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こらぼでほすと 名前

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 偽名の時のことも鷹は、ちゃんと覚えている。シンとのことだって覚えてはいるが、どちらにとっても辛い記憶だから、鷹は、それについては口を噤んでいる。敵対していたもの同士のことなんて、今更、口にすることではない。
「・・・俺は偽名は使ったことないけどさ。アスランが使っていた意味は、今はわかってるつもりだ。」
「ありがとう、シン。いろいろとあったからなあ。」
「その節はすいません、キラさん、アスラン。」
 レイも苦笑しつつ、頭を下げる。敵味方入り乱れているので、過去には、いろいろとあった。今は、それについて、互いに話し合ったから、軋轢はないので、レイも軽く謝るぐらいのことだ。
「そして、結局、ここに居るんだから、それでいいじゃない? シン、レイ。僕らは、ちゃんと分かり合えたってことだもん。」
「そうですね、キラさん。あなたのことを知って、俺は世界は一筋縄ではないと理解したと思います。」
 『白い悪魔』と畏れられていた相手が、普段はのほほんとボケた人だと解って、レイは、俺はまだまだだ、と、深く感じ入ったものだ。そういう人が、あんなことするのだから、世界はよくわからないと思ったのだ。だから、ちゃんと、いろんな人間と接触して、自分の考えを持たなければ、と、決めた。だいたい、人外なんてものの存在があることも知らなかったのだから。
「ねぇ、悟空。明日から、ママは、ニールだ。」
「おう、そう呼ぼうぜ。登録とかいろいろと任せる。」
「了解。ラクスにも報せておかないとね。」
 だいたい、この面子の最たるところは、スーパーコーディネーターなキラと、斉天大聖な悟空が親友で、人外、人間なんて枠は取っ払われているところだと、アスラン以下周囲は微笑む。
「刹那が出かけたら、俺とレイも、そっちに顔出すよ、悟空。」
「うん、そうしてくれ、シン。たぶん、ママさ、落ち込むからなあ。」
「ゴールデンウィークは、何かやりませんか? キラさん。」
「うん、やろう。みんな、なんか考えて。」
 別に名前なんて、どうでもいい。けど、刹那が、そう望むなら、それでいいと思っている。大切なのは、刹那とニールが無事でいることだ。ゴールデンウィークは、店も休みだし、学生も休みだから、どこかへ出かけるか、何かイベントちっくなことでもやろうと、そちらの話で盛り上がる。世界は、これから統一されていく。そのことで、様々な騒ぎが起こるだろうが、それは静観する。こちらに敵対行為がなければ、こちらも動かない。だから、気楽にのんびりと遊ぶほうに、年少組は専念するつもりだ。
「キラさん、刹那のはひばスルーっていうーのは、ないんじゃない? 」
「うん、シン。それいいね。」
 どうやら、刹那のお祝いを、違う形で祝うイベントが行なわれるらしい。




 店が開店休業状態なので、三蔵たちも早めに、寺へ戻った。すでに、親猫と黒子猫はパジャマ姿だが起きていた。
「早かったですね。」
「客がいねぇーから引き上げてきた。おい、ちび。話はしたか? 」
 所持品を、ポケットから取り出して、親猫に渡しつつ、三蔵が尋ねると、「ああ。」 と、簡潔な答えが返ってきた。財布や携帯端末を、いつもの場所に置いている女房に、「ニール。」 と、声をかけると、びくっと驚かれた。
「はっはい。」
「今日から、おまえのことは、ニールと呼ぶ。いいな? 」
 なんで、そこでいい声で見つめるかなあーと、悟空はツッコミひとつだ。多少、酒は入っているが、今日は度を越していない。いい声で呼ばれて、親猫が、ちょっと頬を薄く紅色にしちゃってたりする。初々しい妻と、それを微笑ましく見ている亭主というシチュエーションに見えるから、怖い。
「まあ、俺の女房であることは変らん。」
「はい。・・あの・・・三蔵さん、もう聞いたんですか? 」
「ちびから相談されてたからな。ニールのほうが似合ってるぞ。」
 これは、三蔵の素直な感想なのだが、なぜか口説いてるモードに聞こえるのは、悟空の耳のせいではない筈だ。
「ママ、俺らも、今からニールって呼ぶから。名前の登録とかは、キラが変更しておくってさ。」
「早ぇーな、悟空。」
 今日のことなのに、すでに、周知徹底もされているらしい。久しぶりに、そちらで呼ばれると、親猫もドキドキする。長いこと、本当の名前を呼ばれていないからだ。
「ずっと前から考えてたんだってさ。で、うちの親父に、いつ言い出したらいいか、相談したんだって。だから。」
「うん、刹那から、そう言われたよ。・・・・なんか、久しぶりに呼ばれると気恥ずかしい。」
 その名前を呼んでいたのは、家族たちが多かった。その後は、闇稼業の時も実名は隠していたから、呼ばれるのは、本当に久しぶりだ。呼ばれることで変るものがある。だから、刹那は、ニールと呼びたいと言うのだろう。
「晩酌は? 」
「する。ちび、おまえも付き合え。ニール、おまえもだ。」
「おい、さんぞー。俺が抜けてるぞ。」
「てめぇーは最初から頭数に入ってるだろうが。」
 連れ子を伴った夫夫が、仲良く晩酌するなんていうのは、非常に微笑ましい光景なのだが、このふたり、そういう気分じゃないのに、そう見えるから、悟空には、ナチュラルに親父とおかんという雰囲気だ。刹那も、どうやら、同じ気分らしい。
「刹那は、いつ出発だ? 」
「エクシアの最終チェックが終ったら出る。三日もあれば終るはずだ。」
「それ、ラボに泊まりこみか? 」
「いや、出るまでは、こちらから日参するつもりだ。うちのおかんが五月蝿いからな。」
「違うだろ? ママが五月蝿いんじゃなくて、おまえが逢いたいってだけじゃん。」
 悟空のツッコミに、刹那も破顔して、「そうかもしれない。」 と、頷いた。ずっと一緒にはいられないから、時間が許す限りは、そうしたいというのが、刹那の正直な気持ちだ。


 刹那は、翌日から毎日、別荘へと出かけていく。悟空と同じように、弁当を携えている。どうせなら、ニールの弁当がいい、と、刹那がリクエストしたからだ。毎日、悟空の分は作っているから、ふたつ返事で、親猫もオッケーを出した。
 整備の最終チェックが終ったら、黒子猫は出かけてしまうから、それまでは、と、ニールのほうも、なるべく家庭的な味を用意している。最終整備は、思っていたより時間がかかった。三日して、ようやく終わりが見えたという報告は受けていた。
「今日のおやつは何? 」
 夕方にキラとアスランがやってきた。年少組は時間さえあれば、おやつを食べにやってくるので、ニールも気にしない。
「今日は、きつねうどんと海苔巻きだ。」
「おいしそーっっ。」
 食べる体勢で、キラが卓袱台に座り込むので、用意して、それを出す。アスランも礼を言いつつ、手を付ける。
「あのね、ママ。刹那は、明後日に出発なんだけど、ちょっとだけサプライズしたいんだ。いい? 」
「サプライズ? 」
 ちゅるちゅると、うどんを手繰り寄せつつキラが切り出す。いつも、パーティーめいたものしかしないので、たまには違う趣向を用意する。ちょうど、ラクスの一日限りのコンサートがあるので、それを鑑賞するなんてことにした。その後、コンサートの打ち上げがあるから、そこへ乱入して騒ごうということだと説明した。
作品名:こらぼでほすと 名前 作家名:篠義