こらぼでほすと アッシー16
しばらく考えていた寺の坊主は、「ちゃんと、おまえが、その意図を説明するなら時期はいつでもいいだろうが、今はやめとけ。」 と、結論を出した。
「あいつも、戻れないことは理解してるんだ。テロ騒ぎがなかったら、いつでもよかったんだけろうが・・・・引導を渡すなら、きっちりとしてやれ。そのほうが、諦めもつく。」
再生治療をしても、治らなかった右目が、遺伝子治療で治る見込みがあるのかまでは、三蔵も知らないが、それでも、以前のような完全なものになるとは思えない。マイスターに戻るなら、マイスターであった時の状態に戻らなければならないわけだが、どう考えても、それには時間がかかる。治療して、遺伝子情報の異常を治してから、体力や筋力を以前の状態に戻すのだから、それは一年やそこらはかかるだろう。先日の組み手をして、三蔵も、ロックオンの身体から筋肉がごっそり抜け落ちていることは確認した。以前のように動こうとしても、それに見合う筋肉がないから、反応が鈍くなっていた。組み手の時も、それほど力は入れていなかったのに、それでも、青アザだらけになっていたのも、そういうことだ。
「俺は、もう戦わせたくないんだ。」
「はんっっ、あのな、ちび。おまえらを待ってるのも、神経戦としては、相当キツイものなんだぞ? 」
「わかっている。そちらは、これからも戦って欲しい。マイスターには戻らないで欲しいんだ。」
何度も何度も、刹那はロックオンに、そう告げている。絶対に無くしたくないのだ。親猫がいないと、ほっと息を抜ける場所がなくなって、自分が荒むことは予想できる。
「それは、あいつが決めることだ。おまえに決定権は無い。・・・・だが、名前を返上するっていうのなら、マイスターは降りるって意味ではあるだろう。動けるようなら、エージェントとしてでも、って、ドクターには直訴したらしいからな。おまえらとの縁は切りたくないんだ。」
何かできることを、と、ロックオンは、いつも考えている。刹那たちマイスターのためになることを手伝いたいのだ。今は無理でも将来的に、そういうことができるようなら、そちらのことをするつもりではある。それは酌んでやらないと、ロックオンも立つ瀬が無い。
「・・・・身体が完治するのなら・・・」
「まあ、そこだろうな。」
このままだと年々弱っていくのだから、復帰なんてものは到底、無理だ。治療方法は、まだ確立されていない。だから、次のマイスターの段取りも考えてくれた。
「わかった。次に戻った時にでも話す。・・・ちょっと本宅へ行って来る。」
「おう。」
今は時期が悪いので、刹那も話すのは次回にすることにした。次のマイスター候補のお膳立てしてくれたのは、ロックオンだ。ちゃんと、刹那が自分の考えていることを伝えて、名前を返上してもらうことは、決めている。三蔵のアドバイスで、告げる日を決めて立ち上がった。このテロで、事態は変った。キラからは、誕生日までは滞在しろと言われたが、この時期にしか行けない場所も出てくるので、それについて、今度はラボでキラと話すことにした。
ユニオンは、さすがにまずいだろう、と、アスランは刹那の相談に答えてくれる。それは、刹那も考えていた。
「人革連の北部のほうを、この時期に廻ろうかと考えている。」
「北部ってことは、ツンドラ地帯か? 」
「ああ、そこから南下するという方向で巡れば、人革連の深部に潜入できる。あそこは、カタロンもいないから、警戒も手薄なはずだ。」
人革連にも、カタロンの支部はあるらしいが、東南部の都市部にしかないし、規模も小さい。だから、今回のテロに関して警戒するとしても、そちらだけになるはずだ。その隙をついて、北部から西南部へのルートを辿れば、発見されることはない。
「刹那、ユニオンに行きたい? 」
刹那の説明を、システムを動かしながら聞いていたキラが、唐突に尋ねた。
「行って現状は確認したいと思っているが・・・」
「なら、エクシアを、ここに置いてなら大丈夫だ。ただし、単独行動は無理だけど。」
エクシアを使わないなら、こちらで偽造したパスポートで潜入は可能だ。ユニオンは広いから、テロのあった場所から離れたところへ入国して、そこから移動すれば、できないことはない、というのが、キラの提案だ。
「単独行動じゃないって、どうするつもりだ? キラ。」
「ん? ラクスのところへ合流してなら動けるよ? たぶん、ラクスは、追悼イベントで歌うだろ? 」
たまたま、会議で出かけてユニオンに滞在していた歌姫様は、テロから守られるために、今は軍の施設内にいる。そこへ、スタッフとして合流するなら、動けるだろうというのが、キラの考え方だ。ラクスのことだから、テロの現場で行なわれる追悼イベントには参加する。その時に、スタッフとして一緒に現場に行けば、かなり詳しいことは判るはずだ。
「それはダメだ、キラ。万が一、俺の素性がバレたら洒落にならない。」
キラの提案は、刹那に却下される。歌姫様のスタッフだからといって、ユニオンが素性を調べないとは思えない。その時に、不審に思われたら、歌姫に迷惑がかかる。
「俺も、それは勧めないな、キラ。ラクスのスタッフに加わるには、刹那は若すぎるだろ? それなら、刹那の言う人革連への遠征のほうが安全だ。」
「なんで? コーディネーター登録にすれば、刹那は立派な成人年齢だよ? アスラン。それに、あの惨状は見ておいたほうがいいと思う。人間が人間に仕掛ける場合の被害として一番大きいものだ。MS同士だと、被害はもっと大きいけど、生身同士のほうが凄惨だということは経験したほうがいいんじゃないの? 」
自分がやったことを追体験するのは大切なことだが、MSでの戦闘というのは規模は大きいが人的被害という点での怖さは少ない。基地丸ごと一個破壊しても、そこに死体の山はあっても消滅してしまっているからだ。生身の人間がやるのは、そのまま死体が残る。それが紛争というものだと実地見学しておくのは、刹那には必要ではないか、と、キラは考えていた。
「キラ、俺は、そういう体験はKPSAに所属していた頃に体験している。今更だ。自分で撃ち殺していたし、MSに仲間がたくさん殺された。そういうものは理解しているつもりだ。」
刹那は、それを小さい頃に体験している。それも狩られる側としてだ。だから、その悲惨さは、今更、追体験する必要はない。テロの現場と基地の位置関係、ユニオン市民の反応を直で確かめたかった。
「やっぱり、それなら追悼イベントに行くべきだよね? 」
「じゃあ、ラクスに尋ねてみるから、少し待ってくれ。」
アスランが、とりあえずと連絡をつけてくれた。コーディネーターとして経歴なんかを捏造するのは難しいんじゃないのか? と、刹那は思ったが、キラは、その問題はあっさりと、「問題ないよ。」 と、答えた。
「シン・アスカってことにすれば経歴作らなくてもいいもん。映像だけ刹那の顔に差し替えしちゃえばオッケーみたいな? それなら護衛が増えたってだけだもんね。」
「映像って・・・キラ。」
作品名:こらぼでほすと アッシー16 作家名:篠義