こらぼでほすと 一撃4
「それはしないな。シンは、味見だけはさせてみるんだが。あの子は、まだ、子供の口だ
から、この味はわからない。」
「俺も、子供ですが? 」
「まあまあ、飲んでごらん。」
こぽこぽと、ビアカップに半分ほど注がれた冷酒は、ちょっと果実の匂いのする辛い酒
だった。確かに、これは美味い。後口がよくて、ごくごくいけそうだ。
「これは美味いですが・・・・シンには危険ですね? 」
「そうだろ? こういうのは、じっくりとやるのがいいんだ。」
くいっとトダカも呑んで、くくくくく・・・っと笑っている。レイも、こくっと呑む。
おいしいものを食べたり呑んだりすると、自然に笑いが込みあげるものなんだよ? と、
ニールに言われているが、本当に自然と顔が笑えてくるから、そういうものなんだろう。
「息子と、こうやって飲める日が来るとはね。」
「トダカさん。」
「きみもシンも、どんどん大人になって行くんだなあ、と、これで実感するよ。」
贈られたビアカップもさることながら、こうやって呑めるのが、トダカには、何よりの
贈り物だったらしい。
日曜日を何事もなく楽しく家族と過ごしたトダカは、月曜日も機嫌良く、『吉祥富貴』
に出勤してきた。いつもなら、一人だが、ただいま里帰り中のニールと一緒だ。明日の準
備のために、業者が打ち合わせにやってくるので、早めに開けることになっていた。月曜
日は、予約がないので、ほぼ打ち合わせや衣装合わせをする予定になっている。だから、
一応、全員が出て来るが時間はマチマチだ。
まずは、明日の下ごしらえがある爾燕が現れて、ニールも、そちらの応援に出向く。次
に、沙・猪家夫夫が来て、帳簿の整理をしがてらに、内装業者との打ち合わせが入る。さ
らに、アスランとキラのばかっぷる夫夫がやってきて、こちらは、衣装合わせだ。
トダカのほうは、明日の来客用のウエルカムドリンクを、シャンパンベースの軽いもの
でひとつ、それから、飲み物の種類と、それによって消費するフルーツや小物たちの量を
、ざっと計算して、業者に発注する。お祝いの席だから、シャンパンはいつもより多く、
かなりの量になる。後は、各地域のビールだの酒だのと、在庫と照らし合わせて、これら
も注文だ。ワインカーヴで、それらを確認していて、湯布院からの荷物が、そこに放置さ
れていることに気付いた。バタバタしていて、これを出している暇はなかった。ちょうど
いいから、これの試飲も兼ねて、出してみるか、と、そのケースを、持ち上げようとして
、グギッと嫌な音がした。
これを西洋では、「魔女の一撃」 と、言う。東洋名は、「ぎっくり腰」。トダカのは
、典型的な一撃だった。
で、ここで、トダカが、ケースを取り落とさなかったのは、その染み付いた軍人根性が
あったればこそだ。普通なら、そのまま、ケースを落として、ダメにしていたところだが
、ゆるゆると置いてから、床に転がった。こればっかりは、気合でどうにかなるものでは
ない。しばらく、この激痛を我慢して収まったら、医者へ行って麻酔でも打ってもらうし
かない。
「おーい、お父さん。衣装合わせしてくれないかー? 」
そのワインカーヴへ、暢気な声が響いて虎が入ってきた。今回は、バックヤードも全員
、中華服ということになっているから、虎やダコスタ、トダカも着替えることになってい
た。順番が来たので、虎は呼び出しに来たわけだが、そこに転がって、「おーい。」 と
、手を振っているトダカに大騒ぎになったのは言うまでもないことだ。
虎がワインカーヴから引っ張り出して、ホールのソファに転がした。とりあえず、本宅
のドクターのところへ運ぶか、ということになる。
「痛みだけでも和らげておきます。」
八戒が、旗包のままでやってきて、とりあえず気功波を当てる。その間に、ドクターと
連絡がついて、本宅へ運ぶことになった。ハイネが運転手、ニールが付き添いだ。そのま
ま、看護のほうはニールが一手に引き受けることで、そちらはどうにかなった。
「問題は、明日のバーテンダーがいないってことですね。」
アルコール関係の手配をしていたトダカがリタイヤというのが痛い。そちらはまかせっ
きりだったから、誰も事態を把握していないからだ。
「明日は、とりあえず、デリバリーに追加してバーテンダーを派遣してもらいます。立食
パーティーですから、好みのカクテルがなくても、お客様からのクレームはないでしょう
。」
お客様が大量に押し寄せるので、スタッフだけでは手が足りないから、最初から、ウエ
イターは頼んである。そちらに、バーテンダーの派遣も頼めば乗り切れるだろうと、アス
ランが早速、手配する。
「もうひとつ、ママの衣装が無駄になっちゃった。せっかく、綺麗なの用意してもらった
のに。」
で、ナンバーワンホストの大明神様の問題点は、そこだ。皇帝服で、ラクスとアスラン
、レイ、ニールなど綺麗どころを傍に侍らせるつもりで、ど派手なチャイナ服を準備して
いた。
「ハイネにでも着せておけ。」
「やだぁーハイネじゃ、僕と釣り合いが取れないよ。」
ただいま、運転手で出張っているので、ハイネ当人は、ここにいない。ハイネだって、
かなりのイケメンだが、大明神様の後宮にはお呼びではないらしい。
「とはいっても、トダカさんの看病を放り出してしてもらうのは、いかがなものですか?
キラくん。」
「わかってるよ、八戒さん。・・・・うー、あれは似合う人少ないんだよねぇ。」
「どんなイロモノだ? それは。」
「ラクスが鳳凰の髪飾りで、ママが孔雀なんだ。対になってたから、できたら並べたいん
だけど・・・・ママに近い体格って・・・・・あ・・・・」
そこで、キラが眼中にロックオンした相手は、ニールの亭主だ。身長は、ちと足りない
が、顔は美人さんだ。カウンターで、勝手に湯布院地ビールを試飲している三蔵に人差し
指を向けた。
「あれ? おい、キラ。化け物だぞ? 」
げっっと悟浄が手を横に振る。確かに、背格好なら、なんとかなりそうだが、あの凶悪
顔と台詞では、お笑い担当だ。
「黙ってれば悪くない選択ですが、あれは喋りますんでね。」
もちろん、八戒も止める。こっちが笑い死ぬという理由だ。さらに、あっちこっち暴力
沙汰に展開もするだろうという予想もある。笑った者から順番に、キレた坊主にタコ殴り
にされるだろう。
「キラ、それなら議長が来るから、やってもらえばどうだ? 」
二年ほど仕事の都合がつかなくて来なかったのだが、今年は何が何でも、と、休みをも
ぎとった、どっかのプラントの議長様がやってくる。お客様名簿を覗いていた鷹が提案す
る。キラが、にっぱり笑って、「僕の後宮に入って? 」 と、小首を傾げたら、確実に
、あれはやるだろう。割と、お祭り好きなのでノせやすい。
「うーん、まあいいか。」
そして、キラも、まあしょうがないと頷く。さすがに、怪我人の看護しているママを、
作品名:こらぼでほすと 一撃4 作家名:篠義