こらぼでほすと 一撃1
一国の国家元首様が、ほいほいと予定変更して、寺へ遊びに来られるはずがない。勝手な暴走なら止めるべきだろうと、ニールは怒鳴るのだが、「忙しいが問題ないぞ。私には影武者がいるからな。」 と、返答して来た。つまり、カガリが勝手をするので、キラが身代わりになってくれるらしい。
「あのな、カガリ。いい加減、とりかえばやはやめてやれ。」
「あはははは・・・・ママは心配性だな。まだまだ見破られる心配はない。それに、私はフェルトと初対面なんだ。親交を深めたい。」
「あれ? そうだったか? 」
「ああ、私は逢ってないんだ。ラクスが、自慢していたんでな、私も逢いたくなった。」
自分たちより若くて大戦に巻き込まれているフェルトに、カガリも逢いたかった。まだ、これから、さらに巻き込まれていくのなら、それまでに逢って力づけたかったのだ。何があっても諦めてはいけない。とにかく、前を向いて歩いて行け、と、そう伝えたかった。そうしないと、何も始まらないし終わらないことを、自分も歌姫も体験したからだ。それに、重苦しい思い出でないものも、フェルトに与えてやりたいとも考えている。誰だって、楽しい思い出は必要だ。そのために逢いたいんだ、と、カガリが説明すると、親猫も口調を和らげた。
「うちの子、世間知らずだから、いろいろと教えてやってくれ。」
カガリの意図は、とても有難いものだ。本来なら、ニールがしてやりたいのだが、そこまでできない。代わって体験させてくれるのが、少し年上のカガリやラクスなら、ニールが差せるより楽しく体験させてくれるだろう。
「まかせてくれ。ということだから、寺で一泊して翌日に、オーヴに入る。」
「わかったよ。なんかリクエストは? 」
「キムチチャーハンかビビンバ。あとはまかせた。」
一国の国家元首様だが、食べたいものは庶民的だ。これぐらいなら、ニールでも作れる範囲なので、「あいよ。」 と、二つ返事で引き受けた。
軌道エレベーターから乗り換えの飛行機は、とても混んでいた。どうにか、直通便のエコノミーを確保したのだが、チェックインすると、なぜだか、ファーストクラスに変更されていて驚いた。アフリカからの移動だから、ゆったりした席は有難かった。だが、ファーストクラスの値段は、エコノミー三倍以上だ。キラの好意だろうが、ちょっと気になる。なんせ、親猫の貧乏性丸出しの教育を受けているものだから、そういう贅沢が悪いことだと思ってしまうからだ。
とりあえず、お礼は言うが、今後はやるな、と、注意しようと思っていたら、無事に特区のエアポートに到着した。アライバルゲートを抜けたところに、悟空が待っていた。
「おかえり、フェルト。」
「ただいま、悟空。」
挨拶は、こう決まっている。親猫のとこに帰るんだから、と、ティエリアからも言われた。で、悟空の横に見知らぬ女性だ。
「ほんとに可愛いなあ。初めまして、フェルト。キラの姉でカガリだ。」
「姉? 」
「そう双子のな。キラは私の用事で迎えに来れなかったんだ。座席は変更しておいたが、ゆっくりできたか? 」
おまえか、と、フェルトが睨む。キラがやったんだろうと思っていたら、キラの姉だったらしい。
「ゆっくりした。でも、次回からは変更しないで。」
「どうしてだ? おまえみたいな可愛い子が、ひとりで、エコノミーの窮屈な席なんて危ないぞ? 細かいことは気にしなくていい。とりあえず、寺へ帰ろう。おまえのおかんがクビを長くして待ってる。」
キラも大概に会話が成立しないが、姉のほうも、そうらしい。こういうことは、アスランにお願いしておけばいいか、と、フェルトも移動することにした。悟空が、フェルトの荷物は持ってくれる。外には、大きなクルマが待っていた。
そわそわそわと、寺の女房が居間と台所を、うろうろ徘徊するので亭主に蹴りを見舞われた。
「うぜぇ。」
「すいません、じゃあ、外へ。」
「座れ。」
「・・・・はい・・・・」
そろそろ、フェルトが到着する時間だから、座って居られる気分ではないのだが、コメカミをひくつかせている亭主の姿に、女房のほうも仕方なく卓袱台の前に座りこむ。
「おまえは、どーしてそうなんだ? 」
「久しぶりだし・・・・」
「ゆったり構えてろ。」
「いや、ほら、カガリと初対面だし、フェルトは、人見知りするほうだから。疲れてると思うし・・・」
「サルも迎えに行ってるから大丈夫だ。」
カガリだけだと、フェルトが解らないだろうと、悟空も学校から、そちらへ出向いてくれている。シンとレイも行こうか、と、言っていたのだが、それは、ニールが止めた。出発が一日延びたので、トダカのところで過ごせ、と、命じた。せっかくの休暇なんだから、親子で過ごす日もあったほうがいいと思ったからだ。
「昼寝もしてねぇーし、これで具合が悪くなったら叩き出すぞ。」
「今日は、早めに休みます。・・・・そういや、こっちでは離婚届のことを三行半って言うんですね? 」
「ああ? そら、古い言い方だ。舅だな? そんなこと言うのは。」
「三行半を渡して実家に帰れって言われたんです。」
「何ぬかしてんだ? あの舅。」
「冗談ですよ。」
「当たり前だ。うちは、波風立ててないぞ。」
というくだらない話をしていたら、どかどかと廊下に足音が響いた。その音に反応した女房が、すたっと立ち上がる。まず、顔を出したのは悟空で、次にフェルトだ。
「ただいま、ロックオン。」
「おかえり、フェルト。」
ぎゅーっとハグして挨拶しているのは、心和む光景だ。それから、カガリも入って来る。こちらは、坊主に、「世話になる。」 と、軽く手をあげて挨拶だ。
「おまえだけか? 」
「うちの親衛隊は帰った。ここだと安全だからな。」
一応、体育会系のカガリだが、一国の国家元首様なので、カガリンラブと呼ばれる親衛隊が護衛としてついている。まあ、この寺は、いろんな意味で安全だから、ここでは警護もしないらしい。どっこいしょ、と、座りこむと、テレビをつけて寝転んでいる。本当に、おまえ、国家元首か? と、ツッコミたくなる光景だが、カガリは、こういう人だ。
「そうそう、俺のことは、ニールって呼んでくれ、フェルト。ここじゃ、コードネームは使わないことになったんだ。」
「うん、ニールだね。」
「疲れたろ? 大丈夫か? ちょっと横になるか? 」
「ううん、カガリがファーストクラスの座席を用意してくれたから、ゆったりしてた。」
「はあ? おい、カガリ。そういうことはしてくれなくていいぞ? 」
もちろん、庶民派貧乏性のニールも、フェルトと同じ様に注意する。注意されているほうは、あ? と、振り向いた。
「こんな可愛い子が、エコノミーで窮屈にしてるのは危険だと思わないか? ニール。となりに、どんな変態が座るかも知れないんだぞ? それに、移動で疲れたら、おまえも心配だろ? こういう時は、座席ぐらい、いいところにしたほうがいい。今後も、そうするように、キラに伝えておくからな。」
作品名:こらぼでほすと 一撃1 作家名:篠義