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こらぼでほすと 一撃1

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「さあ? 俺は、あんたの残高までは知りませんよ、三蔵さん。」

「なら、なんで家庭菜園なんだ? 」

 ずらりと植えられているのは、食用ばかりだ。これが花なら気にならないが、これだけ食用を植えられると、マイノリティー驀進の坊主でも気になる。

「俺の暇つぶしが主目的で、本命はきゅうりです。」

「きゅうりぃ? 」

 如雨露で水をやっている女房のほうは、朗らかに笑って振り向いた。

「たまたま、ハイネと植木のコーナーも見てて、あんたの夏の定番を思い出したんですよ。新鮮なきゅうりのほうがおいしいでしょ? 」

「俺はカッパじゃねぇーぞ? 」

「でも、夏はきゅうりの入った炭酸割りばっかり飲んでるじゃないですか。メロンソーダ割りになるとかなんとか言って。」

 昨年、寺に滞在していたニールに、きゅうり入りサワーを作らせていたから、そういうことになっているらしい。これは、メロンソーダみたいな香りと味になって美味いと説明したのは坊主のほうだ。

「よく、そんなくだらねぇーことを覚えていやがるな。」

「毎日作ってましたからね。そろそろ、暑くなるから入用でしょ? きゅうりは手をかけなくても実るらしいです。他のは、どうかわからないですけどね。」

 五月はいいのだ。問題は、六月。この時期は、寺の女房には世話が出来ない。世話しなくても実るなら、梅雨明けに戻って来た時に収穫できるだろうとういう心積もりらしい。

「トマトは荒地で栽培できるから、放置しても実るはずだ。枝豆はどうかわからんな。」

「そうですか。枝豆は、悟空も好きだから期待してたんだけどなあ。」

「サルが水遣りぐらいはしてくれる。おまえが、さっさと戻ってくればいいだけだ。」

「はいはい、そうしたいのは山々ですが、こればっかりはね。まあ、早めに戻れる努力はします。」

 天候によって、戻れる時期も変わるから、当人が早く戻りたくても、ドクターの許可がなければ戻れない。どっちもわかっているから、言っているだけだ。

「難儀な体質だな? うちの女房は。」

「はははは・・・・すいませんねーオールシーズン対応の女房じゃなくて。」

「しょうがねぇーそれぐらいの欠陥がなけりゃ、おまえみたいな世話好き女房なんて、うちには来ねぇーんだろーよ。」

「あんたは、見た目がゴージャスすぎて、相手が言い出せないのが多そうだけどなあ。」

「バカ言え、おまえこそ、その性格じゃなきゃ、引く手数多だろーぜ? 」

 どっちも、見た目はいいのだ。ただ、中身がマイノリティー驀進鬼畜腐れ坊主と、世話好き貧乏性おかんなので、ギャップが激しすぎてモテないなんてことになっている。



・・・・・おまえら、どっちもどっちだよ・・・・・・



 その会話を廊下から眺めていたハイネは内心でツッコミだ。なぜか、ナチュラルに夫婦な会話で、さすがにツッコミするより観察するほうをハイネは選んだ。なんていうか、ここんちの寺の夫婦、そういう気は微塵もないのに、すっかりどっちも互いに気を許しているらしい。そりゃもう観ているほうが清清しいくらいに夫婦のノリだ。

 ホームセンターで、チェックした安売り品をカートに確保して、それからぶらぶらと散策していたら、ニールのほうが園芸売り場へと足を進めた。

「暇つぶしに、きゅうりでも栽培してみようかと思うんだ。」

 と、寺の女房はおっしゃって、苗を買ったのだ。それって、亭主に新鮮なのを食わせてやろうという意図なわけで、ナチュラルに、そんなこと考えるのが、ニールらしいといえばらしい。で、亭主のほうも、それがわかって内心、とっても喜んでいるのだ。水遣りする女房の横で、たばこを燻らして、くだらないことを会話している坊主は、目尻に皺を寄せているし、女房のほうも、それを知りつつ微笑んでいる。そこだけ観ていると、仲睦まじい夫婦にしか見えない。



・・・・まあ、ちびニャンのことから意識が離れたほうがいいからな・・・・・



 女房の連れ子が世界放浪の旅に出てしまったから、しばらくは寂しそうにしていたので、それから違うことに考えが向いたのなら、それはハイネも安堵する。あんまり気にすると眠れなくなってしまうから、それよりは庭仕事でもして疲れて寝てくれるほうが安心だからだ。

「何してんの? うちの親父とおかん。」

 悟空が学校から帰ってきて、ハイネの後ろに立った。そこから庭を眺めて尋ねてくる。

「おまえらのために、ママニャンがきゅうりとかトマトの栽培を始めたんだよ。それで、三蔵さんが喜んでるってとこ。」

「へぇー、マメだなあ。うちのママは。」

「愛されてるよなあーおまえらは。」

「何言ってんだか、ハイネも、うちのママに愛されてるだろ? 間男なんだからさ。」

「押しかけ間男だぜ? 俺は。」

「でも、ちゃんとハイネの食事も準備してくれてるじゃねぇーか。いつ帰ってくるかわかんないのに、ハイネの分もあるんだぜ? 」

「そうなのか? 」

「気付いてなかったのかよ? ひでぇーな。焼き魚とか単品メニューも、ちゃんとあるだろ? それに、布団だって脇部屋に置いてるじゃんか。あれもハイネのだろ。」

 煮物なんかは大量に製作されているが、焼き魚、煮魚なんかは人数分しか作らない。確かに唐突に帰っても、そういうものも出てくる。余分に用意しているのだろうと思っていたが、そういうことらしい。

「あれ、余分じゃないのか? 」

「余分だけど、その場では食わせてもらえないから、たぶん、ハイネが遅く帰ってきてもいいように、だと思う。」

 残っているから、と、悟空が食べようとしたら止められた。もしかしたら、誰か来るかもしれないから、と、ニールは言うからだ。ハイネは、仕事の都合で急にラボに出向くこともあるし、唐突に偵察というか出張なんてものもある。独り者遊撃隊だから、予定はあってないようなものだ。時間が空けば、寺へ戻るが、それも時間はわからないなんてことになっている。遅く顔を出しても、何かしら用意して食べさせてくれるのは、ちゃんと、それも考えて用意されているとは思っていなかった。

「ますます、俺が女房に欲しくなるぜ。」

「それはやめろ。ママは三蔵の女房だ。うちの親父も、ママがいないと不機嫌になるかんな。」

「はははは・・・・そうだな。」

 背後で、そう言い合っていたら、坊主のほうが気付いて女房に声をかける。今日は、ウィークデーで出勤だから、軽く食事して出かけなければならない。

「おかえり、悟空。」

「ただいま。おやつ、何?」

「今日は、手抜きでホットサンドとトリから。トマトとか植えてたんだ。それでな。」

「じゃあ、カップめんも食ってく。」

「はいはい、用意するから待っててくれ。三蔵さん、晩酌は?」

「今日は、メシくれ。なんか小腹が空いた。」

「はいはい、ハイネは?」

「俺は、悟空の分をパクる。」

「いや、パクらなくてもあるよ。」

 じゃあ、食べて出勤しましょう、と、女房は台所へ行く。手伝うよ、と、坊主の連れ子も、そちらについていく。残るのは、亭主と間男だ。これといって会話することもないから、ふたりして居間に入る。
作品名:こらぼでほすと 一撃1 作家名:篠義