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赫く散る花 - 銀時 -

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 桂の部屋に行くのはどうしても夜が多くなり、遅い時間から勉強を始め、昼間の疲れもあってつい眠ってしまい、気がつけば朝ということもしばしばだった。
 他の者たちは桂の部屋でふたりがなにをしているのかを知らず、軍に下世話な噂が流れたこともあった。銀時も桂も、その噂を耳にしても否定せずにいた。すると、あのふたりはそういった関係だと誤解したまま、時を経るのに従い、誰もそのことを特に言わなくなった。
 そして。
 あれは冬だった。
 まえの晩から雪が激しく降り続いていて、午でもあたりは薄暗く、寒かった。
 そんな日に、銀時は初めて手紙を書いた。桂への礼の手紙である。謝る必要はないと言われたが、感謝の念は伝えておきたかった。口で言ってしまえば簡単だが、いつもその機会を逃してしまうのだ。それに教えられたことを実際に使ってみたいということもあった。
 けれど、いざ書き始めてみると妙に気恥ずかしく、なかなか筆が進まなかった。
 ようやく書きあがると、それを持って桂の部屋に行った。
 障子を開けてなかに入り、銀時のほうを向いた桂のまえに無造作に腰を降ろした。桂を見ずにあぐらをかき、それから、手紙を桂に押しつけた。
『……なんだ?』
 そう問いかける桂の声は困惑していた。
 顔は横に向けたまま、銀時は眼だけ動かして桂を見た。
 桂は眉根を寄せていた。しかし、待っていても問いかけに対する答えは返ってこないと判断したらしく、不機嫌そうな表情で手紙を正座している膝の上に広げた。
 その視線が手紙の上に落ちた。
 だから、銀時はこっそりと顔を正面に向け、桂の表情を観察した。
 手紙には書いた本人も下手だと認めるしかない字が並んでいた。
 それを桂は読み進め、一瞬、すべての動作を静止させた。呼吸すら止めた。
 手紙の内容に驚いている、といった様子だった。
 だが。
 次の瞬間には、表情が一変した。
 笑ったのだ。
 いつものように眼だけ、あるいは口の端だけでかすかに笑うのではなく。
 それは、ふわりと花が咲いたような、晴れやかな笑みだった。







 諦めようとは、ずっと思っていた。
 攘夷戦争が終結し、心がもうボロボロで、軍を抜けた時、これで諦められると思った。
 この醜い物思いからやっと解放されるのだと思った。
 離れていれば、時が経てば、忘れられる。
 そう信じていた。
 のに。
   









作品名:赫く散る花 - 銀時 - 作家名:hujio