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ぐらにる 争奪2

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 けっっというような横を向いた刹那だが、ちょっと嬉しそうな表情はしている。すっかり餌付けされているので、ロックオンのごはんが、隠れ家でも食べられるなら大歓迎だ。
「明日にでも、お戻りになってください。ですが、紅龍は、護衛につけますから、それは、ご了承くださいね、ロックオン。」
「いや、そこまでしてもらわなくても・・・」
「紅龍とラブラブな恋人という設定ですから、片時も離れてもらっては困ります。」
「ラブラブ? 」
「ええ、ラブラブです。・・・紅龍、もう一日、その設定でお願いします。」
「畏まりました、留美様。」
 俺の意見は無視ですか? というか、なんで、こんな大事になってるのさ? と、内心でツッコムものの、口にはできない。マイスターのくせに、余計なことを首を突っ込むからだ、と、刹那か、もしくは、王留美に袈裟懸けではっさり切られるだろうことは、予想できる。
 喉が渇いたという王留美の意見で、ルームサービスが頼まれた。さすが、セレブ御用達だけあって、速やかに用意されたらしく、十分と待たずに、部屋の呼び鈴が鳴る。
 紅龍が、それを受け取って、戻ってきた頃に、また、呼び鈴だ。それもピンポンラリーでもやるつもりかい、と、言うほどしつこい。
「これは・・・ストーカーではありませんか? 紅龍。」
 その騒がしさなんか無視して、王留美は優雅に、渡された紅茶を口に含む。そのようですね、と、紅龍も動揺していない。刹那に、オレンジジュースを渡しているし、刹那のほうも、とりあえず、ストローでちゅーと飲んで、「五月蝿い。」 と、感想を漏らした。

・・・俺、心臓に悪いんだけど・・・・

 とても用意された紅茶を飲む気分ではなくて、はあーと、盛大にロックオンは溜息を吐き出す。どうやって、セキュリティーを掻い潜ったのか、エーカーは、そこまで来ているのだ。
「出ないのかよ? 」
「まだ、です。ラブラブな恋人が、そんなに、すぐに対応できるはずがありません。・・・ああ、紅龍、あなた、少し着崩れてください。」
「そうですね。ロックオン、申し訳ありませんが、スーツの上を脱いで、ワイシャツもボタンを外していただけませんか? 」
「はいっっっ? 」
「俺がやってやる。」
「いや、刹那。それ・・・どあっっっっ、こらっっ。」
 刹那が、傍にやってきて、手早くスーツを脱がせる。ネクタイも外し、さっさかワイシャツのボタンも外してしまった。紅龍のほうも、スーツの上着は脱いで、こちらもワイシャツのボタンを外している。残りのSPたちは、王留美の飲み終わった茶器などを片付けて隠している。
「これは、やっぱり、廊下に散らばらしておくほうが効果的ですわね。」
 脱いだ上着とネクタイを手にして、嬉々として、部屋の入り口の廊下へ転々と落としていく王留美は楽しそうだ。さらに、どこから出してきたのか、真っ赤なバラの花束とか、洋酒の瓶とか、飲みかけを装った二つのグラスとかが、ソファの前のテーブルにセッティングされていく。いかにも、今から、やるところでした、という状況証拠を捏造しているのだ。

・・・なんで? あんたが、こういうことに詳しいんだよ、お嬢さん・・・

 仕上げとばかりに、紅龍が、自分とロックオンのベルトを抜き去って、無造作に床に置く。
「本来なら、バスローブのほうが効果的なんですけど、そこまでの時間はなかったということで。さあ、刹那、隠れますよ。」
「了解した。」
 王留美と刹那、SPたちは、そそくさとゲストルームらしい部屋へ隠れた。ワンフロアーが、一部屋という広大さだから、寝室もひとつではないし、撞球用の部屋だの、オーディオルームだのという部屋が、わんさかある。
「こんなものですかね? 」
 ひとつに纏めていた髪も、ばっさりと下ろして、紅龍が苦笑している。どちらも、確かに、たったいままで、いろいろとやってました、という格好にはなっている。もちろん、ピンポンラリーは継続中だ。
「はあ。」
「とりあえず、飛び込んでくると思います。ソファで、しどけないポーズでも、とっていただければ、よろしいかと。」
「しどけないって・・どんな? 」
「寝転んでいてください。」
「ああ、なるほど。」
 とりあえず、指示された通りに、ソファに寝転んだ。というか、ここまでやる必要があるか? とは思うのだが、ストーカー対策だと言われたら、従うしかない。では、扉を開けます、と、紅龍が廊下へ出た。

・・・別に大したことじゃないと思うんだけどな・・・・

 自分にとって、それほど大事をやらかそうとした自覚はない。ちょっと一夜を共にして、適当に情報を貰えばいいだろうぐらいのことだったはずだ。

・・・ティエリアのやつ、何を言ったんだろうな。後で、メール入れないと。・・・・・

 廊下の向こうでは、なんだか激しい口論が聞こえているが、それは、丸っと無視した。目の前には、真紅のバラがあって、その花びらを一枚毟って、匂いを嗅ぐ。香水のような濃厚な香りがして、これの似合う年上の女と、こういうことをやるなら楽しいんだけどなあーと、暢気に考えていたら、乱暴な足音が近づいて、視線を、そちらに戻した。
「姫っっ。」
 ものすごい形相のエーカーが近づいてくる。ある意味、身の危険を感じるほどの気迫だ。だが、一歩手前で立ち止まり、片膝をついて、恭しくピンクのバラの花束を差し出した。
「お? 」
「きみが無理矢理、拉致されたので救いに来た。さあ、私の手を取りたまえ。」
「へ? 」
「大丈夫か? 姫。クスリでも盛られたのか? 」
「はあ? 」
「状況すら把握できないほど、混乱しているのか。・・それでは、仕方がない。私の許で看病してあげねばなるまいな。」
「・・・・・・」
「さあ、姫。怖がらなくても、最愛の恋人が助けに来た。私だ。グラハム・エーカー、その人だ。」

・・・いや、おまえ・・・・眼がイッちゃってるぞ? エーカー・・・・

 どこに、そんな展開があったのか、どういう誤解をしているのか、かなり、とんでもないことになっているらしいエーカーの脳みそを、ロックオンは真剣に憐れんだ。手にしていた真紅の花びらを取り上げて、その代わりとでも言うように、自分が持ち込んだピンクの花びらを握らせているのが、どういう意味なのかもわからない。

・・・とりあえず、逃げたほうがいいか・・・・

 そろそろと起き上がって、ソファの背を飛び越えようとして、背後から抱きつかれたのだが、すぐに、それは離れて行った。振り返ると、紅龍が、頭から水浸しの状態で苦笑している。
「油断しました。遅くなってすまない、マイスウィートハニー。」
「あ、え? 」
「いきなり水をかけられて視界を奪われたんです。大丈夫ですか? 大切な人。」
「・・ああ・・うん・・・」
 細身の紅龍だが、拳法の達人である。エーカーぐらいなら簡単に投げられるらしい。ソファの向こうの床には、エーカーが転がっている。だが、すぐに復活してきた。
「やってくれるな、この盗人がっっ。私の姫を拉致するとは何事だっっ。」
作品名:ぐらにる 争奪2 作家名:篠義