きらきら星 【中編】
13
ボヤける視界…
薬品の匂い…
(…ここは?)
だんだんはっきりしていく頭で何が起きたか考える。
ふと、横に誰かいる気がしてそちらを見ると
「あっ栄口眼覚めた??…良かったぁ。俺ホントにびっくりしたよ!」
そこにはいつもの気の抜けた水谷の顔があった。
「み…ずたに?」
「あっ眼覚めたことモモカンに言ってくんね。今日はモモカンもバイトあるから
早めに切り上げだって言うし、栄口はもう少し大人しく寝ててね。」
そう言って、部屋から出ようとする水谷が夢のと重なって、慌てて服の裾を掴んだ。
「さっ栄口!?」
はっとして、手を離す。
何やってんだオレ、恥ずかしい。
オレが恥ずかしくて何も言わないでいると、水谷が笑う声が聞こえた。
「もうすぐ休憩終わるから俺は行かなきゃだけど、練習終わったら栄口の荷物も
持ってくるから、一緒に帰ろ?」
「う…うん。」
「よし、それまでいい子に寝ててね!じゃっ!!」
そう言って、オレの頭を撫でて水谷は部屋を出た。
…水谷が優しい。何で?
怒ってるんじゃないのかよ。
疑問が次々と浮かび挙がったが、まだ頭は処理能力を失っていたため、もう一度目を閉じた。
「具合どう?」
「もう大丈夫だって!その質問何回目だよ!!」
「だって~!本当にびっくりしたんだもん。」
いつもの帰り道、2人で自転車を押しながら歩いて帰る。
ギクシャクしていたのが嘘のように、至って普通の会話がなされている。
チラッと横目で見ると、ちょうど水谷もこちらを見ていて、カチッと視線が交わる。
目が合うだけで上がる体温…高まる左胸…どんだけ重症なんだ、オレ…
オレはすぐにでも逸らしたい視線を水谷は離さない。
じーっと見つめたと思うと、急に自転車を止めてオレに近づいてきた。
「ごめん!!」
「へっ?」
「俺、栄口のこと何も考えないで追いつめちゃって…
俺、なんか栄口に頼られたいって、1番になりたいって思ってて…
だけどそうなれない自分が悔しくって…栄口にあたっちゃった。ごめんね。」
一気に言われて頭が処理しきれていないが…
この間のこと謝ってくれてるってこと、もう1つは…
「…水谷は1番になりたいの?1番って何??」
「わっかんないけど。でも、栄口が寂しい時とか苦しい時とか、
一緒にいたいって思ってくれるような…栄口の1番近くにいる存在?」
「…」
ぶわっと身体が熱くなった。
いやいやいや勘違いしちゃいけない。
こいつは何も考えないで言ってるんだから。
「…栄口?俺なんか変なこと言った?」
まぬけ面でオレのことを覗き込んでくる水谷を殴りたくて…
可笑しくなった。
バカで天然で、たくさん振り回されるけど、そんなお前が好きだから。
「そういうことは彼女に言えよ。恥ずかしい奴。」
ちょっと怒ったように言うと、わたわたと慌てだす様子がまたおもしろい。
本当は全然怒ってないけどな。
…オレも水谷のこと見習ってみようかな。
「水谷!安心していいよ。」
「えっ?」
「ちゃんと水谷はオレの1番だから!」
「ふぇ!?」
言ったはいいけど、恥ずかしくてすぐに顔を背けてしまった…ドキドキ…
今のどう思ったかな。
水谷の話の流れに乗った感じだから大丈夫なはず…相手は鈍い水谷だし…。
そっと水谷を見ると、なんとも言えない複雑な顔。
だけどこっちが見ているのに気付くと、凄い嬉しそうな笑顔になった。
うわぁ…
…ヤバい、オレドキドキしっぱなしだ。
だけど嫌じゃない。そばにいるだけで、こんなに嬉しい。
オレが1番になれないことはわかっているけど…
「あっ水谷!車来る!!」
「ひゃあ!やばいー!!自転車ひかれるーー!」
オレ水谷のこと好きになってよかった。
作品名:きらきら星 【中編】 作家名:野沢 菜葉