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赫く散る花 - 銀時 -

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 桂が銀時を攘夷党に勧誘したのは、軽いやりとりを期待のことだったのだろう。その直前の話の流れからして、とうてい本気だとは思えない。
 それに。
 宇宙海賊春雨の一件で表面上は帳消しにしたが、池田屋の一件について、銀時はまだ腹立たしく思っている。
 なぜあんなまわりくどいやり方で銀時に接触してきたのか。
 それはつまり本気で戻ってきてほしいと思っていなかったからではないのか。
 仲間が銀時を白夜叉だと気づいて報告してきたから放っておけなかったとかそんな理由だったのではないのか。
 だから仕方なく、あんな方法で。
 いくら桂が鈍感であってもわかっていたはずだ。いちばん効果的なのは、銀時がひとりでいる時に桂がひとりで逢いに行って説得することだと。
 わからなかったはずがない。
 なぜなら。
 今まで一度だって、桂が本気で望んだことを銀時が聞かなかったことがないのだから。
 ただ素直に従ってきたわけではないが、いつもなんだかんだ文句はつけても最終的には桂の望み通りのことをしてやっていたはずだった。桂が真剣に頼んできたことを銀時が引き受けなかった時があると言うのなら、それがいつのことなのか教えてほしい。
 攘夷軍を離脱した時だってそうだ。
 天人軍の掃討作戦に各地の攘夷軍は壊滅的な状態に陥り、そして攘夷戦争は終結したと認識されるようになって。
 ある日、桂は支援者たちから多額の資金を引き出してくると仲間たちに分配した。分配すること自体は珍しくなかったが、それぞれに渡された金額がいつもよりはるかに大きかった。
 それ以来、軍を抜ける者が続々と出た。金に余裕があるから、当座はしのげるし、それを元手になにか新しいことを始められるかも知れなかった。
 だいたい、それが桂の意図したことだったのだろう。
 状況はこれ以上悪くなりようがないほどに悪くなった。だから、抜けるなら抜けろ、と。
 それは決して、抜けたいという気持ちを心の奥底に隠し持っていた者を切り捨てるということではなく。
 おそらく、逃れたい者は逃してやるつもりで。
 そして銀時も軍を抜けた。疲れていた。護れなかった命の多さに、無力感を覚えていた。心が、もう限界だった。
 けれど、それでも、もし桂が行かないでくれと必死で頼んだら、自分は行かなかっただろうと銀時は思う。
 たとえ心が耐えきれずに粉々に砕け散ってしまっても、桂のそばにいてやっただろう。
 銀時のなかにはそれほど強い想いがある。しかし、それを桂は知らない。銀時が隠しきっているからだが、時折、伝わらないことに無性に苛立ちを覚える。今がまさにそうだ。
 そう銀時が思った時、薬缶の口から蒸気が激しく噴きだした。
 桂はハッとした表情になると慌てて身体の向きを変え、火を止める。
「……仕方ない。白湯で我慢してやる」
 銀時を見ないまま、低く言った。

 応接間兼居間で、銀時と桂はテーブルを挟んで向かい合ってソファに座っている。
 桂はゆっくりと白湯を飲む。
 部屋のなかには気まずい空気が流れていた。
 意地の張り合いだ。
 そう銀時は感じる。
 お互い、今の状況が良いものだとは思っていない。それなのにどちらも改善しようとはしないし、退こうともしない。
 かたくなな気持ちは変わらず、ただ時が過ぎていくだけ。
 桂は湯呑みをテーブルに置いた。そして、銀時の眼を真っ直ぐに見る。
 その強い眼差しを銀時は受けとめる。
 コイツはなんで俺がいきなり不機嫌になったのか絶対わかってねェんだろうな、と思う。
 わけがわからないが睨んでくるなら睨み返す、そんなところかと推測する。
作品名:赫く散る花 - 銀時 - 作家名:hujio