こらぼでほすと 一撃5
が顕著で、ハイネと同じ部屋で寝ている。まあ、ハイネよりはマシだろうと、シンも頷い
た。
「俺、二限目があるからさ。明日はバイトの前に立ち寄る。」
「俺もそうする。」
いつものことだが、桃色子猫が帰った直後だから、みな、気にしている。大抵、子猫た
ちが帰ると、ニールは寝込むからだ。それで、なんだかんだと言いつつ、みな、顔を出し
ている。
「ママ、飲み物です。」
シンと一緒に寝室に戻って、ニールを抱き起こす。そして、ペットボトルを見せたら、
「えーー」 と、嫌そうな悲鳴が吐き出された。
「それ、飲んだら、キラとアスランからの差し入れのメロンあるからさ。」
「はあ? 八戒さんも来たのか? 」
「うん、とうさんにも痛みが和らぐ漢方薬っていうのを配達してくれたぜ。とうさんは、
苦そうな顔はしたけど、ちゃんと飲んだから。ねーさんも飲め。」
飲ませろ、と、レイに視線で合図すると、レイもペットボトルをニールの口につけて傾
ける。こくこくと飲ませて、口を離すと、べぇーと舌を出している。そこへ、シンがタッ
パーから果肉だけを口に放り込む。それを飲み込んだら、また、ペットボトルという具合
に、何度かに分けて飲ませた。
「・・・あのさ・・・これ・・・イジメ・・・」
「身体にはいいんです。我慢してください。」
「あとさ、そこの花はオーナーからだって。」
サイドテーブルに飾られている花篭は、優しい色合いのもので、微かに香りもする。
気を遣わせたなあ、と、ニールは苦笑している。
「今日は、俺がここに泊まりますから、何かあったら起こしてください。」
「・・・いいよ、レイ・・・」
「いえ、俺もママと一緒に過ごしたいだけです。ダメですか?」
「ダメじゃないけどな。学校は大丈夫か? 」
「登校には間に合います。」
それならいいよ、と、親猫が認めてくれたので、レイも嬉しそうに微笑む。なかなか、
そんなこと言えなくて、初めて一緒に寝られるのが嬉しい。そんなレイに、シンも釣られ
て微笑む。
さて、トダカ家のマンションの前に、とんでもないのが対峙していた。キラを送ってト
ダカ家にやって来た歌姫様と、どっかの某議長様が、そこで鉢合わせしていたからだ。
「こんなところで、何をなさっておいでです? 」
「トダカさんのお見舞いに寄せていただいたんだが? 何か? 」
「申し訳ありませんが、トダカさんは安静ですの。」
「もちろん、レイの後見をしてくださっているお礼を申し上げて、早々に退散するつもり
だ。それなら、あなたは?」
「私くしもお見舞いです。」
「では、ご一緒に? 」
「ええ、では、ご一緒に? 」
歌姫様は視線で、ヒルダに指示を飛ばす。心得ているヒルダは、先に、エレベーターで
先行する。トダカの見舞いはいいのだが、問題点はニールだ。挨拶したいとかぬかしたら
しいので、そちらは警戒する。
「ヘルベルトさん、マーズさん、実力行使で結構です。」
こそっと指示を出して、優雅に歌姫も降りてきたエレベーターに乗り込む。はいよ、と
、護衛の二人も視線で了解と返事する。
「レイ、シン、ちょっと来い。」
アマギがニールの部屋に声をかける。出てきたふたりに、来訪者を告げると、揃ってイ
ヤな顔をする。
「それってさ、とうさんの見舞いにかこつけて、ねーさんを見たいとかなんとかじゃない
の? 」
「おそらくはな。とりあえず、トダカさんに挨拶だけして帰っていただくつもりだから、
ニールのことは何も言うな。」
ものすごーく優秀な執政者なのに、その性癖が、とっても残念な人なので、レイも、こ
ればかりは認められない。綺麗な人が大好きなのだ。それはいいっちゃーいいのだが、人
のもの他人のパートナーなんてものもスルーするから性質が悪い。
「トダカさん、いつもレイがお世話になり感謝の言葉もありません。」
やってきた、どつかの議長様は、恭しくトダカに頭を下げる。さすがに、玄関先で帰っ
ていただくわけにはいかないから、一応、居間で挨拶は受けた。ただし、トダカはソファ
に座れないから、立ったままだ。
「こちらこそ、シンに格別のご配慮をいただいて、ありがとうございます。」
「お身体はいかがですか? キラくんのパーティーにいらっしゃらないので心配になりま
した。」
「いえ、ただのぎっくり腰ですから、気にされることはありません。」
奥へ進む廊下には、ヘルベルトとマーズが仁王立ちだ。ヒルダは歌姫の護衛に専念して
いる。イザークとディアッカは、外で待機だ。議長のほうも護衛は連れているが、家にま
では入れていない。
「レイが、あなたの娘さんに、とても可愛がってもらっていると聞きまして、是非、その
お礼を申し上げたいとも思っておりました。」
「ああ、うちの娘は・・・・・今は、ちょっと。」
こんなのと対面させるのも、どうかと、父親も思うわけで、トダカは、ヘラヘラと笑い
つつスルーした。
「そうですか。それは残念です。トダカさん、顔色が悪いのではありませんか? いけま
せんな。さあ、寝室へ。」
勝手に、トダカの背中に手を置いて、さあさあと寝室へ送ります、とか、歩き出す。ま
あ、そういうことにして引き取っていただこうと、トダカも寝室へ移動する。そこで、ひ
とつ奥の部屋に視線を、全員が投げてしまった。
「なるほど。失礼。」
トダカから手を離すと、スタスタと議長は勝手に奥の部屋の扉を開いた。開いた音で、
ニールも目を開けた。で、すかさず近寄ってきた顔が、どっかの議長様のナマモノで、び
っくりした。
「うわぁっっ。」
「なるほど、本当に具合が悪いのですね? レイのママ。」
ちょお、おまえっっ、ごらぁぁぁーと護衛陣が駆け込む前に、シンとレイが動いている
。
「ギル、いい加減にしてください。大変失礼です。俺のママは、具合が悪いのに、部屋に
乱入するとは、何事ですかっっ。」
「ギルさん、早く出て行って。」
シンとレイが、間に割って入る。同時に歌姫の鶴の一声だ。
「ヘルベルトさん、マーズさん、叩き出してください。」
はいよ、と、議長の襟首をマーズが掴むと引き摺りだす。ヘルベルトが玄関を開けて、
エレベーターを呼び、その中へ叩き込んで開閉ボタンを押す。
「なぜ、懲りないんだろうな? 」
「だから、執政者なんてやってられるんじゃないか? 」
「ちげぇーねー。」
エレベーターが降下するのを確認すると、ヘルベルトとマーズもトダカ家に戻った。中
では、あれ、ナマモノ? 生だろ? おまえら、何やってんだよーっっ、と、ニールは慌
てていたが、歌姫が、「ママ、オフのあれは、ただの変態です。気にしなくてよろしいで
す。」 と、爽やかな笑顔で説明していた。おそらく後日、さらなる報復が行われること
は確定だ。
歌姫様ご一行も、騒ぎの後で挨拶だけして、すぐに帰ったので、南国のスコールのよう
に、すぐに静かになった。
「気分はいかがです? 」
作品名:こらぼでほすと 一撃5 作家名:篠義