【かいねこ】桜の季節に共に笑おう
引き取られた時は、すでにいろはさんがいた。
俺の入り込む余地などないくらい、仲のいい二人が羨ましくて、妬ましい。
俺は、あんな風に笑えない。
マスターが仕事に行っている間、俺はいろはさんと留守番だ。
「カイトさーん、お茶淹れますねー」
「俺はいいよ」
「ついでですからー」
キッチンから、かちゃかちゃと食器の触れ合う音がする。
手伝おうかと、立ち上がりかけた時、ふと部屋の中が暗くなった。
窓の外に目を向けると、ぱらぱらと雨が降り出し、あっという間に窓ガラスを濡らしていく。
マスターは傘を持っていっただろうかと、ぼんやり考えていたら、視界をカーテンで塞がれた。
「あ、ごめん。気がつかなくて」
「い、いえ、あたしのほうこそ、いきなりすいません」
いろはさんは、カーテンを全部閉めた後、あたふたとキッチンに戻っていく。
締め切られた部屋の中、電灯のスイッチを入れながら、どうしてあれほど雨を嫌うのだろうと、考えた。
いろはさんは、雨を嫌う。
雨の日は外に出たがらないし、テレビを見ていても、雨の映像を嫌がった。
最初は水が嫌なのかと思ったけれど、洗い物や入浴を避ける様子はない。とにかく「雨」が嫌いなのだ。
「おー待ーたーせーしーまーしーたー」
お盆を持って、いろはさんがやってくる。
「ありがとう」
「いいえー。あ、熱いから気をつけてください」
湯気を立てる湯呑みを眺めながら、
「いろはさんは、何で雨が嫌いなの?」
「え?」
「あ、何か答えたくないことだったら、無理には」
「いえ、マスターから聞いるかと思ってたんで。あたし、雨の日に捨てられたんです」
「ああ・・・・・・ええ!?」
さらっと言われて、一瞬聞き流しそうになったけれど、驚いて、いろはさんの顔を見た。
作品名:【かいねこ】桜の季節に共に笑おう 作家名:シャオ