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ぐらにる 争奪1

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 割と、この保護者、自分のことには危機感がない。もし、これが立場が逆なら、早々に接触を断つように指図するはずだ。そういうことは、エージェントの仕事だと、もっともらしい理由もつけるだろう。だが、自分に対しては、そういうことを考えない。そういうもんじゃないだろう、と、刹那は内心で溜息をつく。あのエーカーの態度からして、あからさまなアプローチをかけているのは、明白だ。
「相手が悪い。」
「そうか? 俺は、ある企業から出向しているSEっていう設定なんだし、あっちが気付くとは思えねぇー。それなら、根掘り葉掘り聞き出すことは可能じゃないか? 」
「襲われたら、どうする? 」
「はあ? 刹那くん? 俺、男なんだけど? ・・・いや、まあ、そりゃな、そういうのもアリだけどさ。・・・さすがに、あれはなあ。」
 好みの問題が・・・とか、暢気に笑っているので、脱力した。八歳も年上だから、この保護者が、そういう遊びをしていることもあるだろう。だが、相手が悪すぎるし、是非とも止めてほしい。あの粘着気質は、ただごとではない。
「学習プランを変更してもらえ。」
「いや、別に大丈夫だって。・・・おまえさ、俺が、誰でもいいとか思ってるのか? 」
「そうはいってない。」
「お子様の刹那君には理解できないだろうけどさ。・・・そういう手もあることはあるんだぜ? 」
「あんたはエージェントじゃなくて、マイスターだろ。そういう仕事はしなくていい。それに、今は休養しろと言われているはずだ。」
 マイスターたちも怪我が治ってから、壊滅的な打撃を受けた組織を立て直すために、誰もが、自分の出来ることで働いている。だが、基本的に、マイスターには、その仕事は課せられている類のものではない。
 それなのに、やることがないのは退屈だ、と、この男は、イアンたちと共にドッグに詰めていた。まだ、設計段階で、MS本体は製作を開始していないが、トレミーに変わる艦は製作を開始されている。それの手伝いをして、さらに、宇宙食ばかりも味気ないだろうと、食事係をやって、他のマイスターたちの世話をして、と、心底貧乏性なので動きまくっていたわけで、うっかりと重力下での生活を三ヶ月ばかり忘れていたら、身体に変調を来たしたのだ。アレルヤやティエリアは、元々、宇宙に適するように人体を改造されているから問題はない。刹那のほうは、それこそ、当人は当人のことを無視しても、ロックオンが、地上への休息を定めて管理していたから無事だった。他の面々も、ロックオンについては、うっかり忘れていた。本来なら、組織の四人しかいないガンダムマイスターとして待遇は最上級のはずなのだが、雑用を、他の面々よりさっさとやりこなしているので、ついつい、その待遇を忘れられてしまうのも、彼の貧乏性ゆえのことだ。
「ロックオンの体調管理は、俺に任せてもらおう。」
 具合が悪くなったロックオンを心配したティエリアが名乗りをあげて、それで、地上へ下ろしたのだ。しばらくは、ただの1Gの負荷に、ひーひー言っていたから、アレルヤが介護していたほどだった。だから、ただいま、マイスターは、ロックオンの体調に敏感だ。ついでに、刹那としては、そんな訳の判らない変人と、厭々付き合うというなら、自分の世話をしてくれ、と、主張したい。過保護すぎる世話をされ続けている刹那にしてみれば、近くに居るのなら、こちらを優先してほしい。わざわざ、好みでもない相手と、そういうことをして欲しくないというのもあるし、その相手が徹底的に気に食わないヤツであることも、刹那の気分を悪くする。
「でもな、せっかくのカモだぞ? 暇つぶしも兼ねて、情報収集するなら楽なもんだ。」
 刹那相手だと空気を読まないので、まだ、こんなことを言っている辺りが、ロックオンも気は抜けているということだが、それでも、心配なのは心配だ。
「それは研究施設内でのことだな? 」
「まあ、そういうところだろうな。」
「了解した。」
 たぶん、何を言っても、子ども扱いされている刹那では、ロックオンは、あの変人との接触はやめないだろう。それならば、こちらから阻止するように動けばいい。ただし、面が割れている自分が、表立って動けない。
 ここは、ひとつ、ロックオンの体調管理の責任を担っているティエリアに動いてもらうしかない。
「刹那、デザートはプリンな。」
 きれいに料理を平らげた刹那に、冷蔵庫から、市販のプリンを取り出して、差し出しているロックオンに、「ああ。」 と、返事した。
「どうせなら泊まってくか? ボディーシャンプーとか、あるから、試しに使ってみろよ。そろそろ、そういう身の周りのお洒落も考えないとな。石鹸だと、ごわつくだろ? 」
「必要ない。」
「そう言うなって。別に、おまえのところへ常備しろ、とは言ってない。試して、よかったら、うちのを持っていけばいい。」
 生活全般に対する希望というのが、刹那には思い浮かばない。食べられて、雨露が凌げれば、ほぼ、良い生活というランクの人間だから、それ以上のことに関心がない。だが、それではいかんだろうというのが、ロックオンで、地上にいても、宇宙にいても、それなりの生活雑貨を用意して使わせるようにしている。最低限ではなくて、普通の生活レベルの人間が妥当だと思えるランクまで、刹那たち、マイスターの生活を引き上げる努力もしている。
「ティエリアの使っているやつか? 」
「いや、あれは直毛用。おまえは、硬い髪用だから、全然違う。匂いのあるのはイヤなんだろ? だから、無香料のやつだ。ああ、でも、ボディシャンプーはマリン系だけどな。」
 もちろん、アレルヤも、その洗礼には遭っていて、今は、自分の好みで揃えている。そんなものに興味がない、と、撥ね付けた刹那とティエリアは、今だに、ロックオンが用意するものを使っている。一息ついたら、はい、シャワー浴びてこい、と、バスタオルを渡されて風呂に追い立てられた。



 翌日、「メシ食ってけよ。」 と、声をかけられて飛び起きたら、スーツ姿のロックオンがいた。そろそろ時間だから、先に出る、と、そのままカバンを手にして出て行った。
 食卓には、ちゃんと朝食が用意されていて、それだけで、刹那としては幸せだ。ふらふらと、それに吸い寄せられて、はっと気付いて携帯端末を手にした。食べるよりも何よりも、先に連絡をしなければならない。さすがに普通通信はできないから、暗号通信で、事の詳細をメールで送った。すぐには返信しないだろうと思っていたら、ボイスオンリーながら、すぐに連絡が入った。たぶん、回線を、あっちこっち経由させて発信場所の特定はできないだろうが、それでも珍しいことだ。
「この内容は事実か? 」
「当たり前だ。おまえ相手に、冗談など言わない。」
「グラハム・エーカーについては、こちらでも調べる。・・・しかし、問題は俺たちも二週間ばかり動けないということだ。」
 まあ、確かに、今すぐ出てこられるということはない。あちらで作業をしていることを終わらせなければ、降りてくることはできないだろう。アレルヤは、十日ほど前に地上から昇ったばかりだから、尚更だ。
「殺るか、それとも、ロックオンを移動させるということなら、俺だけでも可能だ。」
作品名:ぐらにる 争奪1 作家名:篠義