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監禁?軟禁?優しさですよ。

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 日中のちょっとした時間、正臣は居ない。
 帝人はつまらないのでパソコンを弄るのだが――。
(ちょっと、マズイかも)
 大体正臣の動きが分かっていたのでいる間にトイレも済ませて部屋に引きこもるように監禁されていたのだ。が、今回タイミングを見誤った。
(正臣が辛いの作るから)
 つい水分を多めに取ってしまった。
 ぐるぐると鳴るお腹に危機感を感じる。
 外で音がする。
「正臣ッ! ごめん、あの、ちょっと早く出してッ」
 切羽詰った声で扉を乱暴に叩く。
 驚いたような足音。
(え? 破壊音?)
 どちらにしても早く扉が開くのならそれに越したことはない。
「ありがとうッ! え、臨也さん?」
「俺が自由をプレゼぐほぉ」
 抱きついて来ていいよと言わんばかりに手を広げる情報屋を押し退ける。焦るばかりに肘鉄のような動作になってしまったことを内心で詫びながら急いでいるのだから仕方がないと帝人は思った。
 駆け出そうとしてつんのめる。
「なにするんですっ」
 臨也に手を掴まれて引き止められたことに帝人は悲鳴に近い声を上げた。安心したせいで限界が近い。
「いや、君達が何して」
「すみませんっ」
 帝人はテーブルに置かれていた林檎を臨也に投げる。
 軽く受け止められて逆に口の中に突っ込まれる。
「うぐっ」
「助けに来てあげた優しいお兄さんにそれはないんじゃないの?」
 口を林檎で塞ぎながら鼻を押さえられて帝人は苦しさに顔が赤くなってくる。
(優しいお兄さんはこんなことしないっていうか、トイレ……)
「あんた、何してんだ!」
 踏み荒らされた自宅に驚きの声を上げる正臣に「そっちこそ」と返す臨也に巻きつく影。
「運び屋? どういう繋がりだ」
『お前はいったい何をしてるんだ?』
「大丈夫か帝人?」
「ふっ」
「血がッ」
「歯周病?」
「あんたのせいだろうッ」
『……反省とかないのか』
 林檎を取りけほけほ咳き込みながら帝人は背中を撫でてくれる正臣を置いてトイレに駆け込んだ。
「あぁぁぁあ、あんた、帝人に何やったんだぁぁぁ!!!」
「それは、こっちの台詞」
 にらみ合う二人の間に空気の読まない来訪者。
「ヤッホー修羅場。やっぱりシズちゃん投入すべきだったわよ」
「いや、いやいや。控えてください! ギタギタのニャーですって。狩沢さんッッ」
「私が友達と共同で誕生日本を作ってあげるって言ってるのにー」
「いりませんからッ! 俺と杏里のスイートな日々でも書きつづってください」
「んもー、甘く爛れたくんずほぐれつをぐちゃぐちゃな日常を実録漫画するからみかプー貸してって言ってるのに」
「帝人の無事が保障できない場所への連れ出しは禁止です」
「保護者ー。横暴だー」
「幼馴染っすからねぇ」
 狩沢はブーブー言いながら手帳をバッと晒す。
「ほらほら!! ちゃんとサイモンからヤクザまで含めた『池袋オトコあみだ』よ!」
「危険しかないッ」
 正臣の声がひっくり返る。
「大丈夫っす、紀田君。俺は二次元にしか興味ないっすから。帝人君は二次元だと思うっすけど」
「危険しかないッ!」
「……なんなの?」
 セルティに問いかける臨也に戸惑いながらPDAに打ち込まれた文字は「帝人君の誕生日プレゼントの話だ」と。
「それと監禁がどういう関係」
「えー! 監禁? 監禁って??」
「いつから情報屋は人の家に勝手に入るようになったんですか? 土足で」
 また空気が少し硬くなる。
「臨也さん。ありがとうございました。突き飛ばしてすみません」
 トイレから戻ってきた帝人は臨也に頭を下げる。
 スッキリしたら余裕も戻ってくる。
「いや、いいけど」
「帝人、大丈夫か?」
「え? うん」
 正臣の焦りようを疑問に思いながら帝人は頷く。
「みなさんお久しぶりです」
「よし、じゃあ行きましょうか!」
「で、結局帝人君はバイクとワゴンどっちで行くんすか?」
「まだ聞いてないです」
 わいわい話す四人を尻目にセルティは「よく分からないがここは引いてくれ。晴れの日だ」と臨也に告げる。
「……わざわざ俺が動いてあげたのに」
 臨也は呟きながらも肩をすくめて玄関へと向かう。
「帝人君」
 ポケットから取り出したものを帝人へ投げつける。
 受け取ったのは正臣だが気にしないようで臨也は「あげる」とだけ言って去って行った。
 振り返ることもない。


「何くれたの?」
「塩クッキー?」
「ぶふっ。ハート型ッ」
「たまたまっしょ。たまたまっ」
 じゃないと怖いと遊馬崎は思った。
「臨也さん、優しいね」
「騙されてる! 帝人、お前それは騙されてるからッ!! 女の子からもらったのたまたま持ってたんだろ」
「わざわざくれた」
「そりゃ、誕生日だから」
 と口にしてから正臣は「しまった」という顔をする。
「今日って……」
「あぁ、そうだよ。二十一日……忘れてただろうからビックリドッキリ企画にしようと思ったのにッ」
『うちで皆で集まろうと思って、嫌だったか?』
「いいえ、ありがとうございます! 嬉しいです」
 荒れた部屋の片付けもそこそこに帝人はセルティの後ろに乗せてもらいながら移動した。
 狩沢が「下で待ってたシズちゃんが居ない。ぶふっ」と悶えて遊馬崎に押さえられていたことも知らない。