未定。
マスターより少し早めに起きて、自分の身支度を終えた。服は昨日マスターに買ってもらったものだ。
コーヒーを淹れて、パンをトーストする。お皿の上に置いて、カップを机の上に置けばマスターがリビングに入って来た。
「マスター、おはようございます」
「おはよう、カイト」
にっこりと笑ったマスターに、俺も笑い返した。
*
「じゃあ、行ってきます」
マスターは笑顔で俺の頭を軽く撫で、家を出た。
昨日、家に帰って来た後俺とマスターは夕ご飯を食べて、その時に色々と話をした。
俺が来る前までに俺のためにつくってくれた曲があること。今週の土日にそれを教えてくれること。
平日は毎日夜九時までには帰宅すること。夕ご飯は一緒に食べれるということ。
家にいる間は基本的に自由に生活してもいいが、誰かが家に来た時にはインターフォンで応対して玄関には出ないこと。
外に出かける時は昨日行った場所までで、わからない場所には行かないこと。行く時は十分に気をつけること。出来れば昨日買った帽子を被ってほしいとマスターは言った。
理由を聞いたら、「その青い髪は目立ってしまうから、変な事件に巻き込まれてしまうかもしれない」と不安そうな顔で俺に説明してくれた。
確かにボーカロイドは高価なため、まだ街中でもあまり見かけない。以前よりも一般的になったとはいえ、物珍しく思う人はいるだろう。
それと、暇だろうからノートパソコン使っていいよ、と言われた。この家にはパソコンが二台あって、俺をインストールしているのはデスクトップの方だそう。
ノートパソコンはマスターが調べ物をしたいときなどに使うので、容量はあまり使っていなくサクサク動く。
あと、俺から提案したことがある。
マスターが忙しそうだったから、家事などが出来るように設定されている俺は、家事をしてもいいかどうか聞いたのだ。
その時マスターは驚いたような顔をして、でも微笑んで、「ありがとう。してくれたら嬉しいな、助かるよ」と言った。
そこで「じゃあ俺が帰ってくるまでに夕ご飯つくってくれたら嬉しいな」と言って、夕ご飯の材料を買うためのお金を俺に渡した。
昼食は俺が食べなくても動けるということで、平日はマスターと一緒に食べられる朝食と夕食だけになった。
渡された財布の中に三万円ぐらい入っていたので、これを一週間分として渡したにしてもいくらなんでも多いんじゃないかと、マスターの金銭感覚に少し不安になった。
でも俺を買う時点でマスターは結構裕福なんだと思う。アンドロイドは購入だけでもかなりのお金がかかり、買えたとしても維持費がかかる。
それにマスターの家…昨日気づいたばかりだけど、マンションの最上階で、その階全部マスターの家のようだ。
防音室もあるそうで、調教の時はそこを使うと言っていた。マスターに聞いてはいないけれど、どんな仕事をしてるのか凄く気になる…というのが俺の本心。
洗濯物を干す。と言っても殆どなくて、昨日俺が来た服…もちろんコートとマフラー以外。それとマスターから借りた服と、マスターが来た服だけ。
そのためすぐ終わる。家事といえば洗濯、掃除、料理…ぐらいだし、掃除といっても、マスターの家は綺麗過ぎてすぐ終わってしまう。
マスター、一人でなんでも出来る人なんだろうなぁ…。少し寂しく思って、でもあまりにも生活感がないこの家自体を不思議に思った。
「マスター、あんまり家にいないのかな…?」
ぽつり呟いて見ても、この家に人はいないし返事が来るわけがない。
なんだか時間が凄く長く感じて、仕方なく俺は少し早いけれど買い物に出かけた。
うーん、今は“冬”だから……どうしようかなぁ。そう思いつつスーパーを歩いていると、冬といえば鍋!という宣伝文が。
よく見てみると魚介類のお鍋の出汁が売っていた。
これなら作れそうだと、ネットに『魚介類 鍋』と検索してみると、エビ・たら・鮭などが一般的らしいので買ってみた。
あとは白菜や豆腐など、必要なものを一通り揃え家に帰る。
家に帰って傷みやすい食材は冷蔵庫に入れ、なんとなく携帯を確認すると、マスターから「今日は七時に帰れるよ」とのメールが。
マスターの家には家電がないので俺に携帯を渡してくれた。どうやら俺の為に携帯を買ってくれたようだ。
「何かあったら電話していいからね。絶対出るから」と言われていた。そして、マスターも何かあれば電話かメールするねと言っていたのだ。
時計を見てみるとまだ二時だったので、やることもないので五時まで寝ることにした。
リビングにあるソファーで横になる。夜はマスターが与えてくれた部屋にあるベッドで寝ているけれど、今は少ししか寝ないのだし、ということでソファーだ。
体内時計でアラームをセットして、電気を消して横になり、スリープモードにした。