赫く散る花 - 銀時 -
「……では、帰る」
「ああ」
そのやりとりの後、どちからともなく視線を逸らした。
桂が立ち上がる。
しかし、銀時はソファに腰かけたままだ。見送るつもりはない。
桂は身体の向きを変え、ソファとテーブルの間を進むと、部屋の障子のほうへ行く。
それを眼の端でとらえつつ、けれど銀時は動かない。
だが。
桂の歩く足が止まる。銀時も頭を動かしていた。音の聞こえてくるほうに。
階段を駆けあがってくる足音が外から聞こえてくる。その足音は万事屋の玄関のあたりで止まり、次の瞬間にはガラララッと勢いよく戸が開けられる音が響いた。
そしてふたたび足音。それはどんどんこの部屋に近づいてきて。
「ただいまヨ〜」
神楽が現れた。
張りつめていた空気が一気にゆるむ。
「アレ? ヅラが来てるネ」
「ヅラじゃない、桂だ」
「キノコ大量に採ってきたアルよ、ヅラも食べて帰るヨロシ」
神楽は得意気に言うと、持っていた手提げ袋をテーブルの上にドサッと置く。
金欠およびそれにともなう食糧難のため、神楽と新八は山へキノコ狩りに行っていたのである。
手提げ袋にぎっしり入ったキノコが見える。
「カラフルで綺麗なキノコばっかりアルよ!」
「……」
確かにうまそうだなとボケていい状況だろうか。ツッコミ担当の新八がまだ帰ってきていないけれど。
銀時は悩み、手提げ袋のほうに向けていた顔をあげる。桂と眼が合った。
「……俺には、食べるな危険という警告を発している色にしか見えぬのだが」
「ヅラ、おめー料理得意だったよな。なんとか食えるようにしてくれねーか」
「ヅラじゃない、桂だ。味を良くすることはできても、毒は毒だ」
「じゃあ、土産として持って帰ってくれ」
「なにが、土産だ! 貴様は俺に毒を押しつけるつもりか」
「ちょっと待つアル。銀ちゃん、私がせっかく採ってきたキノコ食べないつもりか。私の愛情がいっぱいつまったキノコ、食べてくれないアルか!?」
「そうだ、銀時。せっかく貴様のためにいたいけな少女が採ってきてくれたのだ。それを食わぬとは極悪非道」
「なにが、いたいけだ! こいつァ宇宙最強なんだぞ!」
神楽を指差し、桂に対して怒鳴る。
その直後。
また、外から、万事屋に近づいてくる足音が聞こえた。
新八だろう。
「そういや、神楽、なんでオメーだけ先に帰ってきたんだ?」
「新八は依頼人を説得してたからアルよ」
「い、依頼人?」
久々に聞く単語である。
神楽はこくりとうなづく。
「ウン。万事屋に相談しようかどうしようかって、道端で悩んでたのヨ」
なんだって、と銀時は眼を見張る。
それは大事な金ヅル、もとい食費、もとい万事屋の救世主ではないか。
意識を部屋の外から聞こえてくる物音に集中させる。
足音は二人分。新八以外の、男の話し声も聞こえた。
さよなら毒キノコ、と晴れ晴れとした気分で思う。
「……俺は帰るとしよう」
桂が告げた。ちょうど桂が帰ろうとした時に神楽が帰ってきたので足を止めただけであったし、それに依頼人が来た以上は万事屋は仕事となり桂は部外者となる。だから、当然の判断だ。
作品名:赫く散る花 - 銀時 - 作家名:hujio