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救われない報われない

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気が付いたら暗い道を歩いていた。持っていたナイフには先程殺した人間の血がべっとりとこびり付いている。
雨が降りだしていたが傘など持っていなかったし、たとえ持っていても射す気も起きなかっただろう。

(あぁ・・・獲物が・・・)

目の先で蠢く人影に臨也は赤い瞳を細めて、足音を消してかけだした。
一気に間を詰めて相手の首筋を狙う。血で汚れていて切れ味は悪かったが元々コンクリでさえ切れるナイフだ。
切れ味が落ちようとも人の骨が立てぬ程ではない。肉が裂け、骨を断つ音が臨也の耳を射す。
そうして辺りの人影が無くなると、臨也は雨の降る中屍の上に立ちつくしていた。

「は・・・はは・・・ははははっ!!」

片手で顔を覆いながら、泣きたいのか嗤いたいのかよく分からない衝動に逆らうことなくその感情のままに動いた。
臨也はもう分からなくなっていた。どうして自分がこんな事をしているのか。どうしてナイフで人を切り刻んでいるのか。
分からないのに、続けていた。返り血を浴びることが最早快感になっていた。
人を殺し終わると、不思議な恐怖と哀惜、焦燥が臨也を襲い胸に痛みを走らせる。けれどやはりどうして自分がそんな感情に陥るのかが分からない。

「あはは・・・・は・・・・」

ひとしきり泣き嗤い終わると、虚脱感が身体を押そう。ぶらん、と腕を降ろし雨が降る曇天を見上げた。
虚ろな瞳で空を見上げていると、フワリと温かい風がどこからともなく吹いてきた。
先程まで冷たい風がこの身を包み込んでいたのに、と思いながらその風の吹いてきた方に視線を向ける。
自分の瞳がドンドン驚きで見開き、唇がワナワナと震えだした。
そこには哀しい顔をした帝人が佇んでいたのだ。帝人は何かを必死に伝えようとしてるらしく口をパクパクと何度も開閉する。
けれど、臨也の耳には帝人の声が聞こえない。彼が何を言っているのかが全く分からなかった。
臨也は思い出す。どうして自分が殺人鬼となったのかを。どうして人を無惨な姿で殺していたのかを。

「帝人君・・・帝人君・・・!帝人君・・・・!そこにいたんだね・・・!」

臨也はボロボロと涙を零して帝人の方へと腕を伸ばす。すると、どうしてだかそれ以上腕を伸ばすことも足を踏み出すことも出来なかった。
訝しみながら自分の足元を見てぎょっとする。そこには己の足を掴んで下へ下へと引っ張ってくる亡者達がいたのだ。
臨也は必死になってその亡者達を蹴り上げようとした。持っていたナイフで斬りつけようともする。
けれど、足はしっかりと固定されて持ち上げることが出来ず、ナイフで切っていても感触は泥と同じ。全く効果がなかった。

「くっそ!!何なんだよ!!邪魔するなよ!!漸くっ漸く帝人君を見つけたんだっ!離せッ」

悲痛な臨也の怒声など聞こえていないのだろう。亡者達は臨也を下へ下へと引っ張っていく。
臨也はどんどん下がっていく視界に歯を食いしばりながら帝人へと腕を伸ばした。

「帝人君っ!!!」

帝人はハラハラと涙を零しながら何かを訴える。そして臨也を哀しそうに見つながらそっと瞳を閉じた。

「帝人君・・・!」

次の瞬間、帝人の身体が光の粒子となって辺りに飛び散ってしまう。
臨也はその一瞬をまるでスローモーションのように感じた。小さな粒子が臨也の指先に当たって弾けて、闇の中へと霧散した。
臨也の見開いた赤い瞳から一筋の涙がこぼれ、そして一気に臨也は亡者達へ泥沼の中へと引っ張られていく。
しずみゆく最後に臨也が見たのは、雨の降り続ける暗い暗い曇天だけだった。

「みか・・・・ど・・・く・・・」