こらぼでほすと 一撃2
「粽は、こっちの風習じゃねぇーからなあ。他はあるだろう。」
チマキというのが、アイルランド人には、ぴんと来ない。で、亭主のほうが、おおよそ
、こんなものと説明する。
「包むのは無理だろうから、とりあえず炊き込みご飯でいいか。・・・あ、本屋に、資料
が・・・いや、八戒さんか、爾燕さんに聞いたほうが早いか・・・・」
できるだけ、オリジナルに近いものを、と、考えていたら、亭主のほうが携帯を取り出
した。
「俺だ。おまえ、いつも持ってくる肉粽を、夕方に届けろ。」
それだけ言うと携帯端末は閉じられる。早業すぎて、女房は止める暇もない。それを食
べさせたいというなら、いつも運んでくるイノブタに頼めば良いのだ。わざわざ、現物を
見たこともないアイルランド人が作らなくてもいい。
「また、唐突な。」
「イノブタが夕方に一式運んでくる。そのつもりだったそうだ。」
「カシワモチとショウブも? 」
「さあ? それは買ってもいいぞ。サルがいれば、だぶっても問題はない。」
木々が立ち並ぶエリアに入って、木陰になった。ぶらぶらと歩いていると、すぐに公園
の出口だ。本屋は、そこから大通りに出たところにある。ふたりして入って、女房が何冊
かの本を手にして、周囲を見回したら、亭主が居ない。レジをして外へ出たら、外で、の
んびりとタバコを燻らしている。
「早かったな。まだ、いいぞ? 」
「いや、もういいです。次は三蔵さんの希望するとこですかね。」
「これといってはないんだが・・・・じゃあ、花屋で葛蒲を買って行こう。売り切れたら
洒落にならん。」
今度は、そこから大通りを渡って、スーパーの中にある花屋へ、そこで、お目当ての葛
蒲をゲットすると、次に、和菓子の店だ。
「もしかして、これって、ただの買い物って言いませんか? 三蔵さん。」
「しょうがねぇーだろ。これといって、目的がねぇーんだから。」
「まあねー、俺とあんたでデートって言ってもねーははははは。」
寺の夫婦には、共通の趣味もないし、グルメに拘るでもない。だから、デートと言って
も、買出しの延長でしかない。だが、気は合うから、気詰まりでもないし、気楽なものだ
。天気はいいし、暑くも寒くもない。散歩するには、ちょうどいい気候だ。
「早めに、お昼しませんか? なんか混んでそうだ。」
「なんにする? 」
「あんたのいいので、俺はいいです。」
「じゃあ、いつものファミレスか中華。」
「近いとこで中華。」
ランチを食べて、ぶらぶらと、また公園を横切って帰る。それは、デートとは呼ばん、
と、ハイネあたりは全否定だろうが、寺の夫婦には、これでも珍しいデートだったりする
。
さて、年少組は、夕刻前にオーヴからカガリのプライベートジェットで、特区へ戻って
来た。日曜日の予定を打ち合わせて、きししししっと、みんなで笑って別れて、寺へ戻っ
たら、沙・猪家夫夫もやってきていた。
ただし、居間に入ると、しぃーっと、八戒が人差し指を口に当てて苦笑している。なん
だ? と、居間の奥に目をやると、ニールが昼寝をしていた。いつもは脇部屋でしている
のに、なぜか、今日は居間だ。で、手前には卓袱台で書類を読んでいる三蔵と、音量を下
げてテレビを見ている悟浄がいる。
「どうかしたの? 」
「いえ、亭主が目のつくところへ置きたがって、こういうことになってるみたいですよ。
・・・おかえりなさい、フェルトちゃん。少し待っててくださいね。」
「こんにちは、八戒さん。ニールは昼寝? 」
「ええ、ただの昼寝です。そうそう、柏餅があるんです。お茶にしましょうね。」
柏餅は、二種類。それから、蓬餅と桜餅、チマキと、子供の日の定番のお菓子が台所に
放置されている。沙・猪家夫夫も、ちゃんと準備していたからだ。そして、台所の洗い桶
につけられている葛蒲は、倍だった。
「だって、まさか、三蔵が、そんな買い物してるとは思わないでしょ? 」
「え? さんぞーが買いもの? 」
「正確には、ニールとデートして、話の流れで、そうなったらしいですけどね。僕は、こ
の晴れの日の特異日に、大雨が降るかと思いましたよ。」
デートぐらいしたら? と、悟空も勧めていたが、本当にしているとは思わなかった。
やはり、自分の親父は、おかんのことは、それなりに情があるらしい。
卓袱台は、坊主が仕事をしていて使えないので、台所よりのところにお菓子とお茶は準
備した。フェルトに、かしわ餅の葉は食べてはいけないけど、桜餅は好き好きだ、と、悟
空も説明して、かぶりつく。
「どうでした? カガリさんの別荘は。」
「いろんなもんがあっておもしろかった。メシも豪勢だったぜ。八戒たちも来ればよかっ
たのに。」
「あそこなら、引率者はいりませんよ、悟空。僕らもゆっくりさせてもらいました。」
「て、引き篭もりだったんじゃねーの? どっかのエロガッパはしつけーかんな。」
「だーれが、エロガッパだ、このバカザル。ちゃんと、ここんちの腐れ坊主より、まとも
なデートもしたっていうーの。なあ、八戒? 」
小声で喋っているのだが、地獄耳のカッパは、聞こえたのか匍匐前進でやってきて、桜
餅に手を伸ばす。
「どうですかねーヘタすると、トントンかもしれません。」
「おいおい、それは厳しすぎやしませんか? 女王様。」
「うちの親父と同じって、ひでぇーデートしてるなー、ごじょー。」
というか、ここの熟年夫夫と同じノリのデートをしている寺の夫婦のほうが異常じゃな
いか、と、八戒はツッコむ。さんざん、いろいろとやっちゃったから、いつも通りに落ち
着くものだが、すでに、その落ち着いてる領域に、二年やそこらで達しているのが不思議
だ。まあ、夫婦といっても、寺の夫婦は、互いに恋愛しているつもりは皆無だろうが。
「うるせぇーよ、サル。」
ぎゅーっと悟空のほっぺを引っ張って、悟浄が怒鳴る。ちと声が大きかったので、坊主
がカッパにライターを投げてヒットさせたが、女房のほうは起きたらしい。ふぁーっと延
びをしている。とてとてとフェルトが近寄ると、「おかえり。」 と、声がする。
「ただいま。」
「どうだった? 」
「楽しかった。カガリはおもしろい。・・・・ニールに、お土産あるんだよ。砂浜で、綺
麗な貝殻拾ったんだ。」
で、起き上がったら、沙・猪夫夫だ。え? という顔で、ニールは頭を掻く。そして、
亭主を睨む。
「悟浄さんと八戒さんが来てるなら起こしてくださいよ。寝る時に頼みましたよね? 」
「寝たりたのか? 」
「足りてますよ。・・・・すいません、迷惑なとこで昼寝して。おかえり、悟空。」
「ただいまーママ。俺も、土産あるんだ。カガリんとこの温室で、でっかいパパイヤがあ
ったからパクってきた。」
フェルトが、土産をカバンから取り出している間に、悟空も、ニールに緑色のブツを差
し出した。
「それ、まだ熟してないぞ? 悟空。あーまーいいや。今夜、それでサラダをしよう。」
作品名:こらぼでほすと 一撃2 作家名:篠義