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かぐたんのぷちぷち☆ふぁんたじぃ劇場Q2

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【9】かぐずきん

昔々あるところに かぐずきん というでろべっぴん☆な美少女がおりました。
その日かぐずきんは、スナツクのま……美魔女まっだーむ★の言いつけで、森の奥の研究所で根を詰めている先生に後藤様印のかすていらとおれんじかるぺすを届ける途中でした。
腕に下げたかごの中から、焼きたてかすていらのほかほかいいにおいがします。……ほんのちょびっと、味見だけ、何度もそう思っているうちにかすていらはすでに九分九割かぐずきんの胃袋の中でした。
さすがにまずいと思ったかぐずきんは、研究所への道の途中のお花畑に座り込み、おみやげの花を摘んでいました。
めずらしい花を持っていくと、先生はとても喜ぶのです。かすていら消失の件も、きっとチャラになるでしょう。
と、お花畑のかぐずきんの横を、森に住んでいる銀色の毛皮の着ぐるみおおかみしゃんが脇目もふらず走り抜けていきました。かぐずきんは「んっ?」とおもいました。こんなところにこんなでろべっぴん☆美少女が無防備に花を摘んでいますのに何シカトしてやがんだ、と、行き過ぎたはずのおおかみが急ブレーキで戻ってきてかぐずきんに言いました。
「オイ、その花一輪よこせ、」
おおかみはとても人にものを頼むときの態度とは思えない、横柄な口の利き方をしました。
「……」
かぐずきんはじろりとおおかみを睨みつけました。
「イヤある」
――つーいっ! かぐずきんはそっぽを向きました。おおかみは舌打ちすると、目についた足元の花をいっぽんブチッと引き抜いて、またもやたーっと駆けていきました。
(……。)
やれやれ、かぐずきんは息をつき、それからしばらく時間をかけてかごいっぱい山盛りの花を摘みました。
♪フンフフンフ、鼻歌まじりにかごを下げて森の研究所の前まで来たところで、かぐずきんははたと足を止めました。ずいぶん前に花畑で行き別れたはずのおおかみが、ドアのあたりでうろうろしていたのです。あんまりぎゅうっと握っていたのか、手にしたさっきの花はややしおれかけていました。
――何だアイツ、かぐずきんはふしんに思いました。
木陰に隠れてしばらく様子を窺っているうちに、どうにものどが渇いてきましたので、かすていらばかりでなく、結局おれんじかるぺすのびんの方も空にしてしまいました。
まぁ、あとで謝れば先生は許してくれるだろう、かぐずきんの予測は楽観的でした。まっだーむからの差し入れのかすていらもかるぺすも、届けたところで結局はいつもかぐずきんがひとりで飲んで食ってしまっているのです。問題は先生にブツを見せるまでもたせられるか、ということにかかっているのだ、というのがかぐずきんなりの解釈でした。そしてその原則こそがまさしく肝だったわけですが、かぐずきんは己がやらかした事の重大さにまだ気付いていませんでした。
「……」
うろうろしていたおおかみは、意を決したように研究所の扉を叩き、建物に入って行きました。かぐずきんは木陰を離れ、そーっと窓枠の下から伸び上がって中の様子をデバガメしてみました。
張り付いたガラスの向こうで、緊張気味に突っ立ったおおかみが、机の前に座った先生の薄い色の髪に、さっきのしおれかけた花を挿してやっているところでした。先生は耳元に軽く手を触れると、おおかみを見上げて笑いました。かぐずきんの位置からは、おおかみの後ろ姿しか見えません。それでも背中がむず痒くなるような、いたたまれないこそばゆさだけは十分すぎるほど伝わってきました。
(……。)
――なんだかなー、窓枠の下に座り込んでかぐずきんは思いました。突入するにはすっかりタイミングを失ってしまった格好です。かぐずきんはかごの中に手を突っ込んでのこりのかすていらをがっつこうとしましたが、もはやかすていらくずしかてのひらにのっかってきませんでした。
難しい顔をしているかぐずきんの前を、なんちゃってろしあ製のえーけーを担いだマタギ……マ夕゛オのおっちゃんが通りがかりました。
「どーしたんだいおじょうちゃん?」
マ夕゛オのおっちゃんの陽気な問いかけに、しゃがみこんだまま顎をしゃくってかぐずきんはぼそりと言いました。
「……先生が、天パのおおかみに食べられそーになってるアル」
「えっそれは大変じゃないか!」
えーけー担いだおっちゃんのグラサンがギラリと光りました。おっちゃんがその勢いのまま今にも踏み込もうとしたところに、かぐずきんがひょいと足を出しましたので、
――ビターーーン!!!
おっちゃんは派手にぶっこけました。表の音に気付いたのか、研究所のドアががちゃりと開いて先生が顔を出しました。長い髪の耳元を飾ってあの花が揺れていました。
「……どうしたのですか?」
窓の下に座り込んでいるかぐずきんを見て先生が言いました。おおかみは先生のうしろにいつもの眠そーなカオでぬぼーっと突っ立っていました。
「せっ、先生ご無事でしたかっ」
這いつくばっていた地面から起き上がってマ夕゛オのおっちゃんが言いました。
「えっ」
先生が驚いたようにマ夕゛オのおっちゃんを見ました。ズレたグラサンと、よれよれの半纏の裾を直しておっちゃんが言いました。
「……いやね、先生が悪いおおかみに食べられそうになってるってこのおじょうちゃんが言うもんだから」
「!!」
おおかみはたちまちさーっと青くなったり赤くなったり白くなったりしながらかぐずきんを睨みつけました。
かぐずきんはしらばっくれてひゅーとかすれた口笛を吹きました。先生が小袖の袂で口元を覆ってくすりと笑いました。
「すみませんお騒がせしちゃって、この通り私は大丈夫です」
「そっ、そーですか?」
だったらいいんですけど、間が悪そうに髭面を掻いておっちゃんが言いました。ご心配おかけしたお詫びにと、先生はかぐずきんが持っていたかごを受け取って、丸ごとおっちゃんに差し出そうとしました。
「……あっイヤえーっと、」
かぐずきんは少々慌てました。
「?」
先生はかごを覆っていた布を取りました。お花畑の花はぎっしり入っていましたが、その下のかすていらとかるぺすのびんは空っぽでした。
「……イヤイヤ、いーんですよお礼なんて、」
おっちゃんが恐縮したように顔の前で手を振りました。ですが、――そういうわけには、先生があんまり申し訳なさそうにしているのを見て取りますと、トレードマークの黒いアイウェアがキラーンと抜け目なく光りました。
「じゃあ、その空きびんだけでも貰って帰りましょうかね、」
低姿勢に後ろ頭を掻きつつおっちゃんは言いました。でぽじっと制度が適用されていますので、さかやとかすーぱーに持っていけば、いくばくかの小銭が手に入るはずです。かようにナリはくたびれ果てていても、さすがはマ夕゛オさん、目の付け所がタイトだと先生は内心密かに感服しました。
両肩にえーけーとかるぺすの空きびん担いだおっちゃんが揚々と行ってしまいますと、先生がくるりとかぐたんを振り向きました。