少し外したところを蹴られた。手加減をされているのだと、それでわかる。蹴り自体は強烈だが、それも吹っ飛ぶほどの威力はない。
「組み手って俺は言ったんだけどさ? 」
「だから、立っていられるぐらいの威力にしてやってるだろ? 次はどうするんだ? 」
「あーなるほど。」
不意打ちは二回は使えないから、今度は取っ組み合う方向で腕を掴まえた。ここから、足払いをしかけようとしたら、逆に仕掛けられてひっくり返った。体重としては、自分のほうが重いはずなのだが、軽々とやられた。そのまま、坊主の足払いをしたが、軽く飛んで逃げられた。なぜ、雪駄で、あんなに動き回れるのか不思議だ。
何度かそうやって絡んでみたものの、ことごとく、ロックオンがやられる結果となった。それも、すぐに息が上がって動けなくなった。すかさず、悟空が回収して、本堂の前の階段に座らせる。
「今度は俺だ。」
ひーひーと親猫が階段に倒れこんだら、黒子猫が出てきた。悟空との組み手は、何度かやっている刹那は間合いの内に飛び込んでいく。リーチの問題は如何ともしがたいから、それなら多少の攻撃は覚悟して、飛び込むほうが得策と踏んだらしい。しかし、これも簡単に背後に飛び退かれる。
「そういや、こっちは実戦派だったな。ナイフ使ってもいいぞ? そのほうが、いい訓練になるだろ。」
「わかった。」
常備している小振りのナイフを取り出して、黒子猫は構える。それでも、坊主は動じない。もっと長剣が並ぶ場所でやりあった経験があるから気にならない。横になぎ払うように、黒子猫がナイフを使うが、寸前でかわされて、ケツに一発蹴りが入る。やっぱり、坊主は余裕だ。実戦で培われているはずの刹那でも、この坊主には敵わないらしい。ちっっと舌打ちして、数歩下がったが、今度は坊主が仕掛けてくる。蹴りを出しそうな体勢で近寄り、その足を両手で防御しようとした黒子猫の眉間に、マグナムが狙いを定めている。撃鉄を上げて、撃てる状態で静止した。
「よく生きてられたな? ちび。こんなもんは基本中の基本だぞ。」
フェイントをかけて、黒子猫の体勢を崩すやり方は、基本ではあるが、そこで、マグナムが待っているなんて、刹那も予想していなかった。だが、刹那も負けていない。向けられた銃身を掴んで、坊主の手を狙う。よしよし、と、微笑みつつ、坊主は一端、背後に退く。一対一の格闘ということなら、マイスターでは刹那が一番なのだが、それでも、長年修羅場を潜ってきた経験値では、坊主のほうが上だ。
それを少し離れた場所で、悟空とロックオンは観戦している。ロックオンは、まだ息が整わなくて、ひーひーと言っているので、その背中を悟空が擦っている。
「刹那、なかなか上手くなったよな。」
「・・そっそうか?・・・」
「後は射撃の命中率だと思うぜ、ママ。あいつ、そっちはあんまりだって自分で言ってたし。」
背後は任せる、と、刹那は射撃に関しては、ロックオン任せにしていたので、命中率は低い。そういや、そっちの訓練もしてもらわないといけないんだな、と、ロックオンも考えた。今は単独で行動しているのだから、誰にも頼れない。
「そうだった。・・・・三蔵さんに教えてもらえると助かるな。」
変革された世界の歪みを確かめるというなら、テロの現場にも赴くことになる。そういう時は、ナイフよりは銃のほうが役に立つはずだ。
「三蔵は、教えるのは下手だから、鷹さんかアスランがいいんじゃね? 」
「いや、三蔵さんのほうが、スパルタだからいいと思う。刹那は単独で動くんだから、それぐらいじゃないと。」
世界は変革されたが、テロも紛争もなくならない。新しい連邦は、力で統一していこうとしているから、その弊害も顕著に現れる。無差別テロなんて、やられるほうはたまったもんじゃない。何もわからないまま、巻き込まれた人間は死んで、残されたものは、その呆気なさに驚きと悲しみを募らせる。
「俺はさ、そういうのわかんないけど、死ぬのは命数が尽きた時だから、しょうがねぇーと思ってる。そこまで、とりあえず生きてるのが楽しけりゃいいかなって。たぶん、ママや刹那は、まだまだ命数があったから生きてんだよ。テロに遭った人は、そこまでの命数だったんだ。」
作品名:こらぼでほすと アッシー15 作家名:篠義