こらぼでほすと 一撃2
んも、ゴールデンウィークにお勤めを頼むところもない。久しぶりに、のんびり読書する
か、と、脇部屋で寝転んで分厚い本に目を落としている。しばらくして、気付いたら寝て
いたらしい。
ガラリと障子の開いた音で目が覚めた。
「おい、居間で寝ろ。」
「はあ? 」
「いちいち、様子を見に来るのが面倒なんだよ。ついでに、麦茶をたけ。暑い。」
「ああ、はいはい。」
今日は夏日らしく、かなり温度が高い。寺は来客もなく静かなものだ。亭主もパチンコ
に出かけたと思っていたら、いらっしゃったらしい。
「なんでいるんです? 」
「いちゃー悪いかよ? 」
「いつもなら、パチンコに行ってるでしょ? 」
とりあえず、冷たいものが飲みたいらしいので、脇部屋から夫婦ふたりで回廊を居間に
戻る。
「おまえも連れて行こうと思ったら、昼寝してやがるからだ。」
「俺、パチンコしたことないんですが? 」
「スロットならわかんだろ? 」
「あー俺が知ってるのは、カジノのやつで、電子物は・・・」
「見学してみなくちゃ、どうにもならん。」
「はいはい、それなら戸締りしなきゃ。」
とりあえず、お茶を飲んでから、なんて調子で、寺の夫婦は、いつも通りに過ごしてい
る。
キラとアスランは、実家で泊まった。アスランも、ヤマト家は、今となっては実家だ。
だから、気がねなく泊まれる。
「データの移行は終わってるから、こちらですることはないな? 」
「あとは、特区でデータの解析をすれば終わりだね。」
のんびりとした朝、ふたりして、同じベッドで、今日の予定を考えている。仕事は終わ
ったが、慌ててカガリのところへ戻ることもないので、どっかへ出かけようか、なんてい
う話だ。フェルトや歌姫がいるから、カガリのほうはキラがいなくても問題はない。
「えーっと、明日はシンとレイが軍へ出張るから、今夜、食事ぐらいは、あっちでしたほ
うがいいかな。」
「そうだね。カガリの休暇は今日までだもんね。」
ヤマト家の休みの日の朝は、のんびりと過ぎる。ヤマト家では、休みは好きなだけ寝て
いてもいい、というルールだから起こしに来られることもない。結婚したとはいえ、さす
がに、実家でいたすつもりは、アスランにはない。キラのほうも、自重はしているので、
昨日は大人しく寝た。
「じゃあ、そろそろ起きて出かけるか? 」
「どこへ? 」
「キラが行きたいところ。」
「うーん、新しいゲームソフトでも探そうかなあ。・・・・あ、アスラン。僕、一度、出
て、こっちに立ち寄りたいかも? 」
何かを思い出したキラは、あうあうとアスランの上に身体を載せ上げて、小首を傾げる
。
「なんで? 」
「お花だけ、届けようかなって思う。今、イザークはプラントだよね? あっちにも連絡
してみようかな。」
「イザーク? 」
キラには、三人ばかり対象者がいる。ただし、生きているのはカリダだけだ。アスラン
にも二人。こちらも生きているのは、カリダだけだ。
「今年は、早いんだよね。だから、ちょっとフライングだけど渡してみようかなってこと
。イザークなら頼んだらやっくれるだろうから、そっちは二人分? 」
最後の一人は、どうにもならない。渡せる場所がないからだ。それで、アスランも気づ
いた。ああ、そうか、と、中空を睨んで頬を歪めた。
「もう、そんな時期か・・・・プラントはいいよ、キラ。うちは、どうなってるかよくわ
からないからさ。」
あれから、何度かプラントには出向いているが、アスランは、そこへ行ったことはない
。あるのかないのか、よくわからない。父親のことも、そのままだった。
「あるよ? 僕、お花届けたことあるもん。イザークに案内してもらったから、イザーク
も知ってる。レノアさんしかいないけどね。」
「え? いつ? 」
「プラントへ行った時に、別行動してたことがあるだろ? 」
あまり思いだしたくもない記憶だろう、と、アスランを誘わなかった。理不尽に奪われ
て、アスランは軍人になってしまったからだ。だが、キラにしてみれば、挨拶だけはした
かった。アスランは、僕が貰うからね、という姑への宣言だ。
「・・・・・でも、いいよ。それなら、俺、カリダさんとニールに渡したいな。」
もう届くことはないのだ。忘れなければいい。わざわざ、何もないところに花を届ける
のは、意味がないと思う。生きている人に渡すほうがいい。今現在、関わりを持って互い
が生きているのだから、そちらのほうが感謝したい。
「わかった。ママは、僕も考えてた。じゃあ、うちのかーさんの分だけ用意する? 」
「そうだな、毎年、花しか思い浮かばなくて申し訳ないんだが。」
カリダに贈りたいと思うものの、女性が欲しがるものが、アスランにもキラにもわから
ない。だから、花をたくさん贈る。
「かーさんは、それでいいって言うから、それでいい。アスランはカーネーションにする
? 僕、蘭にしようかな。」
「鉢植えなら長持ちするだろうな。」
「じゃあ、それ。買い物して渡して、その後、時間があればショッピングということでい
い? 」
「ああ、そうしよう。・・・・キラ、ありがとう。忘れないでいてくれて嬉しい。」
すでに、レノアのことを知っている人間なんて、アスランの周りにはキラだけだ。
「当たり前だろ? 僕、レノアママも大好きだったもん。」
お隣同士だったから、キラはレノアにも、とても可愛がって貰った。あんなことがなけ
れば、その関係は今でも続いていたはずだ。
「あーでも、僕、嫁だからいびられたのかな? レノアママって、そういうの好きだった
よね? 」
「遊んだだろうなあ。キラの反応が、ストレートで楽しいってさ。」
ふたりして、レノアを思い出して微笑んだ。もし、は、叶わないが想像するのは勝手だ
。ちゅっとキスして、キラはアスランの胸に顔を隠した。
「僕、もうなくしたくないから。」
「ああ、俺もそうだ。おまえと一緒なら、どうにかできると思う。」
大切なものをなくすのは、イヤだ。自分たちは子供過ぎて、いろいろと失くしてしまっ
たが、もう子供ではない。自分の手の中にあるものは護れる。
「とりあえず、ブランチして花屋に突撃? 」
「そうだな。」
よおーしっっと、キラが勢いをつけて起き上がる。アスランも腹筋で起き上がり、着替
えて階下へ降りて行った。
今日は、一日、外出しないの? と、出された食事を食べながら、キラが尋ねると、今
日は忙しい、と、カリダは台所へ戻ってしまった。
「もう、かーさん、それ、どっちなの? いるの? いないの? 」
ぶーぶーと文句を垂れてキラが叫ぶと、「あちらのママにお菓子を用意してるから出か
けないわ。」 と、大声で返事が返って来た。
「ニールのことですか? カリダさん。」
さらに、アスランも叫ぶ。「そうよ。いつも、バカ息子がお世話になってるからー。」
作品名:こらぼでほすと 一撃2 作家名:篠義