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野沢 菜葉
野沢 菜葉
novelistID. 23587
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きらきら星 【後偏】

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8
今日の練習は何したのか覚えていない。
気が付いたら、花井に部誌を渡されていた。



(あーもう訳わかんないよ!!)



「おい。早くしないと帰れないぞ。」
「うぇ!えっ栄口!?」
急に声をかけられたのと、それが今まさに意中の人だということが重なって、
盛大に驚いてしまった。

「水谷なんかあったの?」
…なんかありました。しかも栄口が関係してます。
あっそういえば前聞いたことあるな…

「…栄口は俺が1番?」
「へっ?」
1番と特別って違うのかな?俺は栄口の1番になりたいって思ってたんだ。
何かヒント得られないかと思ってドキドキしながら返事を待つ。

栄口は少し考えると、
「…1番だよ!!」
と不機嫌そうに言った。

だけど、その言葉がとても嬉しくて…
その頬が少し赤く染まっていて、とても可愛いと思ってしまったから…
抱きしめたいなって思ってしまったから…


俺は衝動的に栄口の腕を引き、唇を重ねた。
「…っ」

栄口は男の子だから、少し唇がかさついている。
けれど俺を甘い感覚に酔わせるのには十分だった。
俺の中で足りなかったピースが埋まっていくような感じ。

(もっと栄口を感じたい。)
そう思った時、


ドンッ

音がすると思うと背中に衝撃が走った。
前を見ると、顔を真っ赤にして泣きそうな栄口がいた。


「オレを彼女の変わりにするのはやめろ!!」
「オレは坂井さんなんかじゃない!!」

そう言って、ドタバタと部室を出ていってしまった。
俺は頭がついていかず、前もこんなことあったなとか呑気なことを考えていた。








どのくらいの時間そうしていたのだろう。
何かのきっかけで、はっと我に返った。
さっきまで自分がしていたことを思い返す。

「あーーー」
なんてことやっちゃったんだろう。
男が男にキスされるとか、気持ち悪いに決まってるじゃないか。

だけど、俺の気持ちははっきりとわかってしまった。
俺は栄口のこと男ってことで見ていなかったけれど、そういうことじゃないんだ。
栄口だから…栄口じゃないと好きになれない。

ふと、さっき栄口が去り際に叫んでいたことを思い出す。
この先、栄口は話もしてくれないかもしれない。きっと俺のこと嫌いになってしまっただろう。
だけど、謝りたい。何より、誤解されたまま嫌われるのは嫌だ。
…それなら全部気持ちを知って貰って嫌われよう!





次の日、栄口はいつものように振舞おうとしているけれど、俺のことはやっぱり避けていて、
目の端がかすかに赤くなっていることから、泣かしてしまったのだろうかと罪悪感が押し寄せてくる。

(やっぱり謝らきゃ。)
もう友達に戻れないかもしれないけど…。

今日は放課後練習がないため、放課後にでも言えればいいが、
朝練中、栄口は俺を避けていて話す機会を与えてくれない。

練習後、栄口に話しかけようとすると、栄口はすでに着替えが終わっていて、
「巣山!オレ先に行ってる!!」
といって部室を出て行った。

(このままだと、何も言えない!)
そう思って、俺も慌てて部室を出た。

部室を出ると後姿が見えたので思わず叫んだが、栄口は後ろを見ないまま走り出した。
「今日の放課後部室で待ってるから!!ずっと!!」
俺の声は今日の青空に吸い込まれていった。







聞こえたかわからない。届いたかわからない。だけど、言わなければいけない。

放課後、栄口がいつ来てもいいように、俺は授業が終わると同時に教室を飛び出した。
早く部室に着いたのはいいが、栄口は一向に現れる気配がない。
(やっぱり来ないのかな…。)
俺はガシガシと頭をかくと、ロッカーに寄りかかりうずくまる。

(…栄口)
あの笑顔を思い出す。


俺の大好きな笑顔。

嫌われても、避けられても、あの笑顔だけは取り戻したい。
遠くからでいいから見ていたい。

「…大好きだよ。」

そう呟いた時、ギギギとぎこちない音を出しながら、部室のドアが開いた。