こらぼでほすと 一撃3
ニールが地上で待機所の担当になって、余計に可愛がってくれていると思う。なかなか
逢えなくなった分、逢えば、何かと手をかけてくれる。なんていうか、以前より、もっと
「おかん」だ。フェルトとしては、身体さえ治ったら戻ってきて欲しいと願っているが、
刹那は、「もう二度と関わらせない。」 と、言う。あの衝撃を一番きつく受けたのは刹
那だ。だから、イヤだと言う。それもわかるから、フェルトも、それについては何も意見
を言わないことにした。ニールの性格からして、治れば戻ってくるだろうとも思うからだ
。それが、地上でしか暮らせないのだから、推して知るべしというところだ。
「フェルト、カガリとラクスの分も頼むぞ。」
寺の駐車場で、三つの花束をアスランから預った。ピンク色、濃いピンク色、黄色のカ
ーネーションだけの花束だ。そういう風習があることを、フェルトは知らなかった。一年
に一度、母親に感謝する日だと聞いて、確かに、ニールに感謝したいと思った。
「あ、ムウさんたちからマリューさんたちにも渡して貰おうか? 八戒さんの分が余った
から。」
「いいんじゃないか? 後、デリバリーは、そろそろ届くと思う。シン、そっちの対応は
任せた。」
「りょーかいっっ。まあ、俺にとったら母ってより姉だけどなあ。」
母の日なので、ニールに楽して貰うため、デリバリーの手配もした。いつもなら参加し
ているハイネは、今夜はラボの管理でいない。その代わり、鷹夫婦と虎夫婦という珍しい
陣容が出張ってきた。なんでもいいのだ。どうせ騒ぎは無礼講だ。
「アスラン、ケーキは別便ですか? 」
「いや、一緒に届くように手配している。レイ、シンと山門からの誘導を頼む。」
「了解しました。それなら、まず、俺とシンが渡して配置に着きます。」
「フェルトは最後だから、先に渡しちゃダメだよ? ごくーは? 」
「俺、シンたちの後で良いや。たぶん、机足りないから運ばないとダメだからさ。仕切り
は、アスランに任せる。」
年少組のイベントだと、アスランが仕切りだ。そして、レイとシンが補佐というのが基
本となる。悟空とキラは企画の立案は素晴らしい閃きをみせるのだが、段取りはできない
ので、除外される。
「じゃあ、やろうぜ? キラ。」
「オッケー、ごくー。フェルト、行くよーっっ。」
そして、実行は、もちろん、この二人。みんなで、手に花束を持ち、寺へと入った。
そろそろ食事の準備をしようと思ったら、虎たちが、デリバリーの手配をした、という
ので、卓袱台に座らされている。
「何も、そんなお金のかかることしなくてもよかったのに。虎さん。まだ、カガリからの
海産物が残ってるんですよ。」
豪快すぎるカガリからの宅配便は、三日目になっても、まだ残っている。ロブスターは
、どうにか駆逐したが、魚の切り身は、冷凍庫で眠っている。これを解凍して焼くなり煮
るなりすれば、十分な量になる。
「まあ、たまには、家事から解放されろ。おまえは、真面目に寺の女房をやりすぎだ。た
まには、コンビニ弁当でも三蔵さんは構わんだろうに。」
「三蔵さんは、そうでも、悟空に、それは無理ですよ。一体、いくつ入用なのか、俺には
想像もつかない。」
旺盛な食欲を満たすには、あのちまちましたコンビニ弁当を、いくつ買えばいいのか、
ニールにはわからないし、あれでは栄養が偏ると思われる。
「俺は、そんなもん御免だぞ? ママ。」
で、坊主もイヤらしい。女房ができてから、手作り料理しか食してないと、こういうこ
とになる。これは、坊主が悪いのではない。そういうしつけをしたニールが悪い。
「わかってますよ。」
ニールのほうは、失敗に気付いてないが、はいはいと頷いている。寺の家事一切を現在
の自分の仕事だと思っているらしい。
「こんばんわー。」
「たでーまー」
「やっほー」
「ただいま。」
「失礼します。」
様々な声が聞こえて、年少組が揃って帰って来た。どたばたと、廊下を歩いている音が
近付いて、居間に、まず、シンとレイが顔を出す。その手にしているものに、目を止めて
、ニールも、あっと気付いた。
「ほらな? これは必要だったろ? 」
いそいそと鷹が、エプロンをニールに被せる。後ろのリボンは、マリューがぎゅっと結
ぶ。おかあさんらしい格好で、というのが、大人組のコンセプトだったらしい。うおっと
、シンと大笑いして、レイも微笑んで、出迎えようとしたニールの前に来る。
「いつもお世話になってまーす、ねーさん。これからもよろしくっっ。」
「あなたにカーネーションを贈れるのが嬉しいです、ママ。」
ふたりは、その手の真っ赤なカーネーションを差し出す。感謝の気持ちだから、受け取
らないわけにも行かない。ニールも、「おう。」 と、受け取った。その二人が、ぺこっ
とお辞儀して、また、廊下へと飛び出すと、今度は、悟空とキラだ。オレンジと青と緑の
カーネーションの花束だ。
「いつもありがとう、ママ。これ、青いのは刹那の分な? 」
「ママ、愛してるーん。僕にも一杯愛情注いでね? 」
「うん。」
そして、ペコッとお辞儀して、アスランから別の花束を貰い受けて、これは虎と鷹、三
蔵に渡す。八戒に渡すつもりだったものだ。
「虎さんはアイシャさんに。」
「マリューさんには、ムウさんが。で、さんぞーさんは、ママに。贈呈してね? 」
悟空とキラの命令に、鷹と虎は苦笑しつつ、自分の女房に渡して、頬にキスをする。さ
すが大人組はスマートだ。で、大人気ない坊主は、それに目を止めて、「おい。」 と、
声をかけてニールに投げて寄越す。ニールのほうも微笑んで、それを受け取った。
最後に、アスランとフェルトだ。アスランは苦笑しつつ、「いつも、ご迷惑をおかけし
てますが、今後もお願いします。」 と、真面目に挨拶した。最後に、フェルトだ。手に
は黄色、ピンク、濃いピンクのカーネーションがある。ずいっと差し出すと、ニールが受
け取る。無口な桃色子猫は、「大好き。ありがと。どこにも行っちゃヤだ。」 と、言っ
て俯いた。ありゃありゃと、親猫のほうは、手にしていた花束を一端、卓袱台に置くと、
桃色子猫の頭を撫でて抱き締める。ここにも、衝撃を受けたのがいたか、と、ふう、と、
息を吐いた。
「ごめんな? フェルト。もう、どこにも行かないからな。おまえさんが、休暇に降りて
くるのを、ここで待ってるから、ちゃんと戻っておいで。」
「・・・ニール・・・・嘘つかない? 」
「うん、これに関しては、嘘はつかない。ありがとう。」
「・・・あたしもありがと。」
「俺、ニールに戻ってから、なんか幸せだよ。てか、もう・・・・おまえらはさ。一々、
こんなことしなくていいって、いつも言うのにさ。」
毎年、このイベントを受けている。寺のおかんを拝命してから、年少組は、すっかりニ
ールの子供扱いだ。親のいないのが多いから、代わりになれば、と、思っているが、それ
作品名:こらぼでほすと 一撃3 作家名:篠義