こらぼでほすと 一撃4
「三蔵さんの相手ばっかしてたら、とうさんが拗ねるだろ? たまには、帰ってよ? 」
そう言われると、そうか、と、ニールも頷くが、だが、寺のほうの用事は、放り出して
あるから、一時帰宅させろ、とは、言う。
「おとつい、とうさんが、三蔵さんと悟空には話通したって。だから、大丈夫。」
「俺は聞いてない。」
「いいじゃん、サプライズってことにしといて。」
もう、と、ニールは呆れているが、決定事項は覆らない。土日だけ泊まって、寺へ帰れ
ばいいか、と、気楽に考えている。
これから夏になって使うだろうから、と、まずは、ビアカップを六個買った。五個でよ
かったのだが、六個セットだったのだ。ひとつは、寺へ貰おうと思っていたら、まあ、い
いじゃないか、と、トダカに止められた。
「予備にしておけばいいさ。割ったり欠けたりすることもあるだろう。」
これが、第一弾と、シンが代表して、トダカに渡したら、びっりしてから、トダカは嬉
しそうに頷いた。陶器のビアカップは、素朴な色合いで、手触りもざらざらしている。こ
れなら、滑って落とす被害も少ないし、お茶でもビールでも、なんでも飲めそうな雰囲気
だ。微妙に色合いが違うし、形も一定ではないというのも、選んだ理由だ。
「じゃあ、早速、これで乾杯しようか? 」
「じゃあ、ビールに合う肴を用意します。」
トダカが、本当に嬉しそうで、贈ったほうも満足だ。土曜日は、アマギだけは顔を出し
ていたのだが、それも午後早くに帰ったらしい。オーヴ軍のシフトの加減で、こういうこ
ともあるらしい。
「珍しいですね? 誰も来ないなんて。」
「年度末だから、いろいろとあるのさ。」
元テロリストには、年度末の忙しさなんてものは理解できないので、トダカもスルーだ
。さあて、何を作ろうか? なんて、冷蔵庫と相談している。
「とうさん、買出ししてこようか? 」
「いや、適当で良いさ。シン。」
四人だから、気合を入れる必要もないだろうと、冷蔵庫と冷凍庫にあるもので、適当に
して、ビールで乾杯した。シンとレイは、未成年だが、ビールぐらいは咎められない。ト
ダカは、早々に、そのビアカップの中身を冷酒にして付き合っていたが、それでもビール
でシンは潰れた。やれやれ、と、レイが、そのシンを運ぶなんてことになる。
「コーディネーターでも、万能じゃないって、シンが潰れると、いつも思うよ。」
「肝機能は、数値は高められるんでしょうが、それでも飲めない家系だと、限度がありま
すから。」
「レイは、どうなんだ? 」
「俺も、ふわふわと気分が高揚はしますが、それだけですね。」
で、このふたりは、ザルなのでニールは、ビアカップの中身は、ウーロン茶に変更して
付き合う。どれだけ飲んでも、ニコニコしているだけなので素面と変わらないというザル
だから、付き合ったら、こっちが二日酔いになる。
「ニール、先に風呂に入ればどうだい? 」
「ママ、大丈夫ですか? 」
飲んでいる二人が、ぽやーっとしてきたニールに声をかける。ビールが、いい感じで回
っているらしい。
「まだ、大丈夫。レイ、おなか足りてるか? 」
酒の肴ばっかりだから、主食は食べていない。麺類でも作ろうか、と、尋ねているニー
ルに、レイのほうが、「それなら、ママが食べてください。俺が作ります。お茶漬けなら
入るでしょ? 」 と、立ち上がった。ふらつきもしないで、台所へ行ったレイは、なん
だか陽気で、ふんふんと鼻歌が聞こえてくる。
「あれは、酔ってるんですか? トダカさん。」
「軽くね。娘さんや、意地を張らないで、お茶漬けを食べたら風呂に入りなさい。目が眠
そうだよ? 」
「あーいい感じなんですよ。レイとトダカさんの会話聞いてるのも心地良くて。」
「だから、それは酔ってるんだよ。」
あはははは・・・と、トダカは大笑いして、さらに、ぐいぐいと冷酒を煽っている。ト
ダカも、いつもより陽気だ。
小ぶりのお茶碗に、半分くらいのごはんと、温かいお茶を、レイが運んできた。そして
、お茶漬けの素を、何種類か見せてくれる。
「シャケと海苔と梅干とタラコとワサビがありますが、どれがいいですか? 」
「うーん、タラコ? ワサビ? へぇーそんなのあるんだ。うちは、海苔とシャケしかな
いなあ。」
「ワサビは、ちょっと辛味がありますが、口はすつきりします。タラコは、焼いたタラコ
の味です。」
西洋人コンビだが、すっかり和食生活が板についているから、どっちも、そんな感じだ
。タラコにするよ、と、ニールが決めると、レイは、その封を切って、ごはんの上に、半
分くらい振りかけて、お茶を入れる。
「はい。どうぞ、ママ。」
「ありがと、レイ。おまえさんは、いいのか? 」
「俺は、まだ、トダカさんと飲みますから。それから、今日は客間で寝てください。先に
シンを端に転がしてますから、真ん中の布団へ。」
「ああ、うん。」
子猫たちがいなくなると、しばらくは誰かの気配がないと眠りが浅い。だから、なるべ
く゛誰かが同じ部屋で寝るようにしている。ハイネは、これに付き合わされることが多い
から、間男認定されている。
さらさらとお茶漬けを食べると、ニールは、そこいらの空いた食器だけは片付けて、「
おやすみなさい。」 と、客間に行った。
パタンと客間のドアが閉まる音がして、トダカとシンは、顔を見合わせて、ぶっと吹き
出した。そして、大笑いだ。
「きみのママは可愛いと思わないか? レイ。」
「かっかわいいです。・・・・くくくくくく・・・・半分、寝てましたよね? 」
トダカとレイが、世間話をしつつ飲んでいる横で、実は、ニールは船を漕いでいた。今
日は、昼寝もしていないし、ビアカップ選びもしていたから、一杯のビールで、酔ってし
まったらしい。当人は、起きているつもりだったらしいが、見事なくらいに、こっくりこ
っくりと船を漕いでいるので、寝るように勧めたのだ。当人は、普通のつもりだが、ふら
ふらして、ほよほよとしているのは、かなり可愛い。トダカが、「うちの娘さん、可愛く
ておもしろいんだ。」 と、いつも、言うのだが、実態を見て、レイも納得した。
「あれなら、何にも考えずに、ぐっすり眠れるだろう。」
「そうですね。・・・・トダカさんは、どうします? 」
二本ばかり五合壜は空になっている。レイとトダカは、まだ素面に近い状態だ。多少、
酔っているから、笑い声が大きいぐらいのことだ。
「もう一本行けるか? レイ。」
「ええ、俺はかまいません。」
「なら、じっくりと呑もう。きみがいてくれて有難い。シンは、弱すぎて相手にもならな
いんだから。」
「晩酌の相手なら、いくらでも付き合いますよ、トダカさん。」
レイが、そう言うと、トダカは嬉しそうに頷く。秘蔵のがあるんだ、と、冷蔵庫から新
しいのを取り出してきた。
「こればっかりは、呑める相手でないとね? 」
「ママには、やめてください。」
作品名:こらぼでほすと 一撃4 作家名:篠義