こらぼでほすと 一撃5
た。そして、さらに、「俺のママ」が、増えて、それが柔らかくなった。その変化を引き
起こしてくれたことについては、感謝したかったらしい。
「そういうものを、押し込めさせてしまったのは、私だ。だから、それを取り戻してくれ
たことに感謝したかった。ありがとう、レイのママさん。」
両手で、ぎゅっとニールの手を掴む議長様は、真面目に礼を告げているらしいのだが、
態度が不穏だから、トダカが、その手を剥がす。
「そうはおっしゃられても、俺は、これといっては、何もしていません。」
おかん代わりはすると言ったが、これといって、何かやっているか、と、言われたら、
さあ? と、ニールは返すしかない。おやつを食べさせたり、一緒に買い物に出かけたり
、そんなことぐらいしかしていないからだ。
「うちの娘さんがやっていることは、家族があれば、母親がするようなことだけですが、
レイには何よりのことなんでしょう。そちらは、レイが、こちらにいる限りは、世話して
くれますよ、ギルさん。」
「それは残念だ、できれば、レイが、プラントに戻る際には、是非、ご一緒していただき
たいのに。」
「あはははは・・・・この子は、結婚してますし、私も、なるべく近いところに置いてお
きたいので、それはできません。」
「なるぼと、トダカさんの掌中の珠ですか。」
「そうなりますかね。」
すいません、あんたたち、俺の性別を、ちゃんと把握してトークしてませんよね? と
、ニールは内心でツッコミつつ、煎茶を出す。180オーバーの男だってーのに、そこを
スルーすんの、いい加減やめてくんない? と、頬を引き攣らせているが、トダカも議長
も、穏やかに会話を続けている。
「人妻というのは、そそる単語だ。」
「ギルさん、この子の亭主は、コーディネーターではありませんが、コーディネーターよ
り実戦では強い男です。あなたじゃ殺されます。」
「それはそれは・・・・高嶺の花なのですね? トダカさん。」
「可愛い娘にとっては三国一の花婿だと、私は喜んでいます。」
これが、俺の話じゃなかったら、聞き流せるんだけどなーと、ニールは俯いて聞いてい
たが、時間がなくなったらしい。議長が立ち上がる。
「これからも、レイのことをよろしくお願いします。」
「ええ、喜んで。」
「では、トダカさん、レイのママさん、ごきげんよう。」
来た時と同様に、唐突に議長は帰った。ふはーとニールが肩の力を抜く。「吉祥富貴」
は、普通ではない。その関係者も普通ではない。それには、随分と慣れたつもりだが、あ
んまり生モノは逢いたくない。
「やっぱり、きみも好みの範囲には入っているみたいだね? ニール。」
ずずっと、娘の煎れてくれたお茶を飲みながら、トダカの爆弾発言だ。
「あの、トダカさん? あの人、俺のこと、男だって、ちゃんと認識してんですよね?
」
「ああ、もちろんだ。けど、人妻だろ? それで、レイのママだ。攻略対象キャラ認定は
したみたいだから、気をつけなさい、娘さん。・・・・まあ、きみの亭主と連れ子は最強
だから心配はないと思うけどね。」
MSではなく対人間ということになると、坊主とサルのコンビで、議長とその護衛なん
て、簡単に蹴散らしてしまえる。それに、議長は、滅多に地上には降りてこないから、ち
ょっかいはかけられないはずだ。
「トダカさん、俺、結婚してないですよ? 」
「きみと三蔵さん、いいコンビだから、結婚したってことにしておきなさい。」
「俺、可愛くないです。」
「可愛いよ、うちの娘さんは。」
いきなりで、びっくりしたねーと、暢気に茶を啜るトダカに、ニールが敵うはずはない
。
アマギが、買出しから帰ると、台所からいい匂いがする。夕食の材料は、ここにあるは
ずだが、と、台所に顔を出したら、食卓のホットプレートでトダカとニールが、何かを焼
いている。
「おかえりなさい。」
「何をやってるんだ? きみは。」
「シンたちが顔を出すって聞いたんで、おやつの用意をしてたんですよ。少し味見しませ
んか? アマギさん。」
焼いているものは、ホットケーキの小さいものに見える。アマギは、あまり甘いものは
食べないから断ったのだが、「甘くないのもあります。」 と、ニールが説明する。
「これは、ジャガイモのパンケーキなので、生地自体は甘くないんです。バターを塗って
みてください。」
で、用意されたものを、齧ってみると、確かに甘くない。柔らかいパンという感じだ。
トダカも少し摘まんでいるが、こちらにはアンチョビがトッピングされている。
「ビールかワインに合うと思うんだけどね? 娘さんや。」
「ダメです。腰が治るまではアルコール禁止って、ドクターが言いませんでしたか? 」
「ビールはね、炭酸飲料でアルコールじゃないんだ。」
「どんな屁理屈ですか? それは。」
アマギさんは、飲んでくださってもいいですよ? と、勧められたって、飲めるわけは
ない。いや、そうか、と、アマギが冷蔵庫から缶ビールを一本取り出す。そして、コップ
をふたつ。ニールが、背中を向けた瞬間を狙って、注いだビールをトダカに手渡した。
「アマギは、いい人だ。」
と、トダカは笑いつつ、それをごくごくと呑んでいる。ニールが振り向く頃には、半分
は無くなっている。
「ちょっ、アマギさん。」
「まあまあ、これぐらいなら炭酸飲料なんだ。大目にみてくれ。」
そして、さらにトダカのコップに注ぎ、残りを自分のコップに注ぐ。呆れた、という顔
だが、取り上げるとこまではしないらしい。「それだけですよ。」 と、注意して、さら
に、生地をホットプレートに流し込んでいる。
「さっき、ギルさんが来たよ、アマギ。」
「はいっっ? 」
「レイの後見の礼と、うちの娘さんの鑑賞にいらっしゃった。まあ、ニールは亭主持ちだ
と言っておいたから無茶はしないだろうさ。」
「ニールの鑑賞? また、おかしなことを。」
アマギにすれば、ニールは、ただの男で、トダカが子供同然に扱っているという認識だ
。確かに、イケメンの部類だろうが、鑑賞するほどとは思えない。
「ほら、アマギさんも、そういう意見でしょ? トダカさん。俺は攻略対象キャラじゃな
いですって。」
「人の好みは、それぞれなんだよ? 娘さん。」
「俺は、男に惚れられたことはありません。」
「ほおう? 鷹さんが、結構、本気で口説いてるだろ? それに、ハイネにプロポーズさ
れてるのは、違うのかい? 」
「あれは、冗談です。ハイネも、ノンケですよ? 」
もう、と、ニールはポンポンと言い返している。それを、トダカは楽しそうにからかっ
ているのだが、これだけ打ち解けていると、アマギも微笑ましいと頬が緩む。最初は、な
かなか本音がわからなかったからだ。アマギの買い出しの荷物を取り出して、整理しつつ
、パンケーキを焼いているのだが、時々、トダカがひっくり返してやっていたりする。か
なり完成品が、皿にあるのに、生地は、まだ残っている。
作品名:こらぼでほすと 一撃5 作家名:篠義