こらぼでほすと 名前
組織のことに関与してもらわなくていい。そんなことは、これから自分でやればいいことだ。そんなことより、待っててもらうほうが、刹那には大切なことだ。まだ、これから先はある。どこまで自分がやれるのかわからないが、この約束があれば、帰ろうと努力はするだろう。組織のロックオン・ストラトスの許へ、ではなくて、おかんのニール・ディランディの許へ、だ。
「つまり、刹那はロックオン・ストラトスとしての俺ではなくて、ニール・ディランディの俺が必要だと言うんだな? 組織としての繋がりではなくて、親子の繋がりが欲しいんだな? 」
「ああ、そうだ。俺に必要なのは、おかんのニールだ。」
真面目に、とんでもないことを言った黒子猫は、じっと睨んでいる。いろいろと考えてくれたんだろうな、と、思うと、頬は緩む。卓袱台越しに、その頭を撫でた。わしゃわしゃと撫でると、黙っている。以前、刹那は地上で静観するのが、ロックオンが受ける罰だと言った。対して、刹那が受けるのは、一緒に居られないことだと言った。もちろん、その罰は、依然として生きていて、ロックオンは、ここから離れられないし、刹那も一緒に長いことは居られない。だが、精神的な繋がりとしては、刹那の言うほうが強くなる。それが欲しい、と、黒子猫は鳴いている。
「別に、呼び方なんて、どうでもいいけどな。ケジメとして、おまえさんが、そうしたいっていうなら、それでいいよ。ただし、俺からも約束してもらうぞ。刹那、俺が見ていてやるから、ちゃんと生きてろ。何があっても帰って来い。そうでないと、俺も待ってられないからな。」
組織が再始動するまでも、再始動してからも、刹那が生きていてくれれば、こちらも生きている必要がある。だから、それだけは約束させる。自分が死ねば、おかんも道連れだぞ、と、脅しておけば、どんなことがあっても生にしがみついてくれるはずだ。
「もちろんだ。あんたのところへ帰ってくる。約束する。」
テロリストの刹那・F・セイエイには、それしかない。過去に、全部、当人が破壊してしまった。テロリストとしては、それでいいのかもしれないが、人として、少しぐらい拠り所になるものは必要だ。それが欲しいなら、親猫は喜んでくれてやる。名前なんて、大したことじゃない。呼びたいなら、そう呼べばいい。ロックオン・ストラトスを返上するのは、以前から考えていたことだ。ただ、ちょっと思っていたのとは違う形になった。それなりに、黒子猫も成長しているらしい。それは嬉しい誤算でもあった。
「わかった。じゃあ、今から、俺はニール・ディランディ。それでいいか? 」
「ニール、お茶が飲みたい。」
大事な用件は終わったとばかりに、刹那はコップを持ち上げる。はいよ、と、親猫のほうも、それを取り上げてお茶を用意する。
ふたりして、静かにお茶を飲んでから、ユニオンについての話になった。大国の組織力を、まざまざと見せ付けられた刹那としては、敵対するであろうものの大きさが把握できた、と、最後に締め括った。追悼式典の規模も、警備の強固さも、自分たち組織にはできないものだったからだ。
「今回の視察については、ラクス・クラインに感謝している。俺では、あんな最深部までは侵入できない。」
「それはよかった。ラクスに礼は言ったか? 」
「ああ、言った。・・・・無差別テロは・・・やはり賛同できない。」
カタロンについては、伝えないつもりだったが、自分の気持ちは伝えた。カタロンの考えは理解できるが、それに巻き込まれる一般市民に対しては、テロリストとしても哀悼の意は感じる。
「・・・なあ、刹那。カタロンは、これで追い詰められるだろう。それで、カタロン側も犠牲が出る。それでもカタロンが再度、立ち上がってきて、CBが再始動した場合、それは叩くことになるのか? 」
何気なく尋ねられたことに、刹那は、はっとして詰まった。知っているとは思わなかった。
「なぜ、知っている。」
「マスメディアは、容赦なく公表しているから、俺の耳にも届くさ。」
「紛争根絶という観点でいけば、殲滅する対象にはなる。」
「うん。」
「だが、アローズも同時に、その対象になるだろう。彼らのほうが、罪は重い。・・・・今は静観するしかないが・・・俺は、そう考えている。世界の歪みは、まだ定まっていない。」
過渡期の現時点で裁断するのは難しい。アローズによって、歪みが減って平和になるなら、組織は動かない可能性もあるからだ。その場合、カタロンは早くに殲滅されてしまうだろう。それは、つまり、ニールの弟も巻き込まれることを意味する。
「ニール、あんたの弟のことは、キラたちにも伝えて保護を提案すればいい。」
「バカ、そんなことは必要ない。その覚悟があって参加しているヤツが大人しく保護なんかされるわけがないだろ? そういう気の遣い方はしなくていい。・・・・まあ、エージェントとして燻り出されない限りは問題ないさ。刹那、冷静に情勢は読め。世界の歪みが、どこから発生するのかは、ちゃんと見定めるんだ。カタロンの規模は、まだ小さいからな。歪みの原因としては僅かのものだ。これが増大するなら、武力介入の対象になる。そこに、俺の身内が居るからって、判断を間違うようなことはするなよ。それこそ、おまえまで歪みになるぞ。」
マイスター組リーダーとしての判断は公正で冷静なものでなければならない。実際、それらを確認している刹那が、カタロンを庇護するようになってはいけないから、ニールは戒める。たった一人残っている肉親だが、所属するカタロンが間違った方向に動くなら、そこは脱退できるだけの判断力は、弟にはあるだろうと願っている。
「あんたは、それでいいのか? 」
「ロックオン・ストラトスとしては、そう考える。」
「ニールは、どうなんだ? 」
「正直、ぞっとしないな。でも、俺は見ているのが仕事なんだろ? だから、おまえの判断に口は挟まない。」
「それぐらいは挟め。俺も、あんたの弟と戦うのはイヤだ。」
「うん、そうなんだけどな。でも、やりたい放題やられて、世界がおかしくなるなら・・・・その時は・・・・な、刹那。その時は頼む。」
可能性としては低い。カタロンの規模は、それほど大きなものではない。三大国家群を脅かすほどの軍事力は、カタロンにはない。だが、そういう流れになるのなら、それは殲滅すべき対象となる。認めておかなければ、刹那は迷う。だから、それにはキリをつけておく。そう、ニールが言ったら、卓袱台の向こう側から刹那は手を伸ばして、ニールの頬を軽く叩いた。
「あんたは嘘吐きだ。そんなことになる前に、俺が、あんたの弟を捕まえてくる。それでいいはずだ。」
アレルヤたちのロストだけで、あんなに寝込んだくせに、こんなことを言う。それが本気の気持ちかどうかは、刹那にだってわかる。そんなことになって欲しくないと内心で願っているのに、マイスターとしての正論を吐く。
「刹那、個人的なことなんてな。些細なことなんだ。」
「だが、その些細なことが必要なこともある。俺が、おかんのニールが必要なのも些細なことだ。あんたには、弟が生きてることも必要なことだ。そういう嘘はつかなくていい。もう、あんたの嘘は聞かない。本当はどうしたいんだ。」
作品名:こらぼでほすと 名前 作家名:篠義