ぐらにる 流れ4
と美味いんだよな。てかっっ、あんただよっっ、あんた。俺が質問してんのに、混ぜっ返
すなっっ。」
「あまり好き嫌いはないんだ。ここのところ、ほとんど軍に詰めていたからな。軍の食堂
で出てくるものを、とりあえず食べるしかないという状況さ。・・・・子どもの頃は、バ
ケットで作るフレンチトーストが大好物だった。」
「バケット? 食パンじゃなくて? 」
「ああ、バケットだ。母親が、前の晩から仕込んでいたよ。」
「それ、フライパンで焼けるのか? 」
「焼いてたはずだ。」
「わかった。じゃあ、明後日の朝な。それから? 子どもの頃の好物は? 」
「うーん、ハンバーガーだろうな。」
「・・・もういい。わかった。」
さすが、生粋のユニオンだ。それなら、ちょっと他では食べられないハンバーガーでも
作ってやろうと、レシピを考える。それを眺めて、彼はクスクスと笑っている。
「私は、姫の料理が食べられなくなったら禁断症状を起しそうだ。いっそ、花嫁としてユ
ニオンに連れて帰りたいよ。」
「あーあんたの国は、男同士で婚姻届が出せるお国柄だったな。けど、うちは、そうじゃ
ないから無理。」
「AEUだって、今は、そうだろ? いや、ここはダメだったか・・・人革連だと銃殺も
のだな。ということは、きみの勤め先は、そこか? 」
「グラハム、その詮索はいただけない。」
「そうだったな。」
互いのことは詮索しない。企業からのオーダーで守秘義務があるから、尋ねたりしない
でくれ、と、同居する時に、それは頼んだ。家族のことは話したが、それも地名は一切話
さなかった。二ールの名前と故郷ぐらいでは、俺の正体は判明はしないだろうが、普段、
休暇を過ごす場所ではあるから、その言明は避けた。万が一、出会わないとも限らない。
買出しの荷物持ちをさせようとしたら、カートは引っ張ってくれたものの、勝手にあち
こっち歩き回ってくれるので、荷物持ちには不適格だと判明した。
「二ール、ギネスでいいのか? 」
「ああ、それとレーベンブロイも頼む。あんたはバドワイザーだろ? 」
「ワインの好みは? 」
「飲めりゃなんでもいいぜ。」
「じゃあ、カリフォルニアとイタリアかな。」
「ついでに料理用の安い白ワイン。」
「赤は? 」
「まだ残ってる。・・て、おいっっ。どこへ行くっっ。」
「あそこに、おもしろそうなものがある。」
郊外型の広いスーパーだから、見失うと探すのが大変だ。仕方なく、彼が歩いて行くほ
うに従ったら、そこはお菓子売り場だった。あんたは子供か、と、ツッコミつつ、一緒に
歩く。色とりどりのゼリービーンズがあって、ティエリアとアレルヤが喜びそうだな、と
、ひとつ手にした。刹那は、プリンのような柔らかいものが好きだ。あれは日持ちがしな
いので、それは買わない。
「甘いものも好きだったか? 」
「いや、俺の同僚が喜びそうだと思ったんだ。」
「また、きみは、私の存在をないものにする。」
「そうじゃない。こういうの買うことは、あまりないから見つけた時に、と、思っただけ
だ。」
「じゃあ、私にも選んでくれ。」
「はあ? 」
「私にも、何か甘いものを選んでくれ、と、言っている。」
「食べるのか? 」
「きみが選んでくれたならな。」
こんなもの食べたいか? と、思いつつ、同じゼリービーンズの瓶を三個、カートに放
り込んだ。それからも、勝手に歩き回る彼に閉口しつつ、食材を放り込んだ。パテから作
るハンバーガーに挑戦するために、それらも放り込む。しげしげと放り込む食材を見て、
「これで、あの料理が構成されているのか? 」 と、グラハムが感心するのがおかしく
て笑ってしまった。
その日は、時間がかかったので、簡単なもので済ませた。翌日の仕込みをしていたら、
また、背後から抱きついてくる。
「だぁーーうっとおしいっっ。」
「あんまりな感想だぞ? 二ール。」
「あんたのリクエストを作ってるんだから大人しく、テキストの予習でもしててくれ。」
「それは、フレンチトーストか? 」
「そう、あんたが好きだと言ったバケットで作るフレンチトースト。・・・ケーキみたい
な感じになるんじゃないかな。」
出来上がりを想像するに、そういうものだろうと予想はついた。焼き上げるのに、焦が
さないように注意は必要だが、それ以外は難しいものではない。最後に、メープルシロッ
プをかければ完成するはずだったが、意外な落とし穴があった。
翌朝、それを焼き上げて、メープルシロップをかけて出したら、グラハムが怪訝な顔を
したからだ。
「違ったか? 」
「いや、形状は、これなんだが・・・ハチミツの種類が違うのかな。こんな濃い色ではな
かったと思うんだ。」
「ハチミツ? 」
「そうだ。ハチミツだ。」
「あーしまった。ユニオンの人間だから、メープルシロップだと勘違いしてた。悪い、ハ
チミツじゃないんだ。明日、ハチミツのやつを作るから、今日は、それで勘弁してくれ。
」
ユニオン領で、それにかけるものと言えば、定番のメープルシロップだとばかり思って
いた。だが、グラハムの生家では、メープルシロップは、あまり使わなくて、ほぼハチミ
ツで代用されていたらしい。まあ、これもおいしそうだ、と、一口食べて、顔を綻ばせた
。
「美味いな、これも。・・・姫特製フレンチトーストということにしよう。きみが作るの
は、これでいい。ハチミツにしないでくれ。」
ばくばくと食べているところを見ると気に入った様子なので、ほっとした。一口にユニ
オンといっても、そこも国々が連合している。だから、ユニオンのものだと思っても、そ
れを使わない地域もある。
「ユニオンも広いもんな。・・・逆に、俺は、メイプルシロップのほうが貴重だったから
さ。」
ないことはないが、本物のメイプルシロップは高価だった。だから、俺の生家では使わ
れることはなかったのだ。幸せな人生を送っているだろう彼なら、そんなことは些細なこ
とだろう。グラハムは、飢えたことがないというのは、判明している。なぜなら、食事を
残すことに罪悪感がないからだ。過去、一切れのパンが貴重だった自分は、残すことがで
きない。アレルヤや刹那もそうだ。残すのが、当たり前だと思えるのは、飢えたことがな
いからだ。ある時は食べておかなければ、次はいつかわからない、なんていう経験がある
と、そうなる。だから、刹那は冷凍庫に、たくさん詰め込んだ食料に怒ったのだ。食べき
れなかったら、どうするんだ、と。
「姫、寝不足か? 」
はい、と、差し出されたフレンチトーストを、無意識に口に入れた。確かに、ちょっと
寝不足ではある。魘されないように、と、毎晩、いろいろとやってくれるので、眠る時間
は短い。また、差し出されたものを、口にして、はっと気付いた。
「あのな。」
「眠いなら、私が食べさせてさしあげよう。さあ、姫。口を開けて。」
「いや、自分で食べられる。」
「こういう経験は、なかなかできないものだから、やらせてくれ。」
ほら、と、楽しそうに差し出されるフォークからは、メープルシロップが垂れそうにな