こらぼでほすと 一撃2
と、戻ってくる。前回、実家に戻った時に、具合の悪いニールのことを話したから、今
回も何かしらの見舞い品を製作するらしい。
「でも、僕たち、あっちに帰るのは、明後日だよ? 生モノ厳禁だからね。」
まだ、カガリのところで、二日ばかり滞在予定だ。生モノはまずい。というか、そこで
消費されてしまう。で、そこまで叫ぶと、カリダが台所から戻って来た。
新しいものだが、栄養があって日持ちするから大丈夫、と、ブイサインだ。月餅という
のだ、と、説明してレシピを見せられた。すでに、餡は準備したから詰めて焼くだけだと
いう。
「じゃあ、ちょうどいいや。僕とアスラン、ちょっと出て来るから夕方までに一回、戻る
よ。」
カリダのことだから、他のものたちのためにも大量に作るのだろう。だから、ちょうと
゛戻ってくる、いい口実ができた。
「包むの手伝いましょうか? 」
で、大量なら、手伝いだけはしておくか、と、アスランは食事を平らげるスピードを増
す。あなたは手伝わなくていいから、と、キラが言う前に、カリダは止めた。実の息子の
家事能力が壊滅的なのは、カリダも承知している。
「わかってるよ。それなら、とーさんと、デートでもしてこようかな。」
その話を居間で聞いていた父親のハルマのほうが、庭仕事を手伝え、と、大声で命じて
いる。
「キラ、たまには手伝いしておいでよ。包むだけなら、一時間ぐらいだからさ。」
ぶーーと不満顔のキラの頬にキスを、ひとつして、アスランが宥める。相変わらずねー
とカリダは大笑いして台所へ戻って行った。
ダコスタは、ハイネと交替で休暇に入ったのだが、さすがに、夫婦水入らずを満喫して
いるだろうバルトフェルト家に顔を出すのも気が引けて、マンションでのんびりしていよ
うと思っていた。いたのだが、ハイネから、「一回だけ、寺に顔だけ出してくれ。」 と
、頼まれてしまった。あそこも、夫婦水入らずだと思うのに、と、気が重いながらも頼ま
れたから、と、寺へ顔を出した。
寺は、オールセルフサービスだ。玄関から勝手に居間まで行かないと対応してもらえな
い。
だが、そこに人影がない。戸締りしていないから、どこかに坊主なり女房なりはいるは
ずだか、あまり探したくないな、と、回廊へ出たら、本堂の前で夫婦揃っていた。そして
、何かしら腕を組んで考え込んでいる。これなら、顔を出してもよかろうと近付いたら、
ボードゲームをしているらしい。だが、どっかおかしい。
「こんにちは。」
「よおう、ダコスタ。お疲れさん。」
「何やってんですか? 」
盤上には、坊主側には将棋のコマ、女房側にはチェスのコマが並んでいる。どう見ても
異種格闘戦だ。
「暇つぶしのゲーム。三蔵さん、もうやめましょう。」
「まあ、待て。これで王手だ。」
ぴしっと盤の上で、角を打つと、坊主が顔を上げた。で、女房のほうは、「はいはい、
俺の負け。」 と、立ち上がる。
「こらっっ、まだ逃げられるだろ? 」
「じゃあ、ダコスタ、続きやってくれ。俺、お茶入れてくるよ。」
「へ? これって・・・」
「俺はチェスのルール、三蔵さんは将棋のルール。チェスできるよな? 」
「どっちも知りませんよ、俺は。」
できるボードゲームが互いに違うので、こういうことになっているらしい。暇なんだな
、と、ダコスタにもわかる。
「さっきの挟み将棋を教えてあげてください。あれなら簡単だ。」
「俺の勝ちでいいんだな? ママ。」
「はいはい、いいですよ。」
「じゃあ、明日は付き合え。」
「パチンコは、もういいです。俺にはよくわからない。」
「外食すんだよ。デートしたいって言ったのは、おめぇーだろ? 」
「あはははは・・・・それは嬉しいな。ついでに、本屋もコースにいれてください。」
「好きなとこでいい。」
じゃあ、そういうことで、と、ニールのほうは、回廊を降りて行った。やっぱり邪魔じ
ゃないか? と、夫婦のやりとりを聞いていたダコスタは肩を落としたが、坊主は、「座
れ。」 と、命じてくる。
「お邪魔だったら失礼します。」
「ああ? あいつ、今から昼寝だ。ダコスタ、留守番してろ。」
昨日、パチンコに行ってみたものの、ニールは楽しいと思わないという感想だった。ま
あ、こんなゴールデンウィークのパチンコ屋なんて、当たりが悪くしてあるので、ニール
は、ちっとも当たらなかったのも、その原因だ。あんただけ行って下さい、と、言われた
ものの、一人にしておくと碌なことがないから、坊主も寺で暇つぶしをしていた。そんな
ところに、飛んで火にいる夏の虫だ。ダコスタに留守番させておけば、自分は出かけられ
る。
「え? 」
「俺は、ちょっと出て来る。」
「え、いや、あの。」
「あいつは昼寝するから。居間でテレビでも雑誌でも好きなようにしてればいい。」
さあて出かけるかーと坊主は、ダコスタの意見なんぞ聞く耳はない。途中で、「晩ご飯
までに帰ってくださいよー。」 という女房の叫びが聞こえて、さらにスクーターのエン
ジン音がした。
・・・・・なんで?・・・・
よくわからないが、まんまと使われているダコスタだった。
翌日、午前中に、きゅうりの水遣りをして、ふらふらと寺の夫婦は出かけた。これとい
って用事はないから、とりあえず、女房の希望の本屋まで、ということで、公園を突っ切
って行くことにした。ゴールデンウィークの最終日だからなのか、子供がたくさん遊んで
いる。
「平和ですねー。」
「今日は、子供の日だからな。」
「子供の日? 祝日なんでよね? 」
「こっちじゃ、季節の変わり目ごとに、疫病とか厄災を祓うって風習があってな。ついで
に、ゾロメの今日は野郎の誕生を祝う意味合いの日になってる。おまえの誕生日が、ちょ
うど、女の子の祝い日だ。」
女房は、三月三日の生まれで、毎年、この日はひな祭りというイベントが店でも行われ
ている。ああ、と、女房のほうも頷いた。
「いろいろと地域によって違うんですね。」
「特区は、かしわ餅で祝うが、俺たちのところは、肉粽だ。それと、風呂に葛蒲を浮かべ
る。これは、病気避け。」
「しょうぶ? 」
「花だ。今日なら、花屋で売ってるぞ。」
さすがに、こんな大都会の公園に葛蒲は咲いていない。三蔵は、別に何もしないが、八
戒が、ちゃんとかしわ餅と葛蒲は届けに来る。今年は、女房が居るから来ないだろうと踏
んでいる。
「それは、悟空たちにも該当してるんですか? 」
「まあ、ガキ全般だから、年少組は該当してるな。」
「じゃあ、えーっと、カシワモチとニクチマキとショウブを買って帰りますか。それ、花
屋とスーパーで揃うのかな。」
本日、悟空はフェルトと帰って来る。明日から、学校があるから、学生たちは連休は、
ここで終了だ。「吉祥富貴」も、明日から通常営業だから、他の者も戻ってくるだろう。
だから、そういうイベントであるなら用意しておこうと、女房のほうは思ったらしい。
作品名:こらぼでほすと 一撃2 作家名:篠義