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風の想い

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「二人でいると駄目ってことですか…。」
「そうじゃないわよ。でも人に見られたくないものもあるでしょう。」
正気に戻ったって事かな。良いことだろう。
「あなたも外でてらっしゃい。」掃除するんに邪魔だと追い出される。久しぶりに一人で歩く。鳥の声とか聞きながらベンチに座る。
「過保護かなあ。」
どうもあれ以上傷つけたくないという意識しか働かない。そんな事不可能だしおれがいると傷つかない訳がないのになあ。それにずっと側にいられる訳でもないし。はー。親不孝ばっかだ…。
まあ、この年になって無理に好かれようとは思わないけど小言ばかり言われるのも…。言うようになったら大分平常になったと言うことだけど。つい今までの埋合わせをしようとしてしまう。
忘れていくことと忘れられないこと。それは本人の選ぶことだ。無理強いは出来ないししたくない。
自分だって思い出したくないことは山盛りだ。後悔しても始まらないこととか…。考え出したら不味いのでカット。
少し走るか…。体をほぐして軽く走る。そんなところは軍人だ。軽く汗をかいてきたので部屋に戻ると庭の一部を洗濯物が占拠してる。
何だこの量。こんなにあつたか?小さいものから大きいものまで…。おーシーツの海?おれの洗濯物まで干してある…。確かに女性物の下着までは洗えなかったけど…。目のやり場に困る。洗濯籠を横において母がボーつとしてる。
「凄い量だね。」
「洗えるものは全部洗ったから…。」
「気が済んだ?」
「少しは…。良い天気だし。」
「そうだね…。」でも庭に合わないよなー。じっと見て
「あなたの着てるものも。」と引っ張られる。
「今着替えてくるから。」剥かれないうちに着替えた方が良さそうだ。汗を流して出てくるとベランダでお茶してる。ミライさんに
「アムロ。お茶いかが。」と呼ばれる。
「いただきます。」母は大分落ち着いたように見える。人徳かな。
「ブライトは元気ですか?」
「相変わらずよ。宜しく伝えてくれと言われているわ。」
会い辛いのはお互い様か。何言っていいのかわからないんだろう。首をかしげて
「あなたは…。少し顔色良くなったわね。もっと食べてちゃんと寝なさい。」
「そんなに酷いですか?」
「今朝見たより良いわよ。でもまだベッドに押し込みたくなるような顔しているわ。」にこやかに言われても聞かないと引きずられそうだ。
「昼食後は少し寝なさい。話はまたその後で。」母は人をしげしげ見て
「そうしなさい。」と言う。一人でも勝てないのに二人掛りなんて…。立場無いな…。

◆◇◆

ピアノの音がする…。いま自分がどこにいるのか一瞬わからなくなって身を起こすと窓が開いてて風が入ってきてる。音の出所をたどっていくと母がアップライトピアノを弾いている。
たどたどしい音。とばしたり引っかかったりしてる。
「ピアノ弾くんだ。」
「あの子が好きだったから。あんまり上手くならなかったけど。」
ピアノに寄りかかって座り込む。
「何か引いてくれる?」
「いいわよ。」
音が心地よい。膝抱えて眼を瞑って聞いてると音が途切れた。振り仰ぐとまた泣いてる。
「ごめんなさい…。同じ姿で聞いていたから…。やる事なすことどうしてそんなに似ているの?」
「そう?」そう言われても…。泣かせたなあ。
「謝るのはこっちだよ。おれといるの良くないみたいだ…。」泣いてる母を抱きしめながら
「役に立たなくてごめん。出来るだけ早く居なくなるようにするから…。」連絡してもらって早めに消えた方が良さそうだ…。と母は涙を拭きながら体を離して
「そんなことないわ…。」
「そうかな。」腕を掴んで目を見ながら
「大きくなっている分丸抱えしてくれるじゃない。気配は同じだから不思議な感じ…。それに昔と同じにやさしいのがわかって安心したわ。」と言う。
「だと良いけど…。」
「でもあなたには良くないみたいね。無理しないでもう行っても良いわよ。」
「そんなに邪魔?」
「そうじゃなくて…。あなたを責めそうなの。最初から長生きできないといわれていたのを無理に預かったのに。何故泣きもしないのか。あの子はどうしてあんなに体が弱かったのか。傷だらけだったのか。会いに来なかったのか。」眼を瞑ってしまう。
「答え辛いことばかり聞くね…。言えるのは今のおれにはどう考えて良いのかわからないんだ。あの子のことはほとんど知らない。かーさんから聞く事しかわからないし。怖がられてたし。あんな子供が死んだというのに…。冷たいんだろうな…。」べちっと額を叩かれる。
「ばかね。そんな事ないでしょう。」
「そうかな。」
「可愛くないわねー。親の言うことは聞くものよ。」可愛くないのは昔からではないかと。人の顔観て読んだように
「別れる前は凄く素直で可愛かったわよ。」別れてる間に変わってしまった。母の気に入るようには成長しなかった。また額を叩かれて
「あなたに文句言うなら自分の手で育てるべきだったのよ。そうしなかったのはわたしの都合だったんだから。その辺の事聞かないのね…。」
「聞いても仕方ないだろ。」
「本当に可愛くないわねえ。」ぺちぺち額をはたかれる。
「痛いよ…。」額をさすりながら離れるとじっと見て
「少し位泣けばいいのに。」
「いい年してそんな簡単に泣けないよ。」ぶつぶつ文句言っている。大分元気になったみたいだ。
「かーさん。お願いがあるんだけど。」疑り深げに見る。あー親子だな。
「何よ。」言って見ろとばかりに睨む。
「おれの死亡認定をして欲しいんだ。」一段ときつくなる。
「…可愛くない。」だから前からです。
「そうすれば遺言に沿って財産処分できる。このままじゃいずれ政府に没収されるだけだから。大した額じゃないけど。」やや暫く睨んだまま口をつぐんでる。
「そうね…。こっちのお願いを聞いてくれるなら考えてもいいわよ。」
「えーと。何?」にこにこしてみてる。何言うかな?
「こっちに残って。一緒に暮らしたい。」うーん。べちっとまた叩かれる。
「何よその顔。冗談よ。」
「…何で額たたくの?」
「眉間にしわよせるからよ。真面目な話あなた飛行機の操縦なんでもできるの?」
「出来るけど…。」
「散骨したいの。そういう約束だから。」
「セイラさんに相談してみる。」
「お願いね…。」そのまま部屋を出て行った。本当に冗談だったのかな?冗談にしてもらおう。つくづく親不孝ものだ…。

                ◆◇◆

セイラさんの自家用セスナを貸してもらって近くの湖の方に飛んだ。
「許可得なくていいんですか?」
「わからないから大丈夫よ。」いいのか?遺骨のほとんどは花と一緒に出来るだけ上空から撒いた。
「いいの?」
「あのこの望みだから。自然の中に帰りたいと言うのが。」
「じゃ宇宙でも良かったの?」
「緑が良いって…。」
泣かないのが良いのか悪いのか…。降りて整備の人に渡して先に戻る母に追いつく。
「かーさん。」
「あなたはもう行きなさい。心配してくれるのは嬉しいけど。」
「また暫く会えなくなるのにそんなに急いで追い立てなくても。」
「死んだ人には会えないものでしょう。」表面上は大分平静になったな。
「そんなに無理しなくても。」
「あなたに頼りたくないのよ。」
「嫌われたものだね。」
作品名:風の想い 作家名:ぼの