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風邪引きの恋

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 やがて涙が涸れた頃、才次は急に起き上がり脇目も振らず洗面台へ走った。
突然の行動に呆気に取られている間に、泣きはらした目の才次が
顔を真っ赤にしたまま帰ってきて、おとなしくベッドに戻った。
度々目を擦っているところを見ると、泣きすぎて目蓋が重いのだろう。

「大丈夫か?」
「ん…」
「そっか」

軽く笑って頭を撫でてやると、目を閉じてされるがままにしている。
子猫のように柔らかな髪が指に絡まって、心地いい。
傍らの卓に目をやると、手をつけていない林檎の乾いた香りが
部屋に広がっていることに気付いた。
時間が経ってしまったものを出すのは気が引けたが、この林檎以外には
食べるものが一つもないから、仕方なく小さめの林檎を楊枝に刺して渡した。
才次は文句を言わずそれを受け取ると、小動物のように少しずつ食べ始める。
林檎をかじる音だけ、部屋に響く。

「うまいか」
「うん、」
「まだあと二つあるから、誰か来たら剥いてもらえ」

二つ目を手渡しながら、俺はへたくそだから、と付け足して笑うと、
つられたように才次も笑った。

「でもさ、」
「うん?」
「おれ、一郎太が切ってくれたのがいいな」

林檎をかじりながら、才次が言う。
そしてかじるそばから、また、ぽろぽろと泣き始めた。

「今日来てくれて、すごい、嬉しい。
 でも、迷惑かけてるのが解る。本当にごめん。
 一郎太好きだよ。すごくすごく好きだよ。
 おれはもう平気だから、もう、帰んなよ」

 もう一度、胸に痛みが走る。
もやもやと得体の知れない感情が広がる。
言わなくちゃ。才次が誤解している。このままじゃ。

「いちろうた、」

才次が言葉を言い終わるか終らないかの内に、俺は、才次を抱き締めていた。
言葉で弁明する事を放棄してしまった。
何を言っても、今の才次は俺を追い返すだろう。
だったら行動で示すしかない。
俺は、

「え、え、一郎太、」
「俺、山規のこと嫌いなんだ。クラスの。だからそいつとは一言も喋らない。
 目も合わせないし、ましてや触れ合いもしない。
 嫌いな奴とは接触しない主義なんだ、俺は」
「なに」
「でも才次、俺はずっとお前とは喋ってるよな」

言外の意を汲み取ったのか、才次が小声で何かを呟く。
構ってられない。今は、伝えなくちゃいけないことがある。

「才次、お前の気持ちにはまだ応えられないけど、
 俺はお前のこと、嫌いじゃない」

そこまで言い切って、俺は大きく息を吐いた。
言った。ちゃんと言った。
嫌いじゃない。
我ながら残酷な言葉だと思ったが、今の俺に言えるのはここまでだ。
まだ、解らないから。才次のことが好きかどうか。
そしてそれがどういった好きなのか。
 才次の早まった鼓動が、服越しに伝わる。
おずおずと背に回された手が、俺のシャツを掴む。

「そんなこと言って、いいのか?
 おれ、勘違いする。好きになってもらえるかもって、思うぞ」
「ご自由に。そのあたりは、お前に頑張ってもらうしかないな」
「うぅ…いちろーたぁ…猛烈にすき……」





作品名:風邪引きの恋 作家名:さまよい