Good-by,hello
正門に行くと人影。あれは、
「杏里っ」
俺が名前を呼ぶと彼女はこちらを見て、穏やかに微笑んだ。
「紀田くん、速いですね」
「へ?」
「いいえ、なんでもありません。お疲れ様です」
「?…あ、あぁ」
「次はジュンク堂書店前です。頑張ってくださいね」
「…ああ、サンキュな!」
*
ワゴン車。この車でこの場所ということは、いる人達は決まっているようなものだ。
「門田さん」
「紀田か。おつかれ」
「ありがとうございます」
「次は…折原臨也の事務所だ」
「!」
「次でラストだ、頑張って来いよ」
「……はいっ」
「姫を救出するために騎士はラスボスの元へ。果たして騎士は姫を救出出来るのか!?ってとこかな」
「そういうのも好きなんスかー?」
彼が去ったあと、彼らの状況を彼女らしく二次元的に表した。そして一つの問いに対しにぱっと明るく笑う。
*
やはりまたあいつの仕業なのだろうか。走りつづけてそろそろ限界が近づいた足。汗ばんで冷たくなった服がなんだか嫌な予感をもたらす。でも道標をしてくれた人達から嫌な予感はしなかった。だから、帝人は無事なはずだ。――無事でいてくれ、帝人。
「やあ、待ってたよ」
男はパソコンの前の椅子に足を組んで座っている。口元だけ笑みを象った綺麗な笑みは、彼の本質を知っている者には不気味にしか見えない。
「あんたの仕業なのか?」
「違うよ。それは、違う」
くすりと小さく笑って、かぶりを振る。そして肩を竦めた。
「本当に彼は面白いよねえ。俺にも計り知れないよ」
「……?」
彼の言うことを理解出来ず、顔をしかめて首を傾げた。
「そう急ぐなよ。詳しいことは直接本人に聞けばいいだろ?」
「帝人は…っ、無事なのか?」
問いに対して一瞬きょとんとした顔をした。彼がこんな顔をするなんて珍しい、とぼんやり思っていると
「ははっ、なに言ってるの?心配するだけ無駄だよ、無事どころかピンピンしてるんだからさ」
そう言ってニヤリと笑う。
「次は池袋駅前だよ。念願の彼にやっと会えるね?」
赤い瞳がゆったりと細められた。
作品名:Good-by,hello 作家名:普(あまね)