【かいねこ】桜の季節に共に笑おう
濡れた髪を拭きながらリビングに入ると、電灯がついていない。
薄暗い部屋の中、いろはさんが床に座って、ヘッドホンをつけていた。
「いろはさん・・・・・・?」
明かりをつけると、いろはさんがハッとして振り返る。
頬を濡らす涙に、驚いて固まっていると、いろはさんが慌てて顔を拭いながら、
「あ、ごめんなさい。大丈夫です。ちょっと、あの」
立ち上がろうとして、ヘッドホンが外れる。
大音量の音楽が漏れてきて、俺は、いろはさんとヘッドホンを交互に見やり、
「いろはさん、無理しなくていいから」
「・・・・・・・・・・・・」
いろはさんは、無言で俯いた後、
「雨・・・・・・が・・・・・・」
ぽつりと言った。
「離れ・・・・・・なくて・・・・・・雨の・・・・・・音が・・・・・・ごめっ・・・・・・ごめんなさっ・・・・・・」
拭っても拭いきれない涙を見て、気がついたら、彼女を抱きしめていた。
「大丈夫。大丈夫だから」
「カイトさ・・・・・・」
「大丈夫だから。俺がいるから。俺が、側にいるから」
「んっ・・・・・・はいっ・・・・・・」
泣きじゃくるいろはさんの体を抱きしめ、俺は「大丈夫」と繰り返す。
腕の中に収まる存在を、誰よりも愛おしいと思いながら。
作品名:【かいねこ】桜の季節に共に笑おう 作家名:シャオ