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救われない報われない

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痛みはほんの一瞬で、気が付いたら金色の蓮が浮かぶ世界に来ていた。
それからどれくらいの時が経ったのか、もはや分からない。この世界には時という概念が存在していなかったから。
蓮の間から見える水面。その水面に映る恋人の哀れな姿に、帝人は心臓を鷲づかみにされたかのような痛みを感じる。
心臓辺りの服をギュッと掴むと、眉を寄せた。その時、柔らかい風が背中から吹き、帝人の髪の毛を揺らす。
先程よりも辺りが暖かみをまし、蓮たちがサワサワと揺れ出した。帝人は後ろを振り返ることなく、水面に視線を向けたまま。
誰かがゆっくりと近づいてくる音が聞こえる。帝人は誰が来たのかを知っていた。
帝人がこちらに来てからずっと迎えに来てくれる存在。人々は確か菩薩、と呼んでいる存在。

『そこで見ていても、彼は救うことが出来ませんよ』

「分かっています」

『そろそろこちらへ来ては如何ですか?貴方はもう、戻ることはできないのだから』

「それでも、戻ることが出来なくとも僕はここにいたい」

この蓮が浮いている水面でしか、帝人は下界を見ることは出来ない。
あんなに心の底から帝人を渇望している臨也を、ただ見ていることしかできない。
それがとても歯がゆくて辛くて、もどかしい。無力な自分が嫌でしょうがなかった。

(臨也さん・・・っ)

ぐちゃぐちゃな心の声が涙となって後から後から流れ出てくる。袖でいくら拭おうとも止まることのない雫ですぐに袖口がびしょびしょになってしまった。

『そのように心の底から泣くものではない・・・』

菩薩は泣いている帝人の目尻から涙を指先で受け取るとそっとその雫に息を吹きかけた。
すると、どういうわけか帝人の涙がぴたりと止まる。驚きで帝人が数度瞬きをしながら菩薩を見上げた。

『そなたが悲しんでもどうしようもない。それに、あの男は死ぬ運命だ』

「なっ!?」

菩薩は帝人を見つめながら目を伏せると、そっと水面を指さした。帝人も視線をその指の先に合わす。

『それがあの者の天命。今まさにその命の糸が切れようとしている』

「そんなっ!!」

『そしてあの者はお前と同じ場所には立てない。あれの行く場所は地獄』

「っ」

菩薩は瞬きをゆっくり一度すると、震えている帝人の頭にそっと手を置いた。帝人の止まっていた涙がまたあふれ出す。

『帝人・・・あの男を助けたいですか?』

「え!」

涙で濡れた蒼い瞳が菩薩を映す。その揺れる瞳でしっかりと菩薩を見つめる帝人に、菩薩は哀しい顔をした。

『私の力をお前にかしましょう・・・但し、使えるのは生涯一度きり。あの男が少しでも心清らかなら・・・救えるでしょう』

「っ!お願いします菩薩様!!僕に、僕に力をかして!!」

『それをお前が望むなら・・・』