【かいねこ】桜の季節に共に笑おう
結局、いつものスーパーに行く気になれず、別の店で手早く買い物を済ませると、遠回りして帰ってきた。
まだ、前のマスターがいるかと、気をつけて周囲を見回したけれど、諦めたのか姿は見えない。
それでも、玄関を入って、鍵を締めた時には、心底ほっとした。
「カイトさん、お帰りなさい」
奥から、ぱたぱたといろはさんが出てくる。
「あ、ただいま」
「どうしたんですか?顔が青いですよ?」
「え?あ、だ、大丈夫。何でもない」
まだ訝しげな視線を向けるいろはさんの横をすり抜け、俺はキッチンに向かった。
買ってきた物を片づけ、買い物袋をいつもの位置に置くと、後ろからいろはさんに抱きつかれた。
「うわっ!?何?」
「大丈夫です、あたしがいますから」
「え?」
「何があったか分からないし、あたしじゃ、大したことは出来ないかもしれないけど。あたしは、何があってもカイトさんの側にいますから。だから、大丈夫です」
・・・・・・・・・・・・。
「ありがとう」
回された手に、自分の手を重ねる。
そのぬくもりが、不安を押しやってくれる気がした。
「俺も、いろはさんの側にいるから。何処にも行かないから」
「はいっ。何処にも行かないでください。此処にいてください」
「ありがとう。いろはさんのこと、好きだよ」
「え?」
言ってから、しまったと思う。
急に恥ずかしくなって、自分で自分の顔が赤くなっていくのが分かった。
「い、いや、あの」
「あ、えっ、あ、あたしも、カイトさんのこと・・・・・・好き、です」
いろはさんは、更に腕に力を込めて、
「だ、だから、離れないでください、ね」
「う、うん」
お互い身動きがとれなくて、馬鹿みたいにキッチンに突っ立つ。
マスターが帰ってきたら、まず何から言えばいいのかと、ぼんやりと考えた。
作品名:【かいねこ】桜の季節に共に笑おう 作家名:シャオ