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こらぼでほすと 名前

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「弟にも生きてて欲しい。」
「わかった。あんたの弟は、俺が守る。」
 きっぱりと、言い切った刹那に、ニールは微笑む。
「男前になってきたな。惚れそうだ。」
「あんたには三蔵さんが居るだろう。俺には愛情だけ注いでくれ。」
「はいはい、おかんの愛だけ注いでやる。」
 実際、守ると言っても難しいのは、どちらもわかっている。だが、それでも、きっぱりと言い切ってくれるのが刹那らしくて、ニールとしては嬉しい。どういうことになるのかわからないが、刹那の言葉だけ信じていようと思う。まあ、これだけ散々に危機感を煽ったら、そのうち、刹那は弟を組織へ引っ張ってくるだろう。別に、マイスターでなくてもいい。組織のほうへ確保してもらえれば、生存確率は確実に跳ね上がるから、それでいい。
「次は、どこを予定してるんだ? 」
「人革連の北西部から南西部の地域だ。こちらも、今なら入れると思う。」
「確かに、そこは最深部だな。気をつけて行け。」
「ああ、わかっている。」
 人革連は、広大な領土を誇っている国家群だ。経済の中心地は、特区よりにあるが、軍事関係は、その最深部にある。ファクトリーや演習場があるのも、その部分だから、普段は警戒が厳しい。今の時期なら、そちらの警戒よりも経済関係の地区のほうに重点が置かれているから、隠蔽皮膜を被ったエクシアが侵入できるだろうという読みだ。
「あそこには、地球で一番高い山岳地帯があるから、そこも拝んで来い。確か、そこに奇跡の湖と呼ばれてる景勝地があったはずだ。」
 もちろん、親猫は、それだけではない提案をする。レイから貰った写真集に、その場所は掲載されていた。たぶん、直に見ることができたら、美しいだろうと思う。そういうものも、刹那に体験して欲しいから、そう提案した。
「わかった。見てくる。証拠は必要か?」
「戻ったら、どんなだったか話してくれ。それだけでいい。」
 行けるかどうかはわからないから、証拠なんていらない。もし、行けたら、そこが実際は、どうなっているのか話してくれればいい。地球が美しい星だということも実感して欲しい。
「いつか、あんたを連れて行けるといいんだが。」
「まあ、それは終って、それでも、俺たちが贖罪を受けないでいられたらってことにしよう。少し横になれ。疲れただろ? 」
 刹那の食べ終えた食器を片付けて、親猫は立ち上がる。終らない仕事だが、いつか、世界から贖罪を求められることがあるかもしれない。そうなったら、刹那と一緒に、ニールも受けるつもりだ。それまでは生きている。そう、互いに約束した。だから、いつかの話は、夢物語でいい。




 騒ぎが大きかったから、さすがに、『吉祥富貴』に来る客は少ない。テロを警戒していたり、そのテロの対策を練っていたりで、客側も忙しいらしい。だから、ホストたちは、のんびりとしたものだ。
「ちびが、うちの女房の名前を呼びかえる。おまえらも追従しろ。」
 いつもなら、カウンターで、トダカ相手に飲んだくれている三蔵が、集まっていた面子に、そう申し渡した。おそらく、あの黒子猫は、この時に、それを提案しているだろう。だから、こちらも合わせるように、と、三蔵は考えた。
「僕らも聞いてるよ、三蔵さん。これから、ママは、ニール・ディランディって登録し直すようにって。」
 キラは、刹那から直に、その話を聞いていた。名前の登録が、全て、ロックオン・ストラトスになっているから、それを変更してくれ、と、依頼されたからだ。ニール・ディランディは実在の人物だから、それについての登録に直した方が、ニール自身も動きやすいだろうし、弟からのアプローチがあった場合も、すぐに判明する。
「それ、なんか意味あんのか? 」
 悟浄が、キラと三蔵に質問する。今更、名前なんて、なんでも一緒だろう、と、付け足した。
「刹那が、おかんとしてニールって呼びたいってだけだね。でも、僕も、賛成。ママには、もう、組織のことは関わらないで欲しいっていうのは、僕も刹那と同じ意見だし、年少組全体としても、そうだと思うんだけど? どう? 悟空。」
「うん、俺も、それでいいと思う。本物の名前のほうが、ママらしいって思う。」
「俺も、それ、賛成。別に、コードネームで呼ぶ必要はないじゃんか。なあ? レイ。」
「ああ、俺もいいと思う。」
 組織から外れて、『吉祥富貴』に居るのだから、コードネームでなくてもいい、と、いうのは、概ね納得の意見だ。組織の人間ではなくなって、ただの民間人だと、親猫が自分で認めているのだから、名前も民間人らしく本名を名乗ればいい。そのほうが、はっきりと区切りもつく。
「というか、おまえら、どうせ、『ママ』って呼ぶから関係ないっちゃーないよな? 」
 悟浄も、その提案には納得する。となりの女房も、同じように頷いている。別に、今更だが、そういうことも重要といえば重要だ。八戒は、所属が変った時に新しい名前を貰った。そこまでの人間だった自分と、そこからの人間ではない自分を区切るために必要だったからだ。
「僕は、経験がありますから、そうするほうがいいと思います。やはり、呼ばれる名前っていうのは、一種の言霊になるし戒めにもなりますからね。」
「うん、俺も、そう思う。」
 悟空も八戒の言葉に、微笑んで頷く。古い名前だが、悟空にも別の名前がある。だが、それで三蔵たちに呼ばれると、なんだかおかしな気分なのだ。それに、その名前で呼ばれている場合の悟空というのは、碌な状態ではない。記憶もブッ千切っていることが多いが、多少は覚えていて、なんで、あんなことするかなぁーと、自分でも落ち込むようなことばかりしているのだ。
「サル、そこで思い出して落ち込むな。あれはあれで最強の名前だぞ? 」
「けどよ、さんぞー。」
「俺は呼ばん。」
「わかってるけどさー。」
「まあまあ、悟空。いいじゃないですか。それは過去のことですよ。今は、悟空なんだから、それでいいんです。僕らも、それでしか呼びません。」
「うん。」
「いいじゃない、ごくー。僕だって酷いよ? 僕の名前っていうか、苗字なんて、勝手に変えられてるし、元の名前は、とんでもないんだから。」
「キラ、それ、とんでもないっていうより、知られると非常にマズイんだよ? 悟空、俺も偽名を使ってたことがある。誰だって、ひとつやふたつは持ってるもんだよ。」
 キラも、自分の実の親については、いろいろと言いたい事が山ほどある。なんてことしてくれるかなあーと思うが、さすがに、文句を言いたくても、現存してないから言えない。アスランも、あまりにも本名が有名すぎて、一時期は、偽名を使っていた。
「あ、ムウさんも使ってたよね? 」
「あれは、偽名っていうのと違うような気はするけどなあ。てか、鷹さん、そっちの記憶は全部残ってんのかな。」
 ラボに詰めている鷹も、一時期、名前も記憶も違うものを使っていた。ちゃんと元に戻ったから、いいようなものだが、あのままだったら迷惑極まりなかったに違いない。
「残ってると思うよ、シン。何にも言わないけどね。」
作品名:こらぼでほすと 名前 作家名:篠義