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赫く散る花 - 銀時 -

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「……は?」
 桂は眉間にしわを寄せた。
 そりゃ困惑するよな、と銀時は思う。ずいぶんと突飛なことを言ったと自分でも感じる。
 けれど、冗談だったと打ち消したりはせず、桂の顔をじっと見た。桂がなにか言わなければ、銀時はなにも喋らないつもりである。
 自分の言ったことは確かに奇異なものだった。だが、ずっと聞いてみたかったことでもあり、それが、今、突然口から飛びだしてしまっただけなのだ。
 以前、銀時は野良犬だった。
 たった一匹で誰にも頼らず生きていた。
 もしかすると、認めたくないことだが、飼い主を捜していたのかも知れない。
 あてもなく歩きまわって。
 ずっと一匹で。
 世界には暗闇が果てしなく続いていて。
 それが永遠に続くように思えた。
 しかし、ある日、手が差し伸べられた。
 突然のことに警戒して動かずにいると、手のほうがゆっくりと近づいてきて、そして、触れた。
 初めて、自分の世界に明るいものがあると知った。
 それを教えてくれた手の持ち主は、銀時を飼い犬にすることもできた。言うことをなんでも聞く、飼い主のためなら進んで命すら投げだす、忠実な犬に。
 けれども、手の持ち主はそうしようとしなかった。人として、対等な人として接した。
 だから、銀時は野良犬から人になった。
 桂は銀時を自分の犬にすることができた。惣兵衛が子供たちを自分に対して絶対服従な人間に育てているように。
 だが、桂はそうしなかった。
 それはなぜなのかを、ずっと聞いてみたかったのだ。
「……どういう意味だ?」
 車内の重苦しい空気を破って、桂が言葉を発した。
 桂の表情から、その台詞に嘘がないことが感じられた。銀時の言ったことの意味が本当にわからないのだ。
 銀時は視線を逸らし、助手席に深々と身体を沈めた。
「……意味は自分で考えろ」
 説明なんか、しようがない。
 そう思い、銀時は黙りこんだ。
 すると。
「……お前の考えることは昔からよくわからん」
 不満そうな声で桂はぽつりと言った。
 それきりふたりともなにも話さず、車内はふたたび静かになった。
 桂はわかっていない。
 自分のしたことの重さがわかっていないのだ。
 それを、銀時は痛感した。
 桂にしてみれば、飢え死に寸前の者に食べ物を与えるような、あたりまえのことをしただけなのだろう。だから、無頓着なのだ。
 しかし、極限状態の時に助けられた者にしてみれば、たとえそれが人としてあたりまえの行為であったとしても、一生、心に刻み込まれる。
 実際、銀時もそうだった。
 だが、と思う。
 だが、普通であれば与えられたものに対してなにか返そうとするはずであるのに、自分はその反対のことを望んでいる。
 与え返すのではなく、求めている。
 ひたすら、求めている。
 強欲、だと思う。

 惣兵衛が自宅に帰るのを見届けた。
 桂が運転していた車は借り物であったらしく、貸し主の駐車場まで置きに行き、そこから徒歩で万事屋に戻った。
 万事屋には新八と神楽がいた。
 新八たちは、屋敷から惣兵衛の妻らしき初老の女性が出てくるのを見て、ある計画を思いつき、それを実行したのだという。女性のまえで神楽が派手に倒れてみせたのだ。その神楽の横で新八は息も絶え絶えに、仕事がなくて金もなく、もう何日も食べていなくて、このままでは妹ともども死んでしまう、と言ったそうだ。そして、さらに、自分と妹のふたりでひとり分の給料でいいのでなにか仕事がほしい、と訴えた。その女性は新八の推測通り惣兵衛の妻であったらしく、その場でふたりを雇うことを決めてくれた。
 ふたりの仕事は屋敷内の清掃である。屋敷内に入り込めるのであるから、願ってもない仕事だった。
 今日さっそく働いてきたらしい。仕事は夕方までには終了するそうだ。
 だが、まだ働き始めた当日だから、特に収穫はなかったという。
 収穫がなかったのは銀時たちも同じことだった。
 そのため、この件に関する話し合いはすぐに終わった。
 会話が途切れた時、桂がソファから立ちあがった。帰るのである。
 しかし。
「銀時」
 ソファから二歩ほど行ったところで、専用の席にいる銀時をふり返った。
「一緒に来てくれぬか。話したいことがある」
 真っ直ぐな眼差し。
作品名:赫く散る花 - 銀時 - 作家名:hujio