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風の想い

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「挨拶はそれだけか?」また何を言い出すやら。
「誰が見てるかわからないのに呑気なこと言うなよ。」
「冷たいな。」そんな余裕無いんだけど。黙ってると手を握って
「様子を見て迎えに来る。」
「うん。」そのまま手にキスして去っていった。
窓を閉めると母が目を眇めてじっと見てる。思わず仰け反ってしまった。
何も言わずに小さな荷物を持って部屋を出てゆくのを息止めて見送ってしまった。
あー心臓に良くない。見られた…。怪しげだよなあ。ぐるぐるしながら枕元に座り込む。
うわーどうしよう。何か言われるかな…。目の前の子どもの顔を見て一瞬に頭が冷える。いかん。おれの方が呑気だな。そんな場合か。どっちに転んでも現実逃避な気がするが…。
子供の手に触れると皮膚が薄くなっている気がする。ああ。本当に時間の問題だなと感じる。代われるものなら代わってあげたい。それもあんまり良くないか。詮無いことを…。
それでもおれの所為だと思わずにいられない。違う生をあげられたら良かった…。
手を握ることしか出来ないのか…。無力感に飲み込まれそうだ。でも息をしてる。この体温は体が生きたがっている証拠だ。ではせめて見守ろう。そう思うと少し落ち着いた。
 
                 ◆◇◆

暫くしたら母が着替えて戻ってきた。
「変わるから休みなさい。食事が来たら起こしてあげる。」
「うん。」手を離して立ち上がろうとすると何か触れてくる。暖かい空気のような…。見ると指がかすかに動いて掴もうとしている。
「かーさん。」
「え?」気がつくと押しのけられてる。屈みこんで手を握って名を呼んでる。
「アムロ!」母の反応の速さに呆気にとられながら上から覗き込む。瞼が震えてゆっくり開いた。
まともに目が合う。頭の芯が熱くなる。眩暈を感じてよろめいて椅子の背に?まる。ふっと目がそれ
「おかあさん。」と微笑んでそして目を閉じた。
少しずついくつかの数値が下がりアラームが鳴り出す。母は素早く看護師を呼んだ。わらわらと人が集まり邪魔にならないよう少しはなれて見守る。両手を握り締めながら瞬きもせずにじっと見守る母の肩を支えながら立ち尽くす。
一通りの蘇生を試みてから母を見て首を振る。深々と頭を下げて人気が無くなってから枕元に近づく。
「身を清めなきゃ。」
「おれがやるよ。」
母を椅子に座らせて固く絞ったタオルでまだ温かい体を拭く。あちこちに昔の傷跡がある。着替えさせてとりあえずベッドに横たえる。軽い。まだ赤みののこっている顔をまともに見られない。気を引き締めなおして髪を整える。本当に眠ってるようだ。
母は髪を撫でながら声も無く泣いている。かけるべき言葉が見つからないで肩を抱いてる。静かなノックの後少しドアが開いてセイラさんが手招きするので廊下に出る。
「必要な手続きはほとんど終わったわ。霊安室に暫く置かせてもらって教会に移すから。」
「何から何まですみません。」額を叩かれて
「お母さんについていてあげて。」
余程ボケて見えるんだな。確かにボケてるけど。
部屋に戻ると母は泣きながら荷物をまとめてる。
「おれがやるから。」
「何かやってないと大声上げそうなの…。」と言いながら畳んで鞄に詰めてる。無言で手伝って部屋の隅においておく。思い切り泣ける場所なんて病院で望むべきもないか…。屋上とそれこそ霊安室ぐらい。
「あの子はどんなに苦しくても泣き言なんか言わなかったわ…。」
それは文字通り言っても聞いてくれなかったからだ。
「辛抱強い子で…。どうしてあんなに好いてくれたのかしら…。」
「子供は親を好くもんだし。好かれたくて一生懸命になるよ…。」
「あなたが親でしょう?」
「あの子が親に選んだのはかーさんだよ。」
無言でうつむくのでそのまま片手を回して寄りかからせた。
「かーさんが必死で面倒見てくれたのはあの笑顔でわかるよ。俺にはとても出来なかった。」
「意地になってたもの…。」
「意地だけでできる訳無いだろ。」
ぽろぽろ泣き出したのでそのまま抱え込むようにソファに座る。悲しむ母の側にいておれは悲しいんだろうかと考える。考える時点で何か違う。なんだか気持ちがついていけない。

                   ◆◇◆

葬儀が終わって遺灰を持ってセイラさんのお宅に二人で厄介になる。気が抜けて呆然としてる母を一人にしておけない。
食事しながらでも散歩しながらでも声も立てずに泣いている。良くない泣き方だ。食欲もあるし夜も寝てるし死にたいとは言わないからまだましなんだろうけど。
毎日食事を作って食べさせて外に連れ出す。雨の日も傘を差して歩く。

歩きながらぽつぽつと取り留めの無い話をする。散歩が好きだったこと。毎日花を飾ったこと。海が好きだったこと。ピーマンが嫌いだったこと。犬が好きだったこと。気管が弱くて飼えなかったこと…。

歩いて疲れさせた方が夜寝れる。寝たのを確認してベランダから少し外へ出て風に当たっていると庭から声がする。
「アムロ。」
「セイラさん。」
「今時間ある?」庭に降りて近づく。
「どうも。お世話かけてます。」
「それは良いけど。あなたは大丈夫なの?寝てないようだけど。」
「…それなりに寝てます。」
「嘘おっしゃい。そんな顔色で言われても信じられないわよ。」
「そんなに酷いですか?」
「真っ白通り越して青いわ。女性なら化粧で誤魔化せるけど。化粧でもしてみる?」
「えーと。」それはちょっと…。
「わたしが見てるから大人しく寝なさい。あなたが倒れたら元も子もないでしょう。」溜息…。
「実際はそんなに心配することもないんでしょうが。おれには何を見て母が反応するのかわからないので…。」
おれの顔見るのが一番いけないみたいなんだな。毎日人の顔観て泣く。食事しながら…。
結構こたえる…。かといって一人にするのも心配だ。夜中にお水あげなきゃとか冷やさなきゃとか言って目を覚ます。
「誰か頼む?」
「出来れば自分でやりたいんですが。」指で胸を押しながら
「親子ねえ。お母様も人に頼るのを嫌がって何度か倒れたのよ。そんなところばかり似ても困るでしょ。」
「でも…。」
「明日にはミライさんが来るわ。」う〜。
「ブライトは…。」
「ブライトは来ないわよ。そんなに会うに嫌なの?」
そりゃもう怒られるから。ほらほら部屋に帰るわよと追われ寝れなくても横になるように言われる。
「兄さんのことは心配しなくてもまだくるなと行ってあるから。」
「あー。そこまで頭回ってませんでした。」
「あら。かわいそうに。」といいながら笑ってる。
確かに今こられると困るか…。やつのほうが扱い方上手なんだろうけどばれる。気にするなと言われても母には受け入れられないだろう。とにかく今は時間をかけるのが一番良いと思う。泣くだけ泣いた方が…。

                ◆◇◆

目を覚ますと懐かしい声がした。
「おはよう。」ボーつとしながら
「おはようございます。」
「食事の仕度出来ているわよ。」人の作ってくれたもの食べるのも久しぶり。いかん。ボーつとしてるな。
「ご面倒おかけして…。母は?」
「洗濯してるわ。」それは凄い。自分から動く気になるとは。他人を交えるとこうも違うのか。
作品名:風の想い 作家名:ぼの