こらぼでほすと 一撃5
付けて動いているほうが、余計なことは考えなくて済むらしい。で、坊主のほうも、「お
い」とか「あれ」とかで以心伝心する有能な女房をもらって、樂をしている。いわゆると
ころの割れ鍋に閉じ蓋夫婦というものだ。
「うちみたいな分担制とか無理だろうからなあ。」
「うちは、ふたりとも、そこそこできますからね。・・・・ねぇ、悟浄。たまには、僕に
朝のコーヒーなんて点てて頂けませんか? 」
「よろしいですよ? でも、もうちょっと抱き枕と寝かせて? 」
抱き枕は生きたイノブタなので、心地良い温度だ。それを背後から抱きついて、うなじ
あたりに鼻を擦りつける。しょうがありませんねーと、抱き枕のほうも、大人しく携帯を
閉じた。
アスランは、歌姫の本宅で、そのメールを受け取った。ああ、そうか、と、納得して、
それを知らせるために、歌姫の寝室に入る。昨晩、歌姫様は、キラをお持ち帰りしたので
、それに伴ってアスランも本宅で泊まったのだ。
「ラクス、キラ、ママがダウンした。」
そう、声をかけると、「「ええ」」 と、同時発言で、ふたりは飛び起きた。うとうと
していただけらしい。
「でも、アマギさんがトダカさんの看護で滞在しているから、問題はないみたいだよ?
」
薄いカーテンだけだが、外は薄暗い。あらあら、と、歌姫は窓のほうを見ている。キラ
も、あーあーと同じ様に声を出す。雨が、パラパラと降っている。
「アスラン、ドクターは往診に? 」
「まだ確認していない。」
では、確認を、と、歌姫がサイドテーブルの内線を繋ぐ。連絡は入っていて、午後から
往診に向かうとの返事だ。
「キラは、どうします? 」
「一緒に行こうか? ラクス。お見舞いは、メロンかな? 」
「召し上がられませんよ? お花は? 」
「ママ、もったいないって怒るんだよねー。」
その会話を拾っていたアスランは、どうもトダカ家に遠征するつもりだと気付いて、や
めさせた。具合が悪い時に、大明神様の天然電波は厳しい。
「キラ、ラクス、今日は、やめておけ。予定がある。」
こういう休みは、少ないので、歌姫様と大明神様は揃って、お出かけの予定だ。すでに
、その警護体制も整えているから変更するのも面倒だ。
「せっかく、野鳥園を貸し切ったんだから、楽しめばどうだ? 見舞いは、俺がしておく
からさ。」
で、なぜか、キラのダーリンのはずのアスランは不参加だ。歌姫様とのデートに付き添
うほどのことはない。
「じゃあ、メロンね? アスラン。」
「私くしからは、花籠を。匂いの柔らかいものにしてくださいませ。」
ふたりの希望を聞くと、はいはい、と、アスランも頷いた。まあ、たまにしか、歌姫は
キラと過ごせないから、それは止めるつもりはない。キラ欠乏症を引き起こされたら、人
類が滅ぶかもしれないし、その気持ちは、アスランにも解りすぎるほどわかるからだ。
「じゃあ、メロンと花を持参するか。」
一日フリーなので、アスランは、くはぁーと背伸びして、外出の準備をする。キラは、
今夜、マンションに帰って来る。それまでの暇つぶしには、ちょうどいい。
レイが、八戒の回覧板メールに気づいたのは、トダカ家のエレベーターの中だ。慌てな
くてもいいとわかって、ほっとした。
「シン、アマギさんが来ているそうだ。」
「そうか、それなら大丈夫かな。」
ニールは、無理をする傾向にある。それに、トダカもニールの具合が悪ければ、オチオ
チ寝ても居られない。だから、慌てたのだが、アマギが居てくれるなら、どうにかなって
んだろうと、勝手に家に入ったら、静かだ。人の気配がない。あれ? と、とりあえず、
レイは、ニールの部屋を覗いたら、そこに、トダカが椅子に座って読書しているなんてこ
とになっていた。
「トットダカさん? 」
「とうさん? 」
ふたりして、小さめの声を上げたら、「おや? 」 と、ぎっくり腰の義理の父は、本
から目を上げた。
「どうかしたのかい? ふたりとも。」
今日は、ウィークデーで、ふたりとも学校がある。それなのに、こんな時間に顔を出し
たから、トダカは驚いている。
「なんで座ってるの? 寝てなきゃダメだろ?」
「いや、こういう堅い椅子なら座っていてもいいんだ。」
「ママは、どうなんですか? 」
「ちょっと熱があるんで、午後からドクターが往診してくれる。まあ、疲れたんだと思う
よ。」
それで、雨でダウンするニールと、ぎっくり腰の自分を心配して駆けつけて来たと、ト
ダカも気付いた。
「心配しなくても、アマギが看病してくれている。」
終始、付き添っているような大怪我ではないので、アマギは午前中は、仕事に出た。い
きなり休暇申請しても、やはり、いろいろと不都合はあったらしい。ニールのほうは、店
の手伝いやら看護やらの疲れとフェルトが帰った気落ちで、熱も出した。解熱剤だけ飲ま
せて額には冷えピタという格好で、ニールは寝ている。
「なんで、とうさんは、ここにいるんだよ? 」
それなら、このまま寝かせておけばいいんじゃないか、と、シンが言うと、トダカはク
スクスと笑う。
「うちの娘さん、寂しがり屋だろ? 目を覚まして誰も居ないのも、可哀想だと思ってね
。」
「子供じゃないんだから、そこまでしなくてもいいって。それより、とうさん、横になり
なよ? ぶり返したら、クセになるって聞いたぜ? 」
「それなら、俺が付き添います。ママのほうは、任せてください。」
シンとレイが、ぎゃんぎゃん喚くので、トダカも腰を上げた。これでは、ニールが目を
覚ますと心配したからだ。ゆるゆると動いて、食卓の椅子に座る。居間のソファは痛いら
しい。
「おまえたち、学校だろ? うちはいいから行きなさい。」
「今日は、ゼミじゃねぇーからいい。」
「俺も一日くらい大丈夫です。」
「ダメダメ、こんなことで出席日数が足りなくなったら、どうするんだ? まだ、これか
ら、いろいろとあるんだぞ? そのためにも、行ける時は行くべきだ。」
「吉祥富貴」の関係で、厳戒態勢になったら、MS組は、ラボに出張ることになる。態
勢が解除されるまでは、学校だとか店だとかは休むしかない。だから、普段は、なるべく
欠席をしないように、シンとレイも心がけている。
「でもさ。」
「シン、レイ、これぐらいのことは大したことじゃないだろ? だいたい、ニールは雨は
ダメなのは、いつものことだ。別に、私が付き添ってやりたかっただけだから、いいんだ
。ほら、行って来なさい。」
そう言われると、そうだから、シンもレイも立ち上がる。ニールは、いつものことだ。
それに、アマギが居てくれる。そうなると、無理矢理居座るほどのことはない。
「じゃあ、終わったら、また顔を出す。それならいいだろ? 」
「ああ、それならかまわない。そうだ、果物を適当に見繕って来てくれないか? 」
「わかりました。食事のほうはいいんですか? 」
作品名:こらぼでほすと 一撃5 作家名:篠義