こらぼでほすと 一撃1
で、カガリの言い分としては、こうなるわけで、そう言われると、ニールも言い返せない。刹那やティエリアなら、となりが、どんなのでも撃退できるだろうが、フェルトだと、そうもいかないのは解るからだ。
「有難いけど、いいのか? 」
「別に、私は痛くも痒くもないぞ? そんなこと言い出したら、ラクスのほうがすごいことになってるんじゃないのか? あいつ、フェルトに着せるんだって、いろんな服を注文してたぞ。」
「あ・・・あーそうか。」
ラクスは、前回、フェルトに、かなりの服を用意していた。それだって、天下の歌姫様が用意しているんだから、廉価品ではない。
「いいじゃないか。私もラクスも、フェルトが可愛いんだ。これぐらいのことはさせて欲しい。」
「・・・う、うん・・・ありがとう。フェルト、お礼言ったか? 」
「うん、ありがとう、カガリ。」
片や天下の歌姫様、片や、一国の国家元首様ともなると、それぐらいでは、びくともしない。そういうことなら、好意は受けておくか、と、親猫も頷いた。
「ニール、濡れおかきないか? 」
「ないな。」
「じゃあ、買いに行くか。フェルト、そこのスーパーまで買い物に行こう。」
もう、なんていうか、フリーダムだ。護衛が一緒じゃないといけないはずの重要人物なのに、スーパーへ行くとかぬかす。
「あのな、カガリ。」
「大丈夫だ。悟空を連れてけば、誰も敵わない。一応、私も銃は携帯しているし、フェルトが攫われる心配はない。」
「いや、うちの子じゃなくて、おまえだっっ。」
「私は問題ない。ここから出たら、護衛がついてくるさ。ほら、フェルト、好きなだけお菓子買ってもいいぞ? 何が好きなんだ? 」
「カガリ、それ、援交のおっさんみたいだぜ? ママ、なんか買って来るものない? 」
「これといってはないな。もう下準備しちまった。」
フェルトが来るというので、デザートまで用意してしまったから、買い足すものはない。着替えも、一揃い、本宅から届けて貰っている。
「おい、カガリ。うちには、甘ったるいチューハイはないから飲みたければ調達してこい。」
「はははは・・・・世話になるから、ビールぐらいは買って来る。」
坊主の言葉に、カガリが頷く。本国では買い物も、おいそれとできないから、ここで、そういうことをやりたいのだ。坊主も悟空も、それを知っているから止めたりしない。やりたきゃやってこい、の体勢だ。
「おまえら、ちょっとは休憩してから動けよ。」
休む間もなく動き出すから、ニールは呆れているが、それも無視だ。で、フェルトが、「ニールも一緒に行こ? 」 と、上目遣いに誘うので、はいはいと親猫も嬉しそうに笑って頷いた。
「わかった。三蔵さん、ちょっと行って来ます。」
「おう。」
結局、親猫は桃色子猫と手を繋いで、いそいそと出かけた。判り易いと坊主が笑っていたら、ハイネが帰って来た。
「ありゃ? 筋肉脳姫は? 」
「ご近所散策に出た。」
「あいつ、動いてないと死ぬのかな? ほんと、元気だな。」
やれやれ、と、ハイネは脇部屋に引き上げる。今日から、ハイネも休暇だから、脇部屋のひとつに居候だ。明日から大人三人の自堕落生活ということになっているが、この調子だと、なんだかんだと来訪者はあるのかもしれない。
遠足気分で、駄菓子を大量に買ってきた。消費するのには事欠かないから、ニールも止めなかった。というか、ニールやフェルトには、特区の駄菓子というのが珍しくて、逆にいろいろと物色してしまった。
「このトンカツがなーー絶対にトンカツじゃないんだけど食べたくなるんだ。」
ぺらいシートのお菓子を、噛み噛みしつつカガリが帰り道を行く。手には、駄菓子が詰まったスーパーの袋がふたつだ。
「それさ、ソースが絶妙なんだよなあ。でも、俺としてはイカ足のほうが好きだ。」
肩にビールの箱、片手にいろんな種類のチューハイの缶の入った袋を持っている悟空は、口に、その足を銜えてムニムニと消費中だ。
「あたし、これ気に入った。イチゴ味。」
フェルトは、三角錐の小さなイチゴ味のチョコを、ぽいぽいと口に放り込み、時たま、ニールの口にも放り込む。
「おまえさんたち、良い加減でやめろよ。晩メシ入らなくなっちまうぞ。」
で、良識派のニールは、やれやれと、そのカガリたちの後から、これまた、安かった乾物関係を手にして注意している。
「これは別腹だ。それより、ニールは気に入ったのはなかったのか? 」
「あんまり駄菓子って馴染みがないからなあ。それ、明日、持っていけよ? うちに放置しても悟空がいないと減らないからな。」
「ああ、ツマミになりそうなのだけ置いて、明日からのおやつにする。」
そこで、フェルトは明日から悟空も居ないのかと気付いた。特区では、ゴールデンウィークで、みんな、休みだと聞いていたから、尋ねてみる。
「どっか行くの? ごくー。」
「カガリんとこの別荘。おまえも一緒に行くんだぜ? フェルト。」
「ニールは? 」
「ママは行かねぇー。」
「あたしも行かない。」
ほら、こういう展開だ。と、悟空も内心で苦笑する。フェルトを説得するのは、ニールの仕事だ、と、キラが言うのは、もっともだ。だが、先に声を出したのは、カガリのほうだ。
「フェルト、特区周辺はゴールデンウィークというホリデー期間だというのは知っているな?」
「うん。」
「寺は、いつも人が居るだろ? それで、休みの間だけでも、夫婦水入らずにしてやろうということになってな。・・・・・おまえのおかんは、恥ずかしがり屋だから人前だといちゃいちゃできないんだ。だから、休みだけでも、いちゃいちゃさせてやりたいと思わないか? 休みは五日ぐらいだから、それからは、いつも通り、フェルトが、おかんといちゃいちゃすればいい。どうだ? 」
あんまりな言い訳に、ニールのほうは、あんぐりと口を開けた。誰が恥ずかしがり屋だ? 誰と誰がいちゃこらだ? ごらぁーーと、言いたいのだが、あんまりで言葉が出て来ない。
「ニールだって、三蔵に甘えたいこともあるだろうしな。いつも世話になっている私たちとしては、そういう休暇をプレゼントしたいんだ。協力してくれないか? フェルト。」
「・・・うん・・・・・」
「その間は、私たちでフェルトを楽しませると約束する。途中で、ラクスも合流するから、めちゃめちゃ遊びまくろう。」
「うん、わかった。あたしも、それなら協力する。」
「ありがとう、フェルト。ほんと可愛いな? いっそ、お持ち帰りしたいぐらいだ。」
よしよしと頭を撫でているカガリの台詞が、男前すぎて、クラクラする。なんで、この姉弟は、どっちも天然電波なんだろう、と、目頭が熱くなる。
「おまえは、どこぞのホストかっっ?」
とりあえず、そこまでにしろ、と、ドスッと手刀をカガリの頭に見舞って、フェルトの背中を押して歩き出した。一国の国家元首様の頭に拳骨している段階で、ニールも、ある意味、最強なのだが、それに気付いていない。
「ごめんな、着いて早々に。」
作品名:こらぼでほすと 一撃1 作家名:篠義