Good-by,hello
「初めて臨也さんの‘預言’が外れちゃった」
そう言って寂しげに笑った彼女。彼女のことは、愛してた。でもそれは過去だ。あいつと再会した時に、彼女との恋は終わったのだと悟ったのだから。
首から証を取り、頭を下げ謝る。沙樹は何も言わない。俺は頭を上げ、
「今までありがとう」
微笑んだ。
*
臨也さんに案内され、車で送って貰った。お礼を言い、綺麗に色が抜かれた髪を探す。いない、いない、いない。
「こっちだよ」
指差された場所を見ると――、
*
「バカだね、正臣」
ぽつりと呟いてみる。その声は案外小さくてか細くて、なんだか涙が出てきた。
あんな顔されたら、何も言えない。私が巻き込まれた【あの】事件から一度も浮かべられたことがない、柔らかい微笑み。私では決して浮かべさせることが出来ないモノ。
「ちょっと、悔しいなぁ」
閉じた目が熱い。
「好きだよ、正臣。今でも」
そう呟いて、しゃがみ込んだ。涙は出ない、嗚咽も零さないように飲み込んだ。
だって私には、その資格がないから。
――幸せになってね、正臣。
*
そこには文字の如くボロボロになった正臣がいた。足を引きずりながら、右手を左手で押さえながら、ゆっくりと歩いている。
「正臣ッ!」
慌てて駆け寄ればびっくりしたように開かれる瞳。
「帝人…?」
よく見ると額からも血がうっすらと滲んでいる。
「なん、でここに……」
そう言って辺りを見回し、臨也さんの姿を確認するとハッとしたように彼を鋭く睨む。
「あんた帝人に何かしたのか!?」
「俺はなんにもしてないよ」
「大丈夫だよ、正臣」
僕は正臣を安心させるために微笑む。
「正臣が此処にいるという情報を、僕達が再会する瞬間の人間観察を報酬に貰っただけだから」
両手を広げてゆっくりと抱きしめた。
「良かった……無事で」
涙が出そうになったけれど、瞼を閉じることで抑えた。
のろのろと片手が僕の背に回る。
「ごめん」
びくりと肩が揺れた。
「ごめん、帝人」
あやすような優しい声で耳元に囁かれる。涙が頬を伝い、顎で落ちた。
「ホン、トだよ……バカ臣」
そう反論した声は弱かった、けれど正臣は聞こえたようで――抱きしめる力が強くなった。暖かい。正臣がちゃんと、此処にいる。
作品名:Good-by,hello 作家名:普(あまね)