赫く散る花 - 銀時 -
二、
朝。
銀時と桂は津倉屋惣兵衛の屋敷の門を遠くから見ていた。
新八と神楽は別行動である。
銀時たちは津倉屋惣兵衛の行動を追い、新八たちはどうにかして津倉屋で仕事を見つけて働くことになった。
驚いたことに桂は車を運転して待ち合わせ場所であるこの屋敷のまえに現れた。惣兵衛はおそらく車で移動するだろうから、と。
ひんやりとした空気のなか待っていると、屋敷の門から黒塗りの車が出てきた。
さっそく、近くに止めてあった車に戻り、銀時は助手席に、桂は運転席に乗り込む。
ふと、銀時はあることが気になった。
「そういや、オメー、免許持ってんのか?」
「俺を誰だと思っている?」
「ヅラ」
「ヅラじゃない、桂だ」
「じゃなくて、免許の話だろ」
「だから、俺は指名手配犯だと言っている」
えらそうな表情で桂はフンと鼻を鳴らした。
銀時ははっとする。
「……って、免許取れるわけねーだろ! 代われ、今すぐ、俺に代われ。俺ァ、普通免許、持ってんだ!」
「心配するな。無事にここまで来たのだから、これから先も大丈夫だ」
「なんだそれ、メチャクチャいい加減な根拠じゃねーか!」
そう銀時は吼えたが、桂は無視して車を発進させた。
惣兵衛を乗せた車は津倉屋の本社ビルの駐車場に入っていった。
同じように駐車場に行くには許可がいるらしいので、仕方なく、駐車場近くに車を止めて、惣兵衛がビルから出てくるのを待った。
もしかして日が暮れるまでずっとこの状態なのかと、銀時は暗い気分になった。
あまりにも退屈だったので、銀時は車から降り、コンビニに昼食を買いに行くついでに少年漫画雑誌も入手してきた。
桂はといえば、この状況を予測していたのか本を持ってきていて、それを読んでいた。兵法についての小難しそうな本だ。
そんなふうに午前中は過ぎていった。
昼になると、銀時がさきほどコンビニで購入してきた弁当を食べ、食べ終わると、なんだか瞼が重くなってきた。
どうせ暇だと思い、そのまま寝てしまう。
心地良い微睡み。
しかし。
「銀時!」
桂の声がした。
呼ばれているのはわかっているが、もう少し眠っていたいという欲求を優先させ、眼を閉じたままでいる。
すると、桂は銀時の肩をつかんで乱暴に揺さぶった。
「銀時、起きろ! 惣兵衛が動いたぞ!」
これには、さすがに眼が完全に覚めた。
尾行していくと、惣兵衛の車は市街を離れて田園風景のなかを進んだ。
建物が減り、その代わりに、刈り取りの済んだ田圃が広がるようになってからは、桂は慎重になり、惣兵衛の車からかなり距離を空けるようになった。
やがて、惣兵衛の車は寺のまえで動きを止めた。
それに合わせて、桂も車を止めた。惣兵衛の車からは人家に隠れてしまって見えない場所に。そこから、惣兵衛の動向を窺う。
車の助手席のドアが開いて黒いスーツの男が降り、後部座席のドアのほうに行って、そのドアを開けた。なかから風呂敷包みを持った惣兵衛が出てくる。その間に、運転席からやはり黒いスーツを着た男が降りて、車の後方へ行き、トランクを空けて中から包みを取り出した。惣兵衛のためにドアを開けた男もトランクのほうへ行って、包みを取り出した。黒いスーツの男ふたりがそれぞれ包みを持って惣兵衛のほうに行くと、それを待っていたかのように、惣兵衛は歩き出す。三人は寺の門をくぐった。
三人が寺のなかに入ってしまってから、銀時は桂を見た。桂もちょうど銀時のほうを見た。眼が合う。
作品名:赫く散る花 - 銀時 - 作家名:hujio