三回の、願い事
2つ目の願い事
いつも時間帯。
またいつもの様にチャイムが一つなった。
「いらっしゃい、帝人君」
「こんにちは。お邪魔しますね」
定番になりつつあるやり取りをして、いつもの様にソファーに誘導して目の前に温かいココアを置いた。
「なんか、日常になりつつあって面白いですね」
「そうだね。今まで帝人君がこんなに毎日俺の家に来ることなかったもんね。非日常が日常になる瞬間ってどう?非日常を求めている帝人君にとってはものたりないかな?」
自分でも少しいじわるかな?と思いつつも、俺にとってもこの日常になりつつある時間は、密かな安らぎになっているため、帝人君にとってもそうであってほしいという願望がそう言わせた。
「いえ、こういう日常はすごく嬉しいです。...僕今まで非日常にすごく憧れてたんですけど、日常の大切さを改めてわかったって言うか...失くしたからこそ気づいたというか...」
「帝人君...?」
帝人君の返答と一瞬かげった悲しげな表情に、言いようのない不安がつのった。
(何かおかしい...。何かのピースが足りてない...。なんだ?)
「って、あっ!!ごめんなさい!!なんか変な事いっちゃって!えーっと、早速願い事してもいいですか?」
考えはじめた俺の意識を遮るように、ことさら明るく帝人君が声をあげた。
「え?あぁ....うん、いいよ」
”考えろ”という得も知れない気持ちもあったけれども、とりあえず今は帝人君のお願いの方を優先させようと思い、その思いを頭の隅の方によせた。
(まぁ、詳しくは帝人君が帰ってからでいっか。今はまた俺に不思議な気持ちをくれるかもしれない帝人君の願いが優先だよね)
「えっと...言いにくいんですけど...僕の名前を呼んでキス...してください...」
「え...?キ、キスって帝人君...君、ホモだったの?てっきり園原杏里に恋心よせてる童貞君だとばかり思ってたけど...?」
「ど、童貞って!!?た、確かにそ、そうですけど...。ってち、ちがっ!!僕はホモとかじゃなくて!!え、えっと、そ、その!!」
昨日に引き続き意外すぎるお願いに思わず茫然としてしまった。
自分で言っていて何だけど、園原杏里の名前を出した瞬間、胸がズキリと軽く痛みを感じる。
そして、帝人君のお願いの真意が何となくわかり、さらに胸がズキリと痛みとともった。
(あぁ...そういうことか...。だったら帝人君の考えにのってやってもいいかな。でも、この胸の痛みはなんだ?さっきまでは楽しくて仕方なかったのに、今はなんか、ここが痛いな...)
「ふふふ~わかりますよぉ~。杏里ちゃんの練習にこの甘楽ちゃんを使おうっていう魂胆ですね!もう!太郎さんのイケズ~。甘楽ちゃんをそういう事に使おうなんて、甘楽ちゃん泣いちゃいますよ~」
「な、何いきなり甘楽さん化してるんですか?!!リアルで見るとかなり気持ち悪いんですけど...。って練習とかそういうのではなくって!あのですね...!!」
「あはは。酷いね。でも、うん、ほら______帝人君....」
焦りまくっている帝人君を不意に抱き寄せて、耳元で優しく名前を囁いてやるとビクッっと面白いくらいに体がはねた。
(囁いただけでビクつくなんてすっごく可愛い~)
「目を瞑って、少し上を向いてごらん」
「あ...は、はい...」
帝人君の顎のラインを静かになぞり、軽く上を向かせる。
そして、薄めの唇に軽くチュっと触れた後、舌で軽くなぞってやると、びっくりしたように開いた唇の隙間に舌を侵入させ、思いっきり口内を堪能する。
「っ...んっ...ぁ...」
鼻にかかった様な甘い帝人の吐息に、止まらなくなり夢中でむさぼる。
思わず逃げる帝君の舌を追いかけて、絡みつかせるとクチュと卑猥な水音が増していく。
(なにこれ...すっげぇ気持ちいい。気持ちいい!気持ちいい!!)
「んっ...はぁ....ぁ...っ...」
ずっとこうしていたい気持ちが強くなりつつも、チュっと最後に軽く舌を絡めた後、名残りおしつつも唇を離す。
(すっごいエロい顔...。もう一度キスしたいな...)
熱にうかされた表情があり得ないくらいの色気を醸し出していた。
そのままぼーっとしている帝人に心配になり声をかける。
「大丈夫、帝人君?」
「...あ....はぁ....ぁ...。だい、じょうぶです。あ、ありがとうございます。ぼ、僕帰りますね...」
「大丈夫じゃなくない?今日はこのまま泊まっていったら?」
「ありがとうございます。...でも、帰ります。お邪魔しました...」
心ここにあらずという感じでぼーっとしている帝人君に心配になったが、そのまま玄関に向かっていく帝人君を俺はつったたまま見送るしかなかった。
「帝人君にはああいったけど、帰ってくれてよかった。...ありえない...。帝人君相手に勃ってる俺が一番ありえない...」
茫然としたまま、二つ目の願い事はすぎていったのだった...。