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かぐたんのぷちぷち☆ふぁんたじぃ劇場Q2

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【11】ガチでリアルな方(仮)

「……本当は今でもわからないんです」
橋の袂で川辺の風を受け、遠い目をして先生が言った。
「他にもっとやり方があったんじゃないかって、最後の最後であの子に甘えて、余計な荷物背負わせてしまっただけかもしれないって」
「そーでもないんじゃないですか」
欄干に手を掛けて、俯き加減に聞いていたロンゲのにーちゃんが軽い笑い混じりに返した。顔を上げて、やや意外そうな表情を浮かべる先生の方を見る。
「傍から見る限り、結構軽そうに担いでますよ」
「え」
先生が驚いた顔をした。にーちゃんはやっぱり笑って、それからふっと短い息を吐いた。
「まっそりゃアイツだからだろーなーって、俺だったらとっくにツブれてるかもしんないですけど」
「――、」
風に撒かれる髪を押さえて、先生がくすりと静かに笑った。
「勝手なものですね」
「……」
川の流れに目をやってにーちゃんは黙って聞いていた。独り言のように先生は続けた。
「案外軽そうだと言われて安堵してみたり、だけどやっぱり重いのかもしれないって、それでまた溜飲を下げてみたり」

「……って、いきなりそんなガチの昔話されてもこっちゃヘビすぎてどーゆー空気醸せばいーのかわからないアル」
二人の真ん中で聞いていたかぐたんがすこんぶ片手にしかめっ面で言いました。
「えっウソまじでこーゆーんじゃないの?」
欄干を掴んで振り向いたロンゲのにーちゃんがボケでなく真顔で言いました。
「どうやら趣旨を捉え違えていたようですね、」
先生が苦笑いしました。
「……。」
どーしたモンだか、これと言ってテキトーなオチも見当たらないし、間を持て余した三人の周りにびみょーな空気が流れました。
そこへ、♪フンフフンフ、鼻歌歌いながらツーステップでぱっつん師匠が現れました。
「どーしたんですかっ?」
その場スキップをしながら明るく師匠が訊ねました。
「……そーゆーオマエがいちばんどーかしてるっちゃしてるアル、」
仏頂面のままかぐたんがぼそりと言いました。ロンゲのにーちゃんも先生も、口元にはははと乾いた薄笑いを張り付けていました。
「?」
三人のややよそよそしい視線にも、師匠は眼鏡を傾けただけでぜんぜん堪えていない様子でした。
(……。)
――ああ、エア充ってオソロシイ、かぐたんは思いました。
師匠はもう、かぐたんがよく知る以前の師匠ではないのです。さんざ非リアをこじらせたあげく、思っきり針が振り切れて、DISK2以降もエア●スが存在しているアッチの世界の住人になってしまったのです。師匠の控えめな造作にマッチしたクラシカルベーシックフレームのレンズ越しに映る世界は、いまや八方お花畑のエフェクト満載、例え眼鏡を外したところで多少お花の輪郭がぶれる程度の、それは醒めない夢でした。
「じゃっボクいろいろ忙しーんでっ!」
――しゅた! ぱっつん師匠は陽気に手を上げると、♪フンフフンフ、来たときと同じツーステップの軽やかな足取りで去って行きました。
「まぁ、そういう意味じゃ私もエ●リスみたいなモンですからねぇ……」
師匠の後ろ姿を見送って、先生がしみじみ言いました。
物理法則を超えて私がこっちに出ずっぱっているために、どっかしら時空に歪みが生じたんではなかろーか、その狭間にうっかり取り込まれてしまったのだとしたら彼には大変申し訳ないことをした、というようなことを先生はつらつら述べました。××とか×××とか、ちょいちょい挟んでくる横文字の専門用語にかぐたんは頭がぐらぐらしました。ロンゲのにーちゃんも腕組みしてしきりと頷いてはいましたが、実際はおそらく話半分でした。
置いてけぼりの二人をよそに、柳並木の橋の上ですっかり興の乗った先生の熱い宇宙哲学談義はえんえんと続くのでした……、オチてないけど強制終了♪


【12】三匹のよろずや

昔々あるところに三匹のよろずやがいました。
ひとりは天パで甘党、ひとりはチャイナですこんぶ好き、そしてもうひとりは黒髪眼鏡少年でした。
三人は同じ敷地の同じ家に住んでいましたが、それぞれ独立させて三倍の家賃をせしめたいと目論む大家のまっだーむ★は、ある日集金に訪れた折に、いかにも親切心を装って彼らに言いました。
「……どーだいアンタら、土地は余ってんだし、隣の敷地に新しい家建てて、それぞれ独立すればプライバシーも保てるよ」
「なっなるほど!」
眼鏡少年は食いつきましたが、あとの二人は「えー」メンドくさいからとあいかーらずグダグダだらだらしていました。
(……。)
まだむとしては当てが外れた格好でしたが、――仕方ないね、とりあえず二倍になるだけでもマシか、敷地の半分を区切って眼鏡少年に借地権を与えることにしました。
仮契約を済ますと、眼鏡少年はさっそくその日からコツコツ自分の家づくりに励みました。
それまで三人で暮らしていたところに天パのアラサーおっさんとアルアル少女、二人だけが取り残されてしまうと、次第に住環境が変わってきました。二人とも徹底してダラダラしているので、クオリティ・オブ・ライフ、すなわち生活の質は目に見えて落ちました。部屋の掃除も空気清浄器のフィルタ交換をするものも、この家にはもう誰もいません。
完全に澱んだゴミ屋敷として朽ちるまでここで粘るか、諦めて隣の敷地に自力で新しい家を建てるか、互いに牽制しあって勝者のない不毛のチキンレースが始まりました。
やがて二人の精神状態が限界を迎えんとした頃、ついに眼鏡少年の新宅が完成しました。
そうれとばかり二人とも枕とおふとんを持ってそちらにひっこしました。結局元の通りの三人暮らしです。
「何でですかっ!」
温厚な(?)眼鏡少年といえど、これにはさすがにブチキレました。
「ンな冷てぇこと言うなよ、おまえだけが頼りなんだよ」「アル」
「……えっ」
ヨレヨレのおっさんと少女に哀れっぽく拝み倒されて、――まーそこまで頼られちゃあな、眼鏡少年は眼鏡をクイッとやってまんざらでもない様子でした。生まれついての苦労性、おさんどん運の星回りなのでした。
新しい契約書と集金袋を持ってやって来たまっだーむは、ゴミ屋敷の惨状を見て仰天しました。さんざん脅したりすかしたりして、連中に汚部屋をきっちり片付けさせるのはえらい手間でした。
まったく人間目先の欲掻くとろくな目に遭わないね、てゆーかこれから商売をするときはよくよく相手を見極めてからにしよう、今さらながらに強く認識を改めるまっだーむなのでした。おしまい♪