こらぼでほすと 一撃3
「やっぱり恥ずかしいものなのかしらね?」
「八戒って謙虚だよなあ。」
「悟浄の暴走というのも否めないがな。」
「ゴジョは、メロメロだものネ。」
大人組には的確に、雲隠れの意図を見破られている。くくくくく・・・と顔を見合わせ
て笑い出した。
「俺も、あれぐらい独占欲を呈示したほうがいいか? マリュー。」
「冗談でしょ? そんな暑苦しいのは、外でやってきてちょうだい。うちは、たまに、濃
厚に、時々、ベタベタぐらいでいいわよ。」
互いに仕事の関係ですれ違いができるムウとマリューだと、そんなことで、いちいち嫉
妬していたら身体が保たない。たまに逢うから、新鮮だとマリューは思っているし、器が
大きくて助かるなーと、ムウのほうは微笑む。気持ち的なものではなくて、肉体的な部分
での遊びは、目を瞑ってくれるのが、フェロモン男の鷹にしてみれば有難い。誘われて断
るのも失礼だというのが、信条なんだから、マリューも、そこいらは諦めている。
「うちは、どうなんだろうな? 」
「今ぐらい? ワタシはオッケー。」
「俺も、これぐらいでいいな。足りんとこは、ニールで補充しといてくれ。」
「うふふふふ・・・・ソウネ。」
ちょっと歳の離れている虎とアイシャだと、居ればベタベタが基本らしい。ここも、虎
がラボやエターナルの管理をしているから、一ヶ月、プラントへ、とか、緊急事態でラボ
へ引き篭もりなんてこともあるから、普通の毎日、顔を合わせているような夫婦ではない
。
「アンディー、それ、いい提案ね。うちも、ムウが使えない時は、ニールで不満解消させ
てもらうことにするわ。」
「まあ、連れて歩くには、ニールは便利だからな。酒は無理だから、そういう場合は、『
吉祥富貴』のほうを利用してくれ? マリュー。」
「ええ、もちろんよ。三蔵さん、ニール貸してちょうだいね?」
ごろりと寝転がって野球放送を見ている坊主に、マリューが声をかける。寺は、オール
セルフサービスなので、客がいるからといって相手をすることはない。特に、マイノリテ
ィー驀進の鬼畜坊主は、それを忠実に守っている。だから、卓袱台にあるのは、アイシャ
が冷蔵庫から調達してきたアイスティーが並んでいたりする。
「事前予約しろ。」
「予約したら、お持ち帰りでもいいの? 」
「構わん。できるものならな?」
ふっと鼻で笑った雰囲気が坊主から漂う。テレビを見ていて坊主は、振り向きもしない
が、余裕の発言だ。
「まあ、マリューじゃ無理だろーな。アイシャさんもさ。」
鷹も、それは肯定した。今のところ、そういう気が起きないらしいニールを、お持ち帰
りするのは難しい。送れと言えば、ドアまで、きっちりと送ってくれるだろうが、そこか
らは入らないだろうからだ。当人曰く、「何もせずに一番過ごせる自信がある。」 との
ことだ。
「逆に、歌姫か桃色子猫になら、お持ち帰りされるんだろう? 鷹さん。」
「そりゃ喜んで付いてくんじゃないか? どっちも、せつニャンより性能は劣るが、マ
マニャン専用抱き枕だからな。」
黒子猫が旅に出てしまうと、しばらくは眠る時に誰かの気配が欲しいらしい。そして、
歌姫も桃色子猫も、ママという認識だから気にもしないで、一緒に寝ている。
そろそろ日が弱くなってきた頃に、ニールが昼寝から起き出して来た。いつもなら、「
吉祥富貴」への出勤の準備をしているが今日は休みだから、のんびりしたものだ。
居間に顔を出したら、珍しいのが四人、並んでいる。
「ありゃ? 」
「はーい、ママ。久しぶり。」
「いらっしゃい、マリューさん、アイシャさん、虎さん、鷹さん。」
夫婦連れで訪れるのは、稀なメンバーだから、ニールのほうも驚く。いつもは、アイシ
ャか鷹が単独というのが、通常だ。
「起こしてくださいよ。」
無駄とは思いつつ、一応、亭主に文句は言ってみるが、無反応だ。オールセルフサービ
スとはいっても、遊びに来ているのだから、寺の女房としてはお茶ぐらいは用意したいと
ころだ。
「アイシャがアイスティーを用意してくれたから大丈夫よ。」
「モトは、ニールのお手製ネ。」
来客が多いので、各種飲みものは作成されて冷蔵庫に入っている。だから、客は、それ
のうち、どれかを取り出して飲む。
「何かあったんですか? 」
「違う違う。土産を渡しに来たんだ。」
居残り組の寺の夫婦のところには、いろいろと土産が届けられた。虎夫婦、鷹夫婦も、
カガリの別荘へ遊びに行ったから、その土産ということらしい。
「もう十分ですよ。カガリが、凄いのをくれたんで、ここ三日、それの処理してましたか
らね。」
「カガリ姫は、余るぐらいに贈るのが礼儀だからな。・・・・・俺たちのは腐るもんじゃ
ないから大丈夫だ。」
「そうそう、選んできたから、ちゃんと着てちょうだいね? 」
「ニールはカワイイからニアウはず。」
はい、と、女性陣から差し出された紙袋を解いたら、いかにも新妻が着けるようなレー
スのふんだんに使われた白のエプロンが現れた。
「これ? 」
「基本は白でしょ? 冬には割烹着を用意するわね。」
「肩のヒラヒラがポイントよ? 」
「なんか疲れた気がするんだが? アイシャさん、マリューさん。」
「実用向きのお土産じゃないの。オーヴの有名メーカーなんだから。」
「ソウヨ、ワタシたちのセンスを疑うつもり? 」
なんで、身長180オーバーの男が、こんなもんをつけなきゃならないんだよ、と、嘆
いているニールに、坊主以外は大爆笑だ。
フェルトには、実の両親の記憶があまりない。乳飲み子の頃に、夫婦共に作戦で亡くな
ったからだ。それも組織内の守秘義務で、どんな最後だったかもわからない。
組織にいる限り、それは突然にやってくることを、身を持って知ったから、どんな風に
亡くなったかなんて知らなくていいと思うようになった。ニールが居なくなった時に、知
っていたからって何もないじゃないか、と、解ったからだ。
「おまえさんの両親の居場所は解ったらいいのにな。そこに花でも手向けて、大きくなり
ましたって報告してやれたらいいのに。」
ニールは、そう言ってくれたが、それにも首を横に振った。知りたかったのは、たぶん
、両親の生き様だ。なぜ、組織に入って戦っていたのか、なぜ、作戦中に亡くなることに
なったのか、そんなことで、生きていたはずの両親を感じたかったのかもしれない。
亡くなったと思われていたニールが生きていた。フェルトは、それで安堵した。フェル
トが実行部隊に参加した時に、すでに、ニールは、そこに居て、後から入った刹那と共に
、まるで子供のように世話をして貰った。他にも、イアンとリンダ夫婦とか、モレノは、
いろいろと世話をしてくれたのだが、それよりも近い関係だったと思う。刹那が、「おか
ん」 と、言うので、フェルトも内心では、そう呼んでいた。さすがに恥ずかしくて、口
にはしなかったが。
作品名:こらぼでほすと 一撃3 作家名:篠義